第191話 捨て身の攻防
「こ、これは〜〜〜〜〜ッ!」
解説者の声が中断した。その光景に誰もが口を開いたまま見ていたのだ。
ルシフェルの剣が、あのバッジの大盾を貫いていたのだ。
それだけではない、その貫いた剣はバッジの左肩にまでしっかりと刺さっていた。
「ぐッッッ!!!」
あまりの激痛に声が漏れる。だが……、
コイツを捕まえるのならば今しかねぇッ!
痛みを堪え、槍を突き出す。この至近距離。もはや躱せまいッッッ!!!
「むっ!?」
ルシフェルはワシの槍の動きに気づき、いち早く躱そうとしたがもう遅かった。
この試合、初めての確かな手応え。ワシの槍、名槍ロンがルシフェルの左腕を斬り裂いた。
「す、凄まじい攻防ッッッ!!! これでっ、お互いの左腕が使えない状況になりましたーーーッ!」
「バッジは苦しいでしょうが、ここが踏ん張り時ですねッ! できるならここで勝負を決めないとダメージを与えられるチャンスなんてそうそうないですからね」
んなこたぁ、わかってんだよッ!
ワシは解説者の当然の指摘に舌打ちした。ルシフェルは剣を引き抜こうとした。だが、左肩に刺さったままの剣は動かない。ワシの大盾が剣を咥えこんだまま離さなかったのだ。
チャンスだ。
ワシは血がドクドクと流れ落ちるまま、槍を突き出していく。
「クッ!!」
「あーーーッ! ルシフェルが剣を手放しましたッ!」
「そうでもしないと、あの槍を躱すことなんて出来ないですからね。それにしても、バッジは千載一遇のチャンスですね! ルシフェル先輩は左腕を損傷しています、これでは弓も使えませんッ!」
「た、確かにッ! これでルシフェルは武器が無くなってしまった訳ですね!」
くううっ、左腕の感覚がない……。この盾はもう使えねぇ。
ワシは思い切って大盾をその場に投げ捨てた。奴の神剣も刺さったままだ。
ワシは最大の防御を失ったが、奴も最大の武器を失ったはず……。これならまだ……、ワシにも勝ち目はあるはずだッ!
だが、以外にもルシフェルの表情は変わってはいなかった。相変わらずこちらを見下すような目つきで薄ら笑いを浮かべていたのだ。
「これで貴様の剣は使い物にならねぇ。嗤っていられるのも今のうちだぜ」
ここぞとばかりにワシは槍を突き出す。
だが……、
「あ、当たらないーーーッ! バッジの槍が空回りしていくーッ!」
「ルシフェル先輩ですが、剣が無くなったことによってさらに動きが軽くなってます! こ、これでは、バッジの猛攻も空を切るばかりです」
くっ、槍を振るう度に、左肩の激痛が襲ってきやがる……。それにこの出血……、この試合、長引かせる訳にはいかん。なんとかしてぇところだが……。
バッジの槍は虚しくも空を切るばかりだった。
むぅっ!? 槍の制御が……、鈍ってきやがった。
左肩からの激痛は槍を握る手にまで影響を与え始めたのだ。
ルシフェルの目が一瞬光ったように見えた。その途端、突き出した槍の内側に奴の侵入を許してしまったのだ。
「今度はルシフェルが前に出たッ! 上手いッ! 槍の間合いの中に入ったーーーッ!」
目の前にいるルシフェル。ワシはとっさに槍を手放し、腰に差していた小刀を抜く。
だが、それも間に合わなかった。
ルシフェルは手の指先を伸ばしたまま刃のように振り下ろした。
この距離ならば届かないはずだッ!
ワシは紙一重のタイミングでその手刀を見切り、躱した……はずだった。
ブシューーーーーッッッ!!!
ワシの胸がパックリと斬り裂かれ、血が吹き出していたのだ。
な……、何が起こったというのだ???
ワシは全く訳がわからなかった。
「ル、ルシフェルの手刀で、バッジの胸が斬り裂かれたーーーーーッッッ!!! これは相当なダメージ! バッジ、戦えるのかーーー!?」
***
「あ……、あれは!?」
俺は控室でバッジの試合を見ていた。ルシフェルの不可解な剣捌きの正体、それがようやく判ったのだ。
「何かわかったのか? REN殿よ」
隣ではズールも一緒に試合に注目していた。だが、ズールにはあの剣の正体がわからなかったようだ。
「あれは……、神聖魔法の一つ。ホーリーソードだ」
間違いない。手から発せられた神聖魔法の光の刃を俺は見逃さなかった。恐らくはルシフェルの奥の手なのではないだろうか? 最小限の刃しか見せない所をみるに、隠しておきたかったに違いない。
「ホーリーソード??」
ズールは見たことのない魔法に、目を見開いていた。
「あぁ、神聖魔法に、魔力だけで刃を造る魔法が存在するんだ。それならば刃の形状を自由に変化させることができる。バッジの大盾が剣を弾いた時も、あのホーリーソードをわずかに出すことにより、剣の刃を斜めに伸ばし、斬り裂いたんだろう」
「そうだったのか……、通りで妙な切れ方をすると思っていたが……」
ズールは一人、納得したように頷いた。
それにしてもルシフェルも神聖魔法の使い手だったとはな……、となると腕の傷を治す回復魔法も当然……。
ルシフェルの左腕を見ると、バッジの槍で傷ついたはずの傷はすでに癒えているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます