第120話 リンのレベルアップ



「れ、レベルが300を超えましたわ……」


 リンはステータス画面を見ながらわなわなと震えている。


「よもや、この私めもこれほどのレベルに到達できようとは……」


 ザッツは涙を流し、握りこぶしを震わせる。


「何もこの程度のことで……」


「この程度じゃありませんわ!」


「この程度ではございませぬぞ!」


 二人の声がはもるように重なる。


「REN様、この国で最高ランクの傭兵でもレベルは500位なのですよ? それをたったの半日で300まであがってしまうなんて異常ですわ!」


「REN殿の言う“パワーレベリング”とやらがこれほどの効果だとは……」


 二人ともこの程度で驚くなんて、だけどまだまだこんなのは序の口なんだけどな……。


「んー、驚いている所すまないが、まだまだ始まったばかりですよ? お? 丁度いい所にドラゴンがいましたよ!」


 先ほどのワイバーンを討ち取った騒ぎを嗅ぎつけてきたのだろうか? 四つ足でズシンズシン、と思い足音を響かせながら、緑色の鱗のドラゴンが現れた。


 コイツはアースドラゴン。ブレスもただの炎が飛んでくるだけだし、ハッキリ言ってドラゴンの中でも最弱の部類にはいる雑魚だ。だが、リンたちのレベリングには丁度いい相手だろう。


 早速、ダッシュで近づいて殴りつける。思いっきり殴ると一発で昇天してしまうから手加減が重要だ。


 うまく手加減できたおかげで、ドラゴンは口から泡を吹いて白目を剥いた。そして、ヒクヒクと痙攣しながらズシーンと大きな音を立てて倒れ込む。


 準備完了っと!


「さ、ちゃっちゃと止め刺しちゃってくださいね!」


 二人はドン引きしたような目つきでその光景を見ていたが、この程度で満足されちゃあ困るってものだ。それに、ドラゴンが倒れ込む音に引きつられ、魔物達が集まってくる足音が地鳴りのように鳴ってくる。


 くっくっく、まんまとエサにかかったな。今日はパワーレベリング祭り決定だ! まだまだいくぞ!


内心、ほくそ笑みながら、俺は出現する魔物を片っ端から気絶させて暴れ回るのであった。




   ***




 空に夕日が差し込んだ頃、集まった魔物たちを全て片付け終え、大の字に寝転ぶリンとザッツの姿があった。


「今日はお疲れ様。どうです? レベルはいくつになりました?」


 俺に問いにもすぐに答えられないほど、肩で息をしている二人。


「はぁっ、はぁっ、す、ステータスは……、う、うそ……。1000を超えてるわ。信じられない……」


「ひぃ、ひぃ、わ、私めも1000を超えておりますぞ。こ、これはもしかして我が国でも最も高レベルなのではないでしょうか?」


「二人とも大げさだなぁ。まだ初日が終わったばかりだよ? 明日は、もっと森の中に入ってみよう。あ、武器類もとにかく頑丈なやつを持ってこないとね」


 二人とも今日は疲れたようで返事も返ってこなかった。




   ***




「REN先生!」


 次の日、冒険の旅に出る前。リンが口を開いたと思ったらいきなり先生ときたか。


「せ、先生? 俺が?」


 まかり間違っても俺は先生などという柄ではない。教えるなんてことはしたことがないし、興味も無かったことである。街を色々と案内して貰おうと思ってやってみたのだが……。


「はい! REN先生のお陰で、魔法が使えるようになったんです!」


 嬉々として笑顔を浮かべるリン。


 そうか、確かに最初は魔法を使いたくてレベル上げをしようって話だったもんな。


「そうか、もう魔法が使えるようになったんだ! あっ、でも魔法が使えるようになったってことは、もうレベル上げは必要ないのかな?」


 恐らくだが、レベル1000もあれば適正のある魔法であればもう使えるはずだ。任務完了って所かな?


「それがですね……父上に話したらすっごく喜んでくれて……」


「その先は私から御礼を言わせて貰おう」


 気がつくとリンの後ろに領主でリンの父であるドルツが現れた。


「まずは娘が魔法を使えるようにしてくれて本当にありがとう。しかもレベルが1000を超えたというじゃないか! 本当に君には感謝してもしきれない……」


 ドルツは目に涙を浮かべながら俺の手をガッシリと掴み、感動に打ち震えていた。


「よかったですね。娘さんの念願が叶って」


「あぁ、今までどんな教師をつけてもだめだったんだ。もう諦めかけてさえいたんだが、君のような優秀な若者に出会えて光栄だよ!」


 よかった。本当に喜んでもらえたようだな。


「ところで、REN君。ものは相談なのだが、リンは殊の外、君の事を気に入っておってね。君に家庭教師を頼めないかと思ったのだが、どうだろうか?」


「えっ! 私が家庭教師ですか?」


 驚いた。でも教師なんて出来るわけないしな。これは断るしか……。


「報酬は君が望むだけ用意しようじゃないか! 何でも構わない。望みはないかね?」


 ドルツは俺の両肩をガッチリと掴んで顔を近づけてくる。ってか近すぎだよ! 鼻息が当たって気持ち悪いじゃないか!


「え……っと、特に望みと言うほどのものは……」


「REN先生! 私、もっと先生に教わりたいのです! ダメ……でしょうか?」


 リンはとてつもない美少女である。リンが瞳をキラキラと潤わせ、上目遣いに俺をジッと見つめてくる。しかも俺の手を両手でキュッと掴みながら。


 ぐっ、これは断りづらい! いつまでもいるわけにはいかないんだけどな……、ま、少しだけなら大丈夫だろう……。


「わかりました。乗りかかった船です。私が教えれることであれば面倒を見ましょう」


 結局押される形でオッケーしてしまった。二人は顔を綻ばせ、とても喜んでくれた。


 ま、いいか。こんなことがあっても。これも旅のウチってことで諦めるとしよう。


 俺はこの領主の娘、リンの家庭教師として色々と教えることになってしまったのだった。



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