第175話 ニュートの目論見
ニュートは油断なく構えた。だが、内心はほくそ笑んでいた。
勝てる……、問題はない。順調だ。永年の夢だった上位種の打倒。必ずや俺が成就させて見せる。
バハルはすぐに自らの開けた穴から飛び出し、宙にホバリングした。空からこちらを見下ろし、じっとこちらを見つめる。バハルの爪は相当に強化されたようで、グレンとの打ち合いで傷がついていたが、それもすぐに修復されていった。
「何故だ? 何故貴様の攻撃が余の爪を上回るのだ?」
バハルの目は真剣だ。グレンの強度がバハルの爪を上回ったことに納得がいかないのだろう。だが、グレンは神の血を充分に吸い、パワーアップしているのだ。それも亜神ではない、本物の神の血。
それを考えれば俺には充分に納得のいく結果だ。
せいぜい不思議がっているがいい。お前は真実を知ることなく死んでいくんだよ!
ニュートはさらに魔力を練り上げていく。グレンを巻き込むように魔力で包み込み、グレンとニュート、お互いの魔力が複雑に絡み合い、混ざり合っていった。
いくぞ、グレン!
俺は跳躍し、バハルに襲いかかっていった。
「な、なんと、宙に浮いているバハルにニュートが仕掛けていくーーーッ! またしても二人の剣と爪がぶつかりあします!」
「それにしてもニュートの強さは我々の予想を遥かに上回っていますね! まさかこれほどやるとは思いませんでしたよ」
「ニュートがまたしても押し切られる! しかし、着地と同時にまた仕掛けたッ! 凄まじい火花が散っております! 何度も仕掛けていくニュート! しかし、空中ではバハルが一歩上手でしょうか? 安定しているように見えます!」
「そうですね。バハルには大きな翼がありますから。しかもその翼には魔力を使って防御壁を分厚く張ってますしね。あれを突破するのは至難の技でしょう」
「それにしてもニュートは果敢に攻めていきます! 何度も弾かれ、いなされ、完全にその攻撃は防がれてはいますが、ニュートにもダメージはないようですね」
「バハルもそうですが、ニュートも再生能力が強いようですね。先程ブレスを斬った際の火傷も、もう跡すら残っていません。恐るべき再生能力ですよ!」
「おっと! またニュートが仕掛ける! バハルがまた受けた! あああーーーッッッ!!! バハルの爪が! ついに砕けましたッ!」
何度も仕掛けたのはもちろん理由がある。いくら硬い爪とはいえ、強度ではグレンの方が上回っているのだ。ならば、爪の同じ箇所をしつこく狙えば、いつか砕けるのが道理。
数度目のぶつかり合いでついにバハルの爪を叩き割ることに成功したのだ。もちろんこの機を逃すわけにはいかない。すぐに奴の翼目掛け剣を一閃した。
「グッ!!! な、なんとぉ!」
右翼を全て切り落とす事はできなかったものの、深く翼を傷つけられたバハルはバランスを崩し、再び舞台へと降り立った。
そして連撃に次ぐ連撃を浴びせていく。バハルの身体を覆っている鱗は凄まじい強度を誇っており、深い傷を与えることは出来ない。だが、気がつけば、俺の剣を防いでいる両腕が傷だらけになっており、赤い血が舞台にしたたり落ちていく。
それと共に、グレンはバハルの血をも吸収したようでより魔力を濃密に溜め込んでいた。
「ぐうっ! いつまでも調子に乗るなッ!!!」
バハルが大きく口を開けた。その口の周りに巨大な魔法陣が描かれる。間違いない。あの挙動はブレスだ。インターバルが終わって、また吐き出すのだろう。
先程のブレスは凄まじい威力を誇っていた。だが、今回のブレスはバハル本来の姿を取り戻しての一撃。それに加え、魔力を口の周りに展開している。その魔法陣は風の魔法だ。俺は素早くバハルのやろうとしていることをいち早く察知し、グレンに最大限の魔力を込めるのだった。
「あああーーーッ! バハルの口が大きく開きますッ! これは再度のブレスかーーー?」
「間違いないでしょう! 今は元の姿になっています。それにあの魔法陣。恐らくですが魔法と絡ませたブレスになることは間違いありませんよ! 一体どれほどの威力となるのか? 想像も付きませんね!」
解説者たちが色々と言っているが、俺にはすぐにわかった。あの魔法陣は風魔法なのだが、効果は”空間の固定”。それも円筒状に。恐らくだが、ブレスを小範囲に絞り、狭い空間をあえて通すことによって、威力、スピード、貫通性能を桁違いにパワーアップさせるための術式だろう。
やはり油断のならない男だ。最後までこのような切り札を隠しているとはな。だが、この勝負、もらったッ!!!
俺はグレンを見やった。グレンはバハルの血を吸い、先程よりもさらに一回り大きくなっていた。そして、その内包する魔力も先程より三割は増しているのだ。
手に伝わる重さも頼もしい。俺は何の憂慮もなく、バハルのブレスに対して、剣を構えた。
もう一度、奇跡を見せてやる。
そして、バハルの口から、本当の本気の本物のブレスが吐き出されるのだった。
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