第110話 救出



「ん? あれは……、オークジェネラルか! こんな場所にいるなんて。奥にいる人は……、まだ生存者がいるみたいだ!」


 俺はホーリーソードでオーク達をすれ違いざまに細切れにしていく。


 ジェネラルが俺に気付いた。


「グモオオオォォォ!!!」


 雄叫びによる威圧だろうが、バリヤーを薄く張っている俺には全く効果がない。それよりも奥にいる人のほうが気になる。早く助けなければ。


「オオオォォォッ!」


 俺は魔力を手に集め、ホーリーソードを長く変形させていく。


「喰らいやがれっ!」


 ジェネラルも上から巨大な岩斧を振りかぶった。だが、俺のホーリーソードはその岩斧ごと真っ二つに切り裂いた。


 縦に走った赤い線から血を噴き出しドドォ! っと倒れ込むジェネラル。


 俺は奥にいた人へ手を伸ばした。


「おい、大丈夫か?」


 その人は女性だった。長いブロンドの髪は腰まで伸びており、泥に濡れているが、整った顔立ちに見える。恐らくは高貴な人なのだろうか? やぶれて泥だらけになっている服だが、上質な生地で煌びやかさを感じるものだったのだ。


 だが、俺が手を伸ばした瞬間、その女性は気を失って倒れ込んでしまうのであった。




   ***




 俺はその女性をかつぎ、森から街道へ真っ直ぐに走った。


 すると行く手には盗賊らしき格好の者たちが森の中を必死になって探し回っていた。


 さっきのオーク達に紛れて盗賊らしき奴たちも死んでいたが……、なるほど、この女性を探してるって所か。


 どうみても襲っているのは奴らのほうだろう。容赦する必要もないか。


 すれ違う盗賊達を全て切り捨てていく。そのまま走り抜けていくと、やがて視界が開け、街道に抜けた。


 そこには盗賊の親玉らしき人物と騎士風の男が並んで立っていた。


 奴らは俺の背負っている女の存在に気付くとすぐに近づいてきた。


「げっへっへ、その女をこっちによこしな!」


 汚い舌を伸ばしながらサーベルの刃をなめ回し、威嚇しているつもりなのだろう。


「悪いことは言わん。その女性を置いて立ち去るがいい。そうすればお前の命だけは見逃してやろう」


 騎士の男はそれなりの貴族なのだろうか? 立ち居振る舞いが隣の盗賊とは段違いだ。


「残念だが……、この人を渡すつもりはない。お前等こそすぐににげるんなら見逃してやってもいいぞ?」


「なっ、なんだとぉ!」


 盗賊は指笛をピィーーーっと吹いた。集まる合図なのだろう。


「ひゃひゃひゃ、これでお前も終わりだ。囲んでリンチしてやるぜぇ!」


 盗賊の顔がますます下品になっていく。もう見ていられんな。


「ふぅ、では後は頼みますよ」


 騎士の男は剣を鞘に収め、後ろに下がっていく。


 俺もまとめて相手してやるほうが楽なので少し待ってやることにしたのだが……、


「ん? なぜだ? どうして誰も来ない?」


 盗賊は焦りだしたように首を左右に振って周りを見るが、だれもやって来る気配はない。


「あぁ、来る途中にゴミを切り捨てたんだが、あれで全部だったか。じゃ、待つ意味もないな」


 俺はホーリーソードを伸ばし、その場から一歩も動かずに盗賊の心臓を一付きする。


「ぐあっ! ば、ばかな……」


 その場にドサリと倒れ込む盗賊を騎士は驚いた顔で見た。


「むっ? 今なにをした? 貴様は一体っ?」


 騎士が剣を抜こうとするが、もう遅い。俺の剣はすでに奴を切った後なのだ。騎士の腕が落ちる。


「な、なんだというのだ!」


 体中に赤い線が走って行く。そして、騎士の体は崩れ落ちるのだった。




   ***




「んっ、こ……ここは……」


 ようやく目を覚ましてくれたか。取りあえずヒールとキュアーをかけ、体の傷と服は元に戻しておいた。その状態で壊れた馬車の座席部に寝ていてもらっていた。


 俺はその間に、盗賊達の遺体をヘルファイヤーで燃やし、また、彼女の騎士と思わしき服装の人たちは並べておいたのだ。


「やぁ。俺はソウ。冒険者だ」


 俺は発行してもらった冒険者プレートを見せた。


 それを見た女は少し安心したようだ。


「わ、私を助けてくださって、本当にありがとうございました」


 その女は優雅に頭を下げた。やはり貴族でもやっているんだろうな。振る舞いというものが今まで出会った人たちとはまるで違っている。


「私の名前はメティ。メティ・ヴァン・シュヴァルツヴァインと申します。貴方には本当に、感謝してもしきれません」


「あぁ、挨拶はそこまでにしよう。不躾かもしれないが、急がないと魂が離れてしまうんだ」


「魂が? 離れる? ですか?」


 俺の言葉に顔中でハテナマークを浮かべているようだ。


「俺には見分けが難しい者もいる。なにせ、山賊の隠れ蓑を被った騎士もいたようだんでな。君の目で一人ずつ確認してもらえないか?」


「……は? え……えぇ、それは構いませんが……。この者達は私を守るために死んでくれた忠義の士。手厚く葬らなければなりません」


「あぁ、頼む」


 メティは一人ずつ、その顔を確認していきながら、涙を流していった。


「この者達だけで問題ないようです。ここに並べられた10人はいずれも私の家の騎士です」


 メティは確認を終えると泣きながら俯いてしまった。


「よし、では始めるか、エリアリザレクション!」


 俺の体内から放出される膨大な魔力が白い光となって辺りを包み込んでいく。


「きゃっ、な、何が起こっているの?」


 メティもあまりの光に目を覆っていた。


「うん、なんとかなったようだ」


 俺の魔法が終わる頃には並べられた遺体たちに魂が戻り、息を吹き返していくのであった。






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