第190話 ルシフェルの余裕



 ブシューーーッ!


 な……、なんだと? 斬られた? ワシが……?


「あ~~~っ、バッジの背中から血が吹き上がっているーーー!」


「バッジはあの大盾を構えていたように見えたんですが……、これは……」


 魔力を流し、なんとか止血だけを急ぐ。だが、その間にもルシフェルの奴が攻撃してきた。


「舐めるなッ! この若造がッ!」


 槍を連続で突き、間合いに入られないよう追い払う。


 だが、不可解だ……。ワシはどうして斬られた? あの時、しっかりと剣は防いだはず……。


 ルシフェルは相変わらずニヤけた顔つきのままだった。


「そら、私を相手に休めるなどと思わないで欲しいものだね」


「ルシフェルが前に出たッ! 剣戟の雨を降らせていくーーーッ!」


「バッジに隙なんて見当たらなかったんですがね! ルシフェルだけが見えている世界があるんでしょう! 全く、恐ろしい先輩ですッ!」


 くぬぬぅッッッ!!! なんて激しい剣じゃ! これほどの使い手……、初めてお目にかかるわいッ!


 バッジの大盾に幾度も剣戟が襲いかかる。


 激しい金属音を何度も鳴らしながら、バッジは槍を突き出すが……、そこだけはどういうわけなのか、躱される。


 そして、剣を打ち込んでくるのだ。


 ワシの攻撃タイミングが読まれとる? なぜじゃ? 今、初めて出会ったばかりじゃというのに……。


「……っ!!!」


 槍を持っていた右腕を剣が掠める。


 アブねぇ! 右腕が斬られちゃあおしまいだからな……。ここは一旦引き離して……。


 そう考えていた時だった。


 ブシューーーッッッ!!!


「なっッ!」


 右腕から噴水が飛び出るように血が舞い上がった。


 ば……バカなッ! あの剣は掠めただけのはず!


 バッジは背中に背負った樽から投げナイフを一掴み握り出し、ルシフェルに向かって連続で雨のように投げつけた。


 くっ、これだけ投げても一発も当たりゃしねぇ! このバケモノめッ!


「バッジのナイフがいくつも飛んでいくッ! しかし、当たりませんッ! ルシフェルは下がりながらも全て躱し続けていますッ!」


「しかし、ここまで攻撃が当たらないと……、正直な所、厳しいです! この辺りで一矢報いたい所ですね」




 ハァッ、ハァッ、ハァッ……。


 バッジは肩で息を整えながら、斬られた傷に魔力を集め、回復を早める。


 だが、距離をとったルシフェルは肩に提げていた弓を構えたのだ。


「休む間もねぇってか……」


 バッジは大盾に身を隠し、屈み込む。


「そんなの通用しませんよ? 全く、先程から悪あがきばかり……、感心しませんねぇ」


 ルシフェルは余裕の表情のまま、魔導弓を上空に向かって構えた。そして……、


「ルシフェルが天に向かって弓を引きましたッ! あれは、マーリンが見せた、魔力による矢ですね!」


「えぇ、早速使いこなすあたり、さすがルシフェル先輩としか言いようがありません。込める魔力量も申し分ないようですッ! マーリンにも劣らない威力が出そうですよ!」




 ルシフェルは弓を放った。その矢は天に向かって飛んでいき、途中で幾つもの数に枝分かれしていった。やがて、数えることの出来ないほどの数になり、一気に舞台へと降り注ぐのであった。


「こ、これはーーーッッッ!!! マーリンの矢とは全く違いますッ! 無数に分かれた矢が……、舞台に降り注ぐーーーッ! まるで、流星ッ! 金色の流星がバッジの頭上に降り落ちていくーーーーーーッッッ!!!」


「マーリンのは一発に大きな威力を込めていましたが……、これはまるで絨毯爆撃! 逃げ場がありません! 燃え上がる炎の柱を見ても、一発一発の威力が極大魔法クラスですッ! これはたまりませんッ! バッジは一気に苦しくなりますね!」




 辺りが炎の柱にすっかり囲まれ、逃げ場などない。


「全く……、なんてヤロォだ! おちおち回復も出来ねぇとはな……。仕方ねぇ。ドワーフの意地、見せてやるわッ!」


 身体強化の魔法を全身に重ねがけしていく。そして……、


「あーーーっと! バッジが、炎の中に突っ込んだッ!!! 疾いッ! ルシフェルに向かって一直線に走っていくーーーッ!!!」


「捨て身でしょうか!? この炎の海を渡っていくなんて尋常ではないですよ!」




 ワシの魔力程度じゃあ効果は長続きしない。だが一瞬だけでもこの炎の中を走り去り、奴の元まで突っ込んでみせるわッ!


 炎の海を渡りきり、ルシフェルを見ると、奴の顔が今までになく嗤っていた。


「そうこなくてはッ! 殺り合う意味もないのですヨッ!!!」


 ルシフェルもバッジに向かって疾走った。


 バッジは大盾を、ルシフェルは神剣を手前に構え、二人が激突する。


「こ、これは〜〜〜〜〜ッッッ!!! 盾と剣のぶつかり合いだーーーーーッ!!! 果たして勝つのはッ!」


 ズガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッッッ!!!!!


 二人の本気のぶつかり合いにまるで爆発でも起きたかのように煙が舞い上がる。


「は、果たして……、このぶつかり合い、勝ったのはどちらだーーーッ!!!」


 実況の叫びが木霊する。舞台の霧が晴れてくると、衝撃の結果に舞台がざわめくのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る