第121話 獣人族と魔法



「さて、魔法が使えるようになったんだろう? 見せて貰ってもいいかな?」


 俺がリンに聞くと、リンは嬉しそうに顔をパァっと明るくした。


「もちろんです! すぐに中庭に行きましょう!」


 リンは俺の手を引っ張ってぐんぐん進んでいく。以前はか弱い美少女であったが、今はレベル1000以上もある立派な戦士である。その力は美少女には似つかわないほどに強くなっていた。




「見てて下さい! ファイヤーボール!」


 リンは手を庭にある的に向かって構え、火の初級魔法であるファイヤーボールを唱えた。


 手のひらからポッと小さな炎が出現し的に当たる。じゅ~っと音を鳴らし的を黒く焦がすのだった。


 ん? レベル1000でこれだけ? うそでしょ?


 俺の感想とリンの感想は天と地ほども違っていたようでリンはすこぶる嬉しそうに笑顔を浮かべていた。


 だが、レベル1000もあればこの辺り一帯を燃やし尽くす位は出来るはずなのだ。


「よ……よかったね」


 できる限りの作り笑顔でリンに答えてみる。


「むぅ! むむむっ! せっかく魔法が使えるようになったんですよ! そりゃ先生の方がもっと凄い魔法つかえるでしょうけれど、私は初めてだったんですからね! もっと喜んでくれてもいいじゃないですか!」


 しまった。リンにあっという間にバレてしまったか。


「うーん、リンのMPはいくつになったのかな?」


「えぇとですね、今は1500になってます!」


 リンは誇らしげに胸を張った。


「ふむ、MPは問題ないようだ。恐らくだけど相性があるのかもしれないな。他の魔法を使ってみてくれないか?」


 魔法には相性というものがある。因みに俺には土属性の魔法はつかえないのだ。土は雷を吸収してしまうらしく、なんとも相性が悪いようだった。その他、火や水、風も殆ど使い物にならない。もちろん、たき火を熾すための火くらいは出せるのだが、MP効率が非常に悪いのだ。これらの属性の上級の魔法も当然、使えない。


 ま、神聖魔法と風魔法はソウと愛しの霞さんに授けて貰ったので適性が出来たのだが、まだレベルがどちらも上がってないのだ。


「わかりました! じゃウォーターの魔法から使っていきますね!」


 リンが手をかざすとチョロチョロと水が手から流れた。


 うん、適性無しですね。間違いない。


 続けて土の魔法や、風の魔法を使ってもらったが、土が少し盛り上がるだけ、そよ風がスッと吹くだけと言った有様だ。


 んー、もしかして雷系の魔法とか……と思ったが、これはもっとダメだった。静電気すら起こすことが出来い。


 かといって神聖魔法や闇魔法も適性は見受けられなかった。


「んー、これは……」


 頭をかかえてしばし悩んでしまう。だが、以前の仲間にそんな奴がいたことを思い出した。そう、Fina1のことである。彼もほとんどの魔法に適性がなかった。だからといって魔法を使っていなかったかというとそれは違う。彼は身体強化を魔法によって行ったのだ。その速度は俺を遙かに上回り、レベルがカンストしていないにもかかわらず、ソウとも張り合えるだけのスピードを誇っていた。


 俺は身体強化魔法というものは少ししか出来ないが、やってみる価値はある。


「リン、身体強化魔法って知っているかい?」


「身体強化魔法? ですか?」


 首を傾げるリン。やはり知らないようだ。


「魔力を使って体を強化するんだ。うまくいけば、速く走れたり、高くジャンプ出来たり、攻撃力を高めたりと様々な使い方が出来るんだ。少しやってみようか」


「はい! お願いします!」


 リンの目がキラキラと輝き、未知の魔法に興味を示す。


「言っておくけれど、俺もあまり得意ではないんだ。ま、参考程度に見ていてくれ」


 俺は自分の腹に摩力を集めた。そして手を強化するイメージを膨らませる。今、俺の手は岩よりも硬い! よし、


「いっけぇーーー!」


 ダッシュと共に、庭にあった大きな岩を真っ直ぐにパンチで突く。


 ドズゥン! と鈍い音が響き、岩にぼっこりと穴が空いた。


「す、凄いです! 先生!」


 手を岩から引き抜くと、穴から四方にヒビが走って行く。やがて一つの形を維持しきれなくなった岩は全て砕けるのだった。


 ふぅ、久しぶりの割には巧くいったかな? 参考になればいいのだけれど……。


「よし、じゃあやってみようか」


「はい!」


 リンは元気に返事をし、俺のまねをして膝を曲げ、腰を低くした。「むんっ!」ッと勢いよくお腹に魔力を集めると、彼女は一気に爆発したように駆けだし、岩に向かってパンチを放つ。


 突風が辺りに吹き荒れ、俺は思わず目を手で覆ってしまう。


 ズガァァン!という轟音。庭にあった大岩が爆発したような音が響き渡った。


 土煙が晴れてくる。俺がようやく目をそちらに向けると、俺の身長以上もあった大岩は跡形もなく吹き飛んでしまっているのであった。


「う……、うそ……だろ?」


 驚きに目を見開いていると、リンが俺のお腹に飛び込むように抱きついてきた。


「やったー、先生! できましたよ!!!」


 美少女の可憐な笑顔とあまりのパンチの威力が全く釣り合っていない。俺は呆然としてその岩のあったところを眺めてしまうのだった。



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