第201話 決着 三回戦第一試合


 ジークは折れた剣をじっと見つめていた。そして……


 カランッ……。


 手に持っていた剣をその場に落とすのだった。


 だが、ジークの戦意は落ちてはいなかった。


 拳を震わせ、ギュウッと握りしめ、そして俺をか赤い目で睨むと、ジークの体から膨大な魔力が立ち昇った。


「許さん……、ワシの剣を……、よくも!」


「アンタの不幸の元凶を断ち切ったんだ。もう少し喜んでくれると思ったんだがね?」


「バカなッ! あれが無くては神共へ復讐することが……、せめてキサマだけでも道連れにしてやるわッッッ!!!」


 ジークは膨大な魔力を使い、魔法を唱え始めた。


「こ、これは〜〜〜〜〜ッッッ! ジークの周りにいくつもの巨大魔法陣が描かれていきますーーーッ」


「さすがはリッチ! これほどの魔法とはッ! 一発の威力ではイヴリスのほうが上かも知れませんが、総合的な威力では五分になるかも知れません!」


「そ、それほど凄いんですかッッッ!!! 私にはもう何が何やらわからないけど、とにかく凄い数の魔法陣としか分かりませんッ!」


「あの巨大な魔法陣は一発一発が、超越級のものですが、それが一息に十発以上です! これはまだ分かりませんよッ!」




 俺はただ、静かに剣を構えた。


 ただあるままに、飛んでくる魔法を切り裂いていく。


 この刀は全てを斬ることができる。それはもちろん魔法とて例外ではない。


 迫りくる巨大な炎の塊。俺は一歩も動かずにその場に立ったまま、刀を振り下ろす。


 炎は刀の軌跡に沿って真っ二つに分かれ、俺の両脇に逸れていった。


 目に見えない風の刃も、刀を合わせるように下からきりあげた。それだけで遥か上空へと飛んでいく。


 次は下からのアースジャベリンだ。俺の体よりも遥かに太い槍が突き出てくる。が……、刀を地に向かって振り払えば、まるで最初から何も無かったかのように地面に戻っていった。


 上空からの巨大な氷に対しても俺が動く必要などなかった。


 その場から上に向かって刀を振れば、真空波が飛び、氷を粉微塵に砕いたのだ。


 ジークの魔法は確かに強力なものだった。だが、この刀をもった俺の敵ではなかったのだった。


「RENが次々と魔法を切り裂いていく〜〜〜ッッッ! 彼には、超越級魔法が通用しませんッッッ!!!」


「恐るべき刀を持っていたものです! 魔法が、まるで何もなかったかのように自然に消え去っていきますね! 私も永年色々な聖剣、神剣、魔剣を見てきましたが、これ程のモノは初めてお目にかかりました!」




「くうっ!!!」


 ジークは苦しそうな声を上げた。


 極大魔法は単発でも相当な魔力を消費するものだ。まして連発などしたら……。


「ま……、まだだっ! まだ終わってはおらん!」


 ジークはさらに魔法を放ってきた。しかし、もう最初の勢いはなく、放つ魔法も上級魔法となっていた。


 もはや刀を使うまでもなかった。バリヤーを張り、ゆっくりと歩く。


 ジークの魔法は次々と着弾していくが、俺のバリヤーを貫ける威力などもう残ってはいなかった。


 そして、ジークの目の前まで来たとき、奴は項垂れながら両膝を地面に着くのだった。


 舞台が静まり返り、実況も言葉を失っていた。


「殺せ」


 ジークはただ一言呟き、動かない。


「負けを認め、引くつもりはないのか?」


 俺とてこの馬鹿げたトーナメントを仕組んだ神に、思うところがある。ジークと共に戦う道も、もしかしたらあるかもしれない。そのため、命を奪うのは躊躇われた。


「今更何を……、ワシの野望はすでに為すことは出来ぬ。もう、この世に未練などない……。殺せ……」


「そうか……」


 これ程の男、死ぬには惜しい。しかし、負けを認めない以上、倒すしか道は残されていない。


「ならば、御免ッ!」


 俺は刀を振り下ろした。


ガキイィィィン!!!


 その途中で、刀は止まった。


「お……、お前はっ!」


 以前に見たことのある黒い鎧に身を包んだ男が、俺の刀を剣で受け止めていたのだ。


「なっ、何ということでしょうッッッ!!! 黒騎士の乱入だ〜〜〜ッッッ!!!」


「この剣撃……、腕を上げたな。だが、そこまでだ。ジークの身柄は俺に預けてもらおう」


 俺が口を開く前に、黒騎士の後方から声がかかる。


「黒騎士とやら、ワシはすでに覚悟を決めた身。キサマに助けられる覚えなぞない。さっさと切れ! でなければワシがキサマの相手をすることになろう」


「フンッ! オレならいつでも相手になってやる。だが……その前にジークに手伝ってもらいたいことがある。どうだ? 俺とくれば、貴様の念願もある程度は聞いてやろうと思っているんだがな」


「なんじゃと?!」


 ジークは驚きに顔を上げた。目の光が増し、黒騎士を見つめた。


「俺と一緒に来てもらおう。貴様の命、この俺が預かる」


 ジークは黙って頷いた。


 そして黒騎士はジークと自分の周りに黒い霧を出したかと思うと、舞台から消え去ってしまうのだった。


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