第187話 二回戦第二試合 決着



 ジークは私の変化にいち早く気づき、剣を構え、そして魔力を大量に剣に込め始めた。


 私としてもこれが最後の一撃になるだろう。異次元格納庫から取り出した、持ち手だけの剣。そこに体のありったけのエネルギーを込めていく。私のエネルギーに応えるように剣の刀身に当たる部分が伸びていった。この剣は込めるエネルギー量に応じてその刀身が大きくなる剣。私はだが、試合後のことなど考えず、全ての生きるエネルギーを集約させれば……、あの敵に届くかも知れない。


「ほぅ、まだそれほどの力を残しておったのか。ならば……相手にとって不足なし。来いッ! 若き戦士よッ! 貴様に戦士として死ぬ栄誉を与えてやろうッ!」


 ジークはその剣に今までにないほど魔力を込めていった。聖剣ヴォルグスネーガは魔力の供給を受け、黄金の光りを放ち始めた。そして、刀身自体が大きくなっていくかのように魔力が剣を包み込んでいく。


 その膨大な魔力と眩しい光りが舞台から放たれていくというのに、観客はみな、目を離せず、最後の一瞬を見逃すまいと誰もが閉口し、固唾を飲んで見守っていた。


「こ、ここでミリィが大勝負に出るのかッ! 一回戦でも見せた、あのエネルギーで刀身を作り出す剣です! 刀身が大きくなっていくッ! あのグリーナを破ったときよりも遥かに大きいッ!!!」


「まさに最後の一撃に賭けたということですね。しかし、ジークも負けてはいませんよ! あの魔力量、第一試合でみたあのRENの技と遜色ないほどの魔力量ですッ! 果たしてどちらが生き残るのか? こればっかりはわかりませんッ!」




 私にはもう結果が見えていた。だが……、こうせずにはいられなかったのだ。せめて一太刀。少しだけでも傷を与えたい、そう思ってしまったのだ。いつもの私らしからぬ思考。計算ではない、私だけが感じた心。これで恐らく私は負け、念願を果たすことは出来ないだろう。私の国で起きている紛争、それを解決できるキッカケが欲しかったのだ。AI同士の不毛な戦争に陥ってから早100年。植物は枯れ果て、生き物はいなくなり、大地は全て掘り返され、資源という資源は全てが掘り尽くされた。


 それでも戦争は止まらなかった。


 マザーが一留の望みをかけて生み出した私をいう兵士は我が国の最後の希望だったのだ。


 それが、今……、散ろうとしている。


 私は駆けた。あの強大な敵に一矢報いるべく。




   ***




 俺はこの苛烈な戦いを直接みるべく、花道の入り口に立っていた。


 間違いなく三回戦で当たるのはジークだろう。少しでも奴の戦いを見ておきたかったのだ。


 そして、奴も俺が見ていることに気づいていた。最後の一撃を駆けた戦いが始まろうとしているにも関わらず、奴は俺の顔を見た!


 まるで、”そこから見ていろ”と言わんばかりに。


 その一瞬の隙を狙ったのか、ミリィが突撃していく。


 ミリィの残存する魔力量ではこれが最後の一撃だろう。


 俺はその最後の輝きを見ていた。


「美しいな……」


 背後から声をあげたのはズールだった。


「あぁ……」


 俺は激しい火花を散らす二人の最後の激突をじっと見ているのだった。




   ***




「てやあああああぁぁぁぁぁッッッ!!!」


 私の命を賭けた最後の一撃はジークの剣とぶつかり合い、激しい火花を散らし、会場は真っ白な光りを放ちながらまるで時が止まったかのように硬直していた。


 ぶつかり合う二人の剣と剣。私も、ジークも次々に魔力を剣に込めていく。先に魔力が尽きたほうが負ける、という単純な力比べ。


「はっ!?」


 私は気づいてしまった。


 思えば、ジークは最初からこれを望んでいたようだった。


 私にはその理由に今頃になって、気づいたのだ。


 ジークが全力でのぶつかり合いを望むその理由……、


 それはあの聖剣ヴォルグスネーガだった。


 その剣は辺りに放出されていく魔力を吸い込んでいたのだ。


 魔力を喰らう剣。私の放つこの全力の一撃、ここに込められた魔力がぶつかり合い、放出され、散っていくのを喰っていたのだ。


 まさにブラックホール。イヴリスの魔法を吸い込んだあのブラックホールの魔法はジークが放ったのではなく、恐らく、この剣の固有魔法。


 私は自らの愚かさを恨んだ。だが、もう遅かった。エネルギーが尽きようとしているのだ。


 ジークはまだ剣に余裕で魔力を注ぎ込んでいる。衰えを知らぬ、正にリッチならではのありあまる魔力量。


 拮抗していた剣が私のほうへ傾いてくる。


「も、もう……耐えられないッ」


「クハハハハハハハッ! 安心して死ぬがいいッ! 貴様の魔力も、全ていただく。そして、ワシは神を滅ぼす者になるのだッ!」


 勝利を確信し声高く嗤うジーク。


 私の剣はついにそのエネルギーが切れ、ジークの剣が私の体を斬り裂きつつも吹き飛ばした。


 叶わなかった。夢も、実力も……。


 吹き飛んだ私の体は花道の入り口近くの壁に激突し、そこで私の意識は途切れるのだった。


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