第204話 剣戟


「お、お、お互いの左腕が、切り落とされました〜〜〜!!!」


「実力伯仲! まさに五分と五分というところですね!」


 解説者の言うとおり、オレの見立てでは実力は大差なさそうだ……。


『大丈夫か? グレン。いつでも交代するぜ?』


『……ま、まだまだよ! これしきの怪我など大したことないわ!』


 グレンの意志はまだまだ平気そうだな。となれば、オレは自分の仕事をするだけだ。


 切れた左腕に意識を集中し、魔力を集める。すると、みるみるうちに左腕が生えてくるように再生した。


『ありがたい、これでまだ戦える!』


 グレンの闘志にまた炎が灯ったようだ。


 オレはもともと蛇人族のスキルとして再生は持っていた。だが、先の試合でギガースの肉を喰らい、得たスキルは超速再生。


 本来の俺であれば数時間を要する再生も、この超速再生があれば、瞬時に再生が可能となったのだ。


 これで相手に対し、有利になっただろう。


 オレはルシフェルに視線をなげた。


「なっ!?」


 オレと同じように左腕を切られたはずッ! なぜだッ!


 ルシフェルの左腕はまるで何事も無かったかのように元通りになっていた。


「クックック……、アナタの再生もなかなかのものですねぇ……。ですが、私も回復魔法には少しばかり自信がありまして。さぁ、また始めましょう! とちらが先に死ぬのか。最高の勝負を!」


 ルシフェルは頬が釣り上がるほどに口の端をあげ、目を光らせた。


『コイツはマジで狂ってやがる! グレン! 気を抜くなよ?』


『誰に物を言っている! 俺に油断などない! 目にもの見せてくれるわ!』


 グレンはルシフェルに向かって駆けた。そして、次々と剣を放っていく。


「凄まじい攻撃ッ! そして流れるような連続攻撃ですッ! 解説がまるで追いつきませんッッッ!!!」




「むうッ!」


 オレの腹に赤い線が走る。もちろん、ルシフェルも脇腹からドッと血が吹き出した。


 だが、お互いの攻撃は止む事なく続いていく。オレは傷の再生に注力し、すぐに元通りにするのだが、足やら腕、終いには首にまで相手の刃が届いてくるのだ。


 ルシフェルも切られようがすぐに回復し、また斬りかかってくる。


 まるでエンドレスの戦いが始まるようであった。




   ***




「凄まじい戦いになってきたな……」


 隣で見ていたズールもこのハイレベルな戦いに興奮しているようだ。


「あぁ、どちらが勝ってもおかしく無いだろうし、どちらと戦うことになっても、大変な試合になるのは間違いなさそうだ」


 だが、ここでニュートに負けられる訳にはいかない。オレはニュートを倒すためにここまで来たのだ。


「ニュート……こんなところで負けるのは許さんっ!」


 いつの間にか、オレの手にも汗を握っているのだった。




   ***




「あああぁ〜〜〜ッ! ニュートの右足から血が吹き出しますッ! ルシフェルも左腕から激しい出血っ! これは凄まじい流血戦になりましたッ!」


「二人共に回復がとにかく早いですからね! 多少の怪我など関係ないんでしょう! 殺る気の攻撃ばかりですよ! 踏み込みの位置が深いので、相手に切られることを前提に攻撃してますね! 回復の得意なこの二人ならではの戦い方ということです!」


「なるほど! 怪我するのは前提として突っ込んでるわけですね! 何とも痛そうなやり方ですね!」


「もう二人共、痛みなんて感じてないんじゃないですかね? 興奮が高まりますと、痛みを感じにくくなると言いますからね!」




 解説者の言うとおり、オレはもう痛みなど感じていなかった。あるのはとにかく回復を急ぐこと。あとはグレンが奴に止めを刺すのを待つくらいだと思い始めていた時だった。


『ニュートよ、魔法は使えないか?』


『魔法? 生憎だが、オレは魔法は得意じゃない。毒を吐き出すのは得意だがな』


『それだッ! 隙を見て奴にブチかませッ!』


『それなら問題ない。任せておけ……、だが、奴に効くのか?』


『今すぐに効果は出ないだろうが……、効果が出たときに有利になるはずだ』


 首から上だけだが、オレが動かせるようになった。


 肚に魔力をため、毒を一瞬のうちに用意する。


『いつでもいいぜ! グレンよ!』


『ならば、次のタイミングだ! 合わせろッ!』


 グレンはルシフェルの剣を叩き上げるように、上方へ払った。その瞬間、ルシフェルの体が無防備な状態になる。


「喰らいやがれっ!」


 オレの吐いた毒霧はルシフェルの全身を包み込む。


「ああーーーッ! にの毒霧が、ルシフェルを襲った〜〜〜!」


 これでどうだ? いけすかねぇナルシスト野郎が……。


 だが、黒い霧の中からルシフェルの声が聞こえてくる。


「何かと思えば……、こんなくだらない事を。言っておきますが、私には状態異常など効きませよ?」


 霧の中から白い光が溢れ出していく。そして、霧を一瞬にして晴らしてしまうと、辺りはキラキラとキレイなパーティクルに包まれる。


「キュアーの魔法か……。チィッ!」


 オレは毒が全く効かないことに毒づいた。しかし……、


『よし……、いいぞ! もっとだ! その調子で頼むッ!』


 グレンはオレの毒が効いていないにも関わらず、さらに毒を仕掛けるよう、言ってくるのであった。


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