第205話 互角


 「何度やっても無駄ですよ! 私にそんなものは効きませんからねぇ!」


 ルシフェルはオレの毒を何度もキュアーで治し、勢いづくように攻めてきた。


『おいっ! いいのかグレン? 奴め、調子くれやがって!』


 オレの中に焦りの気持ちが生じてくる。


 これはまずいんじゃないのか? 奴が調子づいたせいで、少しづつ押されてきやがる!


『今だ! 毒を吐いてくれ!』


 迫りくるルシフェルを遠ざける為にも毒を吐くが、奴はすぐに回復するため、全く効いているようには見えない。


『ヌンッ!!!』


 次の剣戟では奴の左腕をまた叩き切った。


 だが、当然の様にすぐに回復してくる。


『えぇい! きりがないグレン! 本当にこれでいいのかッ!』


 激昂するオレと違ってグレンは冷静だった。


『安心しろ、俺の攻撃とお前の毒は必ず効いてくる。それまでの辛抱だ! 今は耐えろッ!』


「さぁ、またしても仕切り直しのよぅな状態になっています! 果たして、勝負はどう動いていくのでさしょうか?」


「これはもう読めないですねぇ。どちらかの集中力が先に切れればそこで試合は決まるのでしょうが……、両者共に集中力は十分ありそうですからね」


 そして、ひたすらに格闘が続き、三十分が経過する頃、ようやく試合に変化が訪れた。


 お互いに切りあったのは胴の皮一枚。だが、ルシフェルはそれを回復せずにまた襲いかかってきたのだ。


『今だ! 毒を吐けッ!』


 グレン言うとおりにルシフェルに毒を浴びせる。奴は当然の様にキュアーで治すのだが……、


『む? ヒールは使わないのか? どうしたと言うのだ?』


 戸惑うオレに対し、グレンはさらに気合を入れて体を動かしていく。


『ここだッ! ニュート! ここで一気に我々が勝つぞ!』


『なんだと?』


 まるで勝利など見えてこないが、グレンはもう勝ったつもりなのか?


 グレンの指示通り、毒を再度吐き出す。すると、ルシフェルは明らかに眉を寄せて、嫌な顔をしたのだ。


『効いている……のか?』


『あぁ、ニュートの再生に比べ、奴の回復は魔力を大量に消費する。何度も繰り返し回復していれば、我らより早く魔力切れを起こしても不思議ではなかろう?』


 グレンはあくまでも冷静だった。


『なるほと、だが……まだ終わりそうにはないようだぞ?』


『むっ?』


 ルシフェルは手に持っていた剣をその場に落としたのだ。


 カラン……、と音をたて、ルシフェルの剣は今、舞台に転がっている。


 奴は空手になった。だが、オレの肌が泡立ち、無意識の警戒心が呼び起こされたのだ。


『この殺気……、さらにヤバい攻撃が来るぞっ!』


『前の試合で見せた、あの魔法の剣か?!』


 ルシフェルは空手のまま、突っ込んできた。そして手を上方から振り下ろした時、その手には光り輝く剣が握られていた。


『ぬぅん!』


 グレンは、冷静にその剣を受け止めた。だが、ルシフェルの左手にはさらにもう一本の輝く剣が現れたのだ。


 下からの振り上げに対応が間に合わず、胸が切り裂かれる。


「ぐわあああああっっっ!!!」


「な、なんとっ! ここでニュートが大出血だ〜〜〜!」


「ルシフェル先輩は両手にあの光の剣を出したんですね! さすがのニュートもいきなりのスタイルの変化についていけませんてしたね!」




 くっ……思ったより傷が深いな……。まぁ、傷はなんとかなる。問題はあの剣だ……。


『……ニュートよ……』


『あぁ、あの剣……、どうする?』


『俺は自らの体を分離し、ニ刀に分かれる事ができる。ただ、今よりも魔力が別れてしまうため、体のコントロールが出来なくなる。それでもいけそうか?』


『クックック……。誰に物を言っている。俺は元々、二刀流だぜ? 造作もないことよ』


『よし、今の冷静なお前ならば俺を使いこなすことも出来よう! 受け取れぃ! 我が分身を!』


 グレンの刀身く光に包まれた。


 舞台の誰もが目を開けられないほどの強烈な光が発せられ、そして、気がつけばオレの左手には少し短い長さの刀が握られていた。


『ほぅ! これが分身。こちらも相当な業物ではないか!』


『当然よ! すまんが体のコントロールを任せる。オレは、力を使いすぎたのでな……』


『あぁ、少しばかり待っていてくれ。すぐに特上の血を吸わせてやるからよぉ!』


「ニ、ニュートの剣が……二つに割れました〜〜〜ッ! 一体どうなっているんでしょう?!」


「大きい剣の魔力が大幅に減っています! 恐らくは魔力を分けて分裂させたのでしょうが……、この試合も予想外のことが起こり過ぎて解説するのが難しいですね!」


「魔力を分けたんですか! そんな事聞いたこともありませんッ! ただ、舞台ではそんなあり得ないことが現実に起きていますッ!!!」




「そうですか……、かなりやるとは思っていましたが……、まさかここまでやるとは思いませんでしたよ! 正直、嫌になりました」


 ルシフェルは肩を震わせながら呟いた。


「はんッ! お前なんかに認められたって嬉しくねぇんだよ! いい加減にトドメを刺してやるぜ……」


 オレはニ刀に別れたグレンを構え、ルシフェルと対峙するのだった。

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