第206話 グレンの反撃


 ルシフェルの持つニ刀が勢いよく襲いかかってくる。


「フンッ! この程度か!」


 オレはルシフェルの剣を全て捌ききり、奴の反対側に抜けていく。


『ほぅ!』


 声を上げたのはグレンだった。


『やるではないか! これなら安心して任せられそうだ』


 嬉しそうに語るグレン。


『あぁ、オレは二刀流が得意なんだ。それに……、グレンの太刀筋を随分と間近に見てきたからな。今のオレなら奴に劣ることもあるまい』


 ルシフェルはコチラを振り向いた。奴の左腕には今の剣戟でつけられた新しい傷から血が滴り落ちている。


「…………こ、この下等生物め。とうやら本当に死にたいらしいですね! 私の技を持って死をくれてやりましょう! 光栄に思いなさいッ!」


 ルシフェルは眉を寄せ、コメカミを引くつかせながら叫んだ。


「こ、これはーーー!!! ニュートも二刀流となり、ルシフェルと対峙しましたが、どうやら二刀流の腕はニュートのほうが上かもしれません! グレンは無傷ですが、ルシフェルは血を流しています!」


「私の手元にあるニュートの情報ではニュートは二刀流の戦士とありますから、元々、二刀流が得意だったんでしょう! ルシフェル先輩は今は二刀で構えていますが、万能型と言いますか、何でも器用にこなすタイプです。ですが、ここにきて熟練度の差が出てしまったんではないでしょうか?」




 ルシフェルは一見して、怒っているようだが、あの程度ではまだ、挑発の効果は見込めないだろうな……。


 事実、ルシフェルの攻撃には隙らしい隙はない。


 ただ、オレのほうが二刀流に慣れている分の差があるだけに過ぎない。


 この試合で何度目になるのかわからない程の交錯。ルシフェルの振り下ろしをグレンで受ける。すると、受け止めたはずのルシフェルの光の剣は、さらに光を増した。


「こ……、これは?」


 気づけばオレの左手がパックリと切れており、血が流れおちた。


『むっ? ニュートよ気をつけろ! あの男の剣、普通ではないぞ?』


『あぁ、どうやらそのようだな。光が広がればその分、切れる範囲が広がるってわけか……。何とも便利な剣を使いやがる』


 ルシフェルは顔をニヤつかせながら、こちらの様子を見ていた。


「クックック、いかがです? 私の剣の味は……、早くその顔を絶望の色に染め上げたい所ですが、まだ心を折るには余裕そうですからねぇ。じわじわとなぶって差し上げましょう!」


 全く……、天使のくせにとんでもない性格だぜ。これまではその圧倒的な実力で相手をなぶっていたのだろうがな。


 ルシフェルはさらに攻勢をかけてきた。


 あの光の剣、思っていたよりも刀身が広いことは間違いない。だが、それも分かってしまえば、対策は出来る。


 要は、相手の剣がオレの体の近くに来なければいいのだ。


 ルシフェルの剣を捌いていく。もちろん、奴の剣の射程にオレの体は入らない。


『むっ?! ますますやるではないか!』


 オレはルシフェルの攻撃を完璧に捌き切った。


 グレンに褒められるのは悪くない。何せ、グレンを手に入れてから、ずっとその熟練なの太刀筋を追ってきたのだ。


 さぁ、それではこちらの番だ。


 オレは肚に魔力を集める。もちろん、すぐにはぶっ放さない。


 次の剣戟、その時こそ、オレの仕掛ける時だ。


 ルシフェルはまだ、自分の剣が対策されたことにも気づいてはいないだろう。


 余裕に満ちたニヤけた顔つきでオレに斬りかかってくる。


 オレはその剣を受け止めた。


 今だっ!


「喰らいやがれっ!」


 オレの口から吐き出されるのは細く、黒い毒のブレス。


 すぐに回復が出来るルシフェルに最初から本気のブレスを吐いても無駄打ちに終わるだろう。だが、今の魔力が少なくなってきたルシフェルであれば、このブレスは有効なはずだ。


 オレのブレスは細く、出力を絞ったため、レーザーのように真っ直ぐにルシフェルの肩を貫いた。


「グオオオッッッ!!」


 ルシフェルの体が、吹き飛んでいく。


 手応えあり。奴はすぐに立ち上がった。そしてヒールとキュアーを使い、回復する。


「き……、きさまぁ……」


 ルシフェルの声が震え、怒りが沸き起こっているのがよくわかる。


 ここだ、ここで勝負を決める!


 剣を両手に構え、一瞬にして飛びかかってくるルシフェル。


 オレは、ここぞとばかりに大きく口を開いた。


 そして、飛び出すのは本気のブレス。


 その大きさはバハルの吐いた物と同等の極太かつ、強烈な一撃だ。


 本気の黒いブレスをマトモに受けたルシフェルは舞台の端まで吹き飛ばされ、壁に激突した。


 壁にはまるで隕石でもぶつかったかのようなすり鉢状の大穴があき、周囲を粉塵で覆い尽くすのであった。


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