第137話 一回戦第二試合 阿修羅族代表ズール VS オーク族代表ブッピー 1
「それでは、一回戦第二試合の始まりです! 東の方角! 阿修羅族代表! ズール!」
リングアナの紹介と共に観客席からは声援が飛び交った。
「さぁ、東の方角をご覧下さい! なんと、この男! 腕が6本あります! その腕から繰り出される圧倒的な数の攻撃は容赦なき連撃となることでしょう! ローファンさんはどう感じましたか?」
「はい、今日に備えて調子を整えてきたようですね! 顔色も良いですよ! 腰には愛用の剣が6本も下がっています。彼は6刀流というわけですね! しかも年中闘いの絶えない阿修羅の国で一番強い男が来てくれたわけですからね! はっきり言って、めっちゃ期待してます!」
「おおー! 私はこんなに興奮するローファンさんを初めて見ましたよ! ということは相当期待できると思います!」
ズールは舞台に上がると、腰に提げていた剣を全て抜き放った。その剣は西洋のものよりも刃の幅が広い。
あれほど刃幅の広いサーベルを6本も振り回すのか……、腕力も相当なものだ……。
「へぇ……あのサーベルが気になるの?」
「刃幅が広いということは相当な重量のはず。それを6本振り回すわけだからな。ヤツの力は並大抵のものではあるまい」
「ふーん、そうなんだ」
なんとも興味のなさそうな顔で中継を見るイヴリス。というか、本当に居座るつもりなのだろうか?
ズールは6本の剣を高々と振り上げ、観客へのアピールサービスをして歩き回っている。
やがて、西の方角にざわめきが沸き起こった。
「西の方角! オーク族代表! ブッピー!」
「プギョオオオオォォォォ!!!」
耳をつんざくほどの咆哮が響き、辺りにいた天使達が一斉に耳を押さえた。しばらくの間はまったく耳が聞こえなくなってしまったことだろう。中には泡を吹いて失神してしまっている天使も見受けられる。
「さぁ、凄まじい咆哮を上げて、入場するのはオーク族代表、ブッピー! あの黒い肌! 巨大な黒い剣! その吐き出す息も黒く霧がかってます! 不気味なまでな黒ずくめのエルダーオークキング、ブッピーが歩いてきました!」
「いやぁ、大きいですねぇ! 身長は軽く3メル以上あります! ズールも小柄ではなく、2メル以上ありますが、ブッピーは横幅も太いですからね! 横幅はズールの3倍はあります! そして、何と言ってもあの巨大な黒い剣! あんなのを振り回されたら一振りで数人の天使が昇天することは間違いありませんよ!」
「うぅ……っ! 解説を聞いただけでブルッときてしまいました! 因みにローファンさんの予想はいかがでしょうか?」
「んー、難しいですねぇ! この二人ですが、ズールは闘神、ブッピーは破壊神と呼ばれております! 要するに二人とも亜神なわけですね! 神対神! 闘神対破壊神! 因みに、ブッピーではなく、ただのオークキングであれば、ズールが圧勝するでしょうが、ブッピーはネームドと呼ばれる個体ですからね! 一筋縄でいくわけがありません!」
「さぁ、生き残るのは果たしてどちらなのか? ブッピーが舞台に上がりました! おお~~~っと! 両者が睨み合っています! もう既に一触即発! 因みに、舞台の半分ずつに強力な結界が張られており、試合開始前には手を出すことは出来ません! 何せ、天使50人掛かりで張っております!」
「因みに、アナタはどちらが勝つと思ってるのかしら?」
イヴリスはいつの間にか手にグラスを持ち、赤い飲み物をチビチビと傾けながら聞いてくる。まさか、酒じゃないだろうな? 今日は1回戦があるはず。試合の前にそんな余裕あるのか?
それに……、
イヴリスの方を見ると、全身真っ黒な影が人の形を為し、隣に立っていた。グラスが空くとワインボトルに注いでいるのだ。
あれが使い魔という奴だろうか? ……というか、いくらなんでも打ち解けすぎだろう。いつまで居座る気なんだ? 全く……。
「ま、順当にいけばズールだろうな。ヤツは力だけでなく、剣の扱いに相当慣れている。だが、あのオーク……。あれほど黒いオークなど見たことがない。何か、技を持っているのは確実だろうがな」
「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ……、私と勝負しない?」
「勝負だと?」
「そうよ。アナタはあの阿修羅が勝つと思っているんでしょう? なら私はオークに賭けるわ。アナタが勝ったら何でも言うことを聞いてあげてもよくてよ?」
「ふん、お前が勝ったら?」
「もちろん、私と契約してもらおうかしら?」
「契約ね……。まぁいいだろう。そろそろお前の存在が鬱陶しいからな。さっさと出て行ってももらうためにも、その賭けに乗ってやる」
「良いのかしら? 私はまだ契約の内容すら言ってないのだけど?」
「構わん」
悪魔との契約など、どうせすることになってしまえば終わりなのだ。内容など確認するまでもない。
「あら? 随分と男らしいのね? これは是非とも契約したくなっちゃった」
イヴリスは唇に指を当て、俺に囁くように言う。そして、彼女の上空に何やら文言の書かれた紙が出現した。
「これが賭けの契約書よ。サインしてもらえるかしら?」
サッと目を通したが、先ほどのイヴリスが言っていたことが大げさに書いてあった。
俺が勝った場合、イヴリスを好きに出来る。イヴリスが勝った場合、俺と好きなように契約できる。
この悪魔め、条件を厳しくしてきやがった。全くもって信用ならない女め。
「いいだろう」
俺はこの条件で承諾した。普段の俺ならばこんなつまらない勝負をすることはなかっただろう。だが、少し腹の虫が治まらないほどに怒りがたまっていたのだ。一回戦第二試合がズールとブッピーということは、この試合の勝者が俺と当たるのだ。
要するに俺は次の試合も蛇人族のニュートと闘うことが出来ないのだ。思い返すだけで拳が震えるほどに怒りが込み上げてくる。
それに、あのズールの腕は一本一本が太く、しかもあの刃幅の剣を使用するのに慣れている筋肉の付き方をしている。さらに言えば入場したときのアピール等は、こういった試合というものに慣れているということでもある。この経験の差は大きいだろう。
片やブッピーは野獣である。入場してきた時点で理性を吹っ飛ばし、本能の赴くままに破壊しつくしていくタイプだろう。一見、強力に見えるだろう。だが、もし、攻撃全てに対処されてしまうことがあれば……、本能だけで動くブッピーは禄に攻撃出来ないまま封殺されてしまう可能性もある。
どう考えてもイヴリスには不利な賭けになるだろう。
「ふふっ、じゃあ試合を楽しみましょうか」
試合を楽しむとか言いながら、イヴリスは俺から視線を離さない。口元は笑みを浮かべ、その大きな目でじっと俺を見つめていた。まるで試合など興味もないかという風なのだ。
やれやれ、一体何を考えている事やら……。
俺はイヴリスに絡まれるのを諦めながら、試合中継に注目するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます