第188話 ジークからの宣戦布告
「ミリィの体が場外まで吹き飛んだーーーーーッッッ!!! 生命反応がありませんッ! 勝者、死の国代表ッ! ジーーークッ!」
会場は割れんばかりの歓声に包まれる。
溢れる興奮の渦に俺は嫌気を感じつつ、ミリィに近づいた。
完全に意識もなく、機能も停止しているのだろう。指先一つ動かないその体を目の前にすると、なんとも言えず、握りしめた拳が震えるのだった。
「次はいよいよ貴様の番だ。わかっておるな」
ジークが退場し、すれ違いざまに宣戦布告と取れる言葉を言い残す。そして奴は花道の奥へと去っていった。
俺はミリィの体をそっと抱き起こした。擬似体液がこれ以上漏れ出さないよう、ゆっくりと持ち上げていく。
先程まで激闘を繰り広げていたためか、その体はいまだに熱かった。
ズールも羽織っていたマントをミリィに被せ、衆目にさらされないよう気を使ってくれるのであった。
「さぁ、本日の試合がこれで終了し、明日は二回戦第三試合と第四試合が行われる予定となっております」
「バッジ VS ルシフェル、それから、ギガース VS ニュートの二試合ですね。これは楽しみです。いくつもの聖剣を保持し、防具までガッチリと固めているバッジに対し、最強天使ルシフェルですが、あの正体不明の神剣に、マリーンが使用していた魔導弓を奪いましたからね。相当に戦力が上がっているかと思いますよ!」
「なるほど……、バッジの鉄壁の防御にルシフェルの攻撃がどれほど通用するのか? これは楽しみですねぇ!」
「ギガース VS ニュートですが、ギガースのライバルであったバハルを打倒したニュートとの対戦。ニュートは不利な下馬評を覆し、勝ち上がっただけに、期待が高まりますッ! ニュートが再びの奇跡を起こすのか? それともギガースが亜神としての意地を見せるのか? 注目ですよ!」
「嫌でも期待が高まってしまいますね! それでは皆さん、また明日お会いしましょう!」
舞台は先程までの喧騒がウソのように静まり返っていくのだった。
***
「しかし、REN殿。その遺体は埋葬するつもりなのか?」
ズールが後ろから声をかけてくる。
俺が考えもなしにミリィの遺体を引き取ったので、気になったのだろう。
「いや……、ダメ元で俺の魔法が効かないか、試してみようと思っている」
「フゥム、その女は機械ゆえ、REN殿のリザレクションといえど、効かぬ可能性もある……」
「ご主人さまはそのようなメイドがお好みでしたか?」
イヴリスが子猫のように心配そうな顔で俺を見上げてくる。
「いや、そうではないんだ。ただ、戦士として、この者が死ぬには惜しいと思ってな……」
イヴリスはホッとしたような顔つきで胸に手を当てた。
「リザレクションッ!」
俺は取り敢えず魔法を行使してみる……が、ミリィの擬似体液が揺れるだけで反応を起こすことが出来なかった。
「……っ、この俺の魔力で足りないのか……、それともこの魔法では効かないのか……これでは分からんな……」
「私の魔力も合わせますわ! ご主人さま、もう一度お願いします」
「フム、微力ながら我の魔力も預けようぞ」
二人は手を繋ぎ、俺に魔力供給をする為、俺と三人で手を繋ぎ合わせた。
三人の中をグルグルと膨大な魔力が廻っていく。
「こ、これなら……、リザレクションッ!」
ミリィの傷口が僅かだが塞がっていく。だが、ジークの剣は深々とミリィを切り裂いており、傷口が完全に塞がる所までは再生が追いつかない。それよりも先に俺達の魔力が切れてしまうだろう。
「すまない、皆。だが、これでわかった。ミリィの体は半分にも満たないほどだが人間の細胞を使って作られているようだ。このまま術を行使していけば回復させられるかもしれん! もう少し……頑張ってくれッ!」
「し、しかし……このままでは……」
「我の魔力が……、もう枯渇しそうだ……」
二人の表情が曇り、息も荒くなっている。俺の魔力も限界が近づき、頭がフラフラとしてきた。
イヴリスとズールが膝を付き、苦しそうに息を荒くする。
残ったのは俺だけか……、やはり……無理……なのか……。
その時だった。突然、足元に青白い光の円が描かれた。
「こ、これは……?」
その円は大きな魔法陣を描く。そして……、
「こ……この魔力は……? 一体どこから来たというの?」
「むうぅっ? 力が湧き上がる……。これなら……」
イヴリスとズールがまた立ち上がった。
俺の中にも清廉な魔力が満ち溢れ、空に近かった魔力が元に戻っていくのを感じた。
「これでイケるッ! 頼むッ、この最後のチャンスに、生き返るんだッ! ミリィよ!」
辺りを青白い光が包み込み、ミリィの体の傷は塞がった。それと同時に呼吸が始まり、無事に魔法が成功したのだった。
「ふぅーーーーーッ、なんとかなったか……」
俺はあまりの疲れにその場に座り込んでしまった。しばらく動けそうにもない。
それはイヴリスとズールも同様だった。
「なんとか上手くいったわね……」
「あぁ……、しかし、先程の魔法陣は一体……?」
ズールが首を傾げる。
俺はその魔力に懐かしさを覚えていた。
まさか……、アイツがこの
今は動くことが出来ず、確認する
この礼はいつか必ず……。
俺は姿を現さなかったその者へ感謝し、礼をすることを誓った。
RENの控室、その扉の前から足早に去っていく黒い鎧がやがて、黒い霧に飲まれるように消えていくのだった。
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