第174話 バハルの反撃



 驚きに目を見開くバハルは身体を硬直させ、口が開きっぱなしになっていた。


 もちろん、オレもノーダメージとはいかなかった。皮膚が一部焼けて黒く変色してしまったのだ。だが、これくらいなら問題ない。俺の再生能力ならばすぐに回復するだろう。それに身体の各部も問題なさそうだ。


 ニュートは口を歪めるようにわらう。


「どうだ? ご自慢のブレスが効かなかったようだな。今度はこちらの番だ」


「ぬっ?」


 バハルはハッと我に帰ると爪を伸ばし、戦闘態勢に入る。


 ブレスのような攻撃は連射出来るものではない。せいぜい、一試合につき三回。それも、休憩インターバルに数分はかかるはず。


 ブレスの吐き終わった後こそ、俺のターン。


 ニュートは一気果敢に攻め始めた。


「あっーーっと、ニュートの姿が消えましたっ! ど、どこにっ?」


 バハルにはニュートの動きが見えていたのだろう。咄嗟に上部に向かって爪を払った。


 空中に激しい火花が散る。


「あっ! 上です。一瞬で上空に飛んで、空から刀を振り下ろしているーーーッ! バハルは受け止めたが、その爪が五本とも折れてしまった! さらにニュートが攻めるっ! 今度は横からっ! これもバハルが防ぐっ! 今度は後方からの攻撃だっ! ああーーッ! ついにバハルが被弾っ!」


 バハルの後方へ素早く移動しての攻撃にバハルの爪の再生が追いついていなかった。


「もらったッ!」


 俺の一撃がついにバハルを切り裂いた。


 傷は浅い。だが、まずはこれで充分。


 さらに攻め込んでいく。バハルに休む間など与えるつもりはない。さらに踏み込んで一気に攻撃をしかけるのみ。


「ニュートの攻撃が止まらないーーーッ! ここぞとばかりに斬り込んでいくーーー!」


「ニュートがこれほどの実力者だとは思いませんでしたね。ブレスを防ぎきり、さらにこの攻撃ではバハルを圧倒していますよ! バハルは防戦一方、これは番狂わせがあるかもしれませんね!」




   ***




 バハルは余りの不条理に困惑していた。


 何故だ? なぜ、下等種ごときが余の爪を折るなど……、まして奴の攻撃を喰らっただと?


 そう考えている間にも奴は一瞬で姿を消し、また上空から襲いかかってきた。


 ぬ? また同じ攻撃とは……、舐めてくれる。


 バハルは上空のニュートを挟み込むように両腕の爪で攻撃する。さすがに十本もの爪が合わされば、奴の刀とまともに打ち合うことが出来た。


 火花を散らす両者の攻撃。バハルの両腕とニュートの刀はがっちりと鍔迫りあった。


「まさか、これほどの威力とはな……。油断したよ。だが、ここまでだ。余の本気というものを見せてやろうではないか!」


 バハルはニュートと鍔迫り合いで力比べをしながら、全身の魔力を練り集めていく。


 バハルを炎のようなオーラが包み込み、そして……。


「おっ? バハルの様子がおかしくなっています! これは一体?」


「こ、これは……、恐らく変身です!!! キュイジーヌが本来の姿に変身したように、バハルもまた、変身するようです! 身体から放出される魔力の膨大さはキュイジーヌ以上のものがあります! どれほどの力を持っているのか、刮目しましょう!」


「変身ですか! バハルは神竜ですから、その真の姿が見られるわけですね! あーーーっと、バハルの身体が大きく膨れ上がっていくーーーッ!!!」


 バハルの身体はみるみるうちに巨大化していく。腕は三倍の太さに、足はそれよりも太く、頭部も人形からドラゴンのそれへと変貌していった。


 現れたのは紛れもなくドラゴン。真っ白なドラゴンが牙を剥き、腕の爪でニュートと対峙した。


 その体長も優に倍以上の大きさとなっていた。高さは優に3メルを超える巨体が現れたのだ。


「舞台に真っ白なドラゴンが現れましたーーーッ! これがバハルの真の姿なのでしょう! 我々は今、伝説をこの目で見ているんですね!」


「……はい……、まさかこれほどのものとは思いませんでした! 内包する魔力量が桁違いですよ! ドラゴン種としては小型といっていい大きさでしょう。ですが、そんじょそこらのドラゴンとは魔力の量が違っています! よくいるレッドドラゴンの十倍の魔力量はありそうですよ!」


 解説者の叫ぶような言葉に会場中がどよめきに包まれる。


「グルルルルルルル……、これで遊びは終わりだ。貴様などこの世に肉片一つ残さず消し去ってくれよう!


 バハルは鍔迫り合いの状態を力尽くで弾いた。変身のおかげもあり、長い爪は四倍以上もの太さになっていたのだ。そのうえ、纏う魔力量も桁違い。ニュートを弾き飛ばすなど造作もないことだった。


「死ぬがいいッ!」


 消えるように動き、攻撃し始めたのはバハルだった。


「な、なんだと?」


 ニュートの視界から一瞬にして消え、バハルは上空から襲いかかった。


 ニュートが上方に剣を振り、バハルの爪を受け止めると、ニュートを中心とした半円状の穴が舞台に空き、ニュートの身体が沈み込む。


「す、凄まじい威力! 先程までとは段違いの攻撃です! バハルが本気ですッ!」


「これは分からなくなりましたね! 先程まではニュートが優勢でしたが、これで地力ではバハルのほうが上回っているようですよ!」


 ニュートは目一杯の力で受け止めたが、バハルの攻撃を受け止めきれず、最後はバハルの力を横方向にずらすようにいなした。


 ニュートの側方にバハルの攻撃が刺さり、床が爆発する。


「ぐっ、これほどとは……」


 バハルの攻撃が逸れて床に刺さっている隙に、オレは半円状の穴から飛び出し、バハルの様子を伺いつつ剣を構えるのだった。


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