第111話 公爵邸



「う、ここは……」


「俺は……死んだはずじゃ」


「メティ様? これは……一体?」


 次々に息を吹き返す騎士達は驚きに目を丸くしながら、自分の体や隣の騎士たちを見ている。


「ソウさん……、こ、これは?」


 メティも驚きに目を開きながら、俺の両腕を掴んで揺らしてくる。


「蘇生魔法だよ。死ぬには惜しい騎士だったんだろ? 間に合ったようでよかった」


「いえ、そういうことではなくてですね! 貴方が一体何をしたのか分かっておいでなのですか!」


「だから、蘇生魔法だよ? ん? もしかして珍しいの?」


「死者を蘇らせる魔法なんて……、あぁ! 神よ! なんということなの!」


 メティは生き返った騎士たちと涙を流しながら再会を喜び合うのだった。




「この男が今回の指揮をとっていたみたいだぞ?」


 俺は最後に倒した騎士の遺体を皆に見せた。


「こ、この男は……」


 メティは男の顔を見て確信したような目になった。


「知ってるのか?」


「えぇ、この男は王女殿下の親衛隊をしている男。この男が手を引いていたとなれば、差し向けたのは間違いなく王女でしょう」


 またあの王女か……。全く碌なことしないな。まぁ、今頃は水竜さんに聖王もろとも躾されてることだろうが。ってか、このことは言わない方がいいだろうな……、言っても信じてもらえないだろうし。


「ソウさん……、いえ、ソウ様。この御礼は必ずいたします。ですが、私は王宮にこの事を問い詰めに行かねばなりません。それまでは王都の私の家でお待ちいただけないでしょうか?」


 うーん、王宮か……。肝心の聖王も王女もいないんだがな……。しかし、この人たちも襲われたくらいだからまだ安心は出来ないだろうしな。しょうがない。乗りかかった船だ。今日はダンジョンは諦めてついていくとするか。


「あぁ、構わないよ。だけど、刺客がまだいるかも知れない。気をつけてくれ」


「ご心配ありがとうございます。王都にさえつけば、私の父の護衛騎士が多く在駐しております。そこまで行ければなんとかなるでしょう」


「わかった。あぁ、そうだ。徒歩で行くのもつらいだろう。馬車を治すから待っててくれ」


「え? 馬車はもうボロボロですし、今は急がなくては……」


 俺は言葉を遮るように手でメティを制し、馬車と馬にもリザレクションを唱える。ついでにヒールとキュアーで馬も元気に、馬車も新品のような輝きだ。


「まぁ! なんということなの!」


「さ、急ぐんだろ? すぐに乗ってくれ。俺は護衛も兼ねて馬車の御者台にでも座るか」


 メティは感激に目を潤わせ、深々と礼をしてくれるのだった。




   ***




「これが、公爵邸か……」


 昨日訪れた冒険者ギルドも大きかったが、こちらも巨大だ。レンガ作りで重厚な門から見える邸宅は総四階建てになっている。門から邸宅までは見事に手入れのされた垣が続いており、その奥にメイドや執事が並んでいるのだった。


「あぁ、メティさん。俺、ここに入っても大丈夫だったんでしょうかね?」


「もちろんですとも! さ、ソウ様。こちらでございますわ」


 メティはテキパキと指示を出し、俺は客間らしき部屋に通された。


 豪華なシャンデリアはもちろん、テーブルやイスも手間のかかった作りになってる。なんだか座るのも恐縮してしまうな。……って、うお! すごいフカフカだ。こんなイス、初めてだ。


 イスの座り心地に感動していると、奥の扉が開き、中年の男が入ってきた。身なりもしっかりとしており、他の使用人とは全く違う雰囲気だ。髭は白くなってはいるが短く刈り込んでおり、オールバックに纏まった髪の毛と綺麗に繋がっている。顔にはシワも多いが、それが返って男に威厳を備えていた。


「君が娘を助けてくれたソウ君だね。ありがとう」


 その男は深々と頭を下げた。


「いや、たまたま近くにいただけですから。頭をお上げ下さい」


「うむ。娘の言っていた通り、謙虚なのだな。ワシはこの国で公爵の地位を預かっているギュスター・ヴァン・シュヴァルツヴァインだ。本来ならばもてなした上で色々と話でも伺いたい所なのだが……」


「どうも王宮内が物騒なことになっていますしね。お礼なんて結構ですよ」


「ふむ、君が知る通り、今、この国は荒れているのだ。残念ながら話をしている時間がないのだ。ゆっくり娘と話しをしていってくれ。では、失礼するよ」


 公爵は急いでいるようですぐに護衛を連れ、出かけてしまった。


 ま、聖王も王女もいなくなってるしな。それにしてもしっかりとした印象の公爵だ。なんとかこの国のためにも頑張ってもらいたいものだ。


 なんでも後日、報酬をいただけるとのことで俺は解放してもらえた。随分と忙しそうだったしな。


 あ、オーク狩ったんだ。ギルド行って換金しないと、今夜の宿代がない。




 ギルドに行くと、リーダーと霞さんがそろってテーブルにかけていた。


「あ、リーダー! オークを狩ってきましたから今夜も宿に泊まれそうですよ!」


「お? すまないね。僕たちは宿をチェックアウトしてきたところさ。だけど……」


 なぜだか、リーダーは元気がない。


「ソウ、なんだか、冒険者ギルドが大変なことになってるのよ」


 霞さんが真剣に悩んでいる顔つきだ。


「どうしたんです? 一体……」


「どうやら、まだこの国のお偉いさんが戦争する気らしくてね。この冒険者ギルドにも招集の声がかかってるんだ。それで僕たちみたいな新米まで戦場に行けって言われたんだよ」


「へ? うそ?」


 おかしい。王女はもう王宮にはいないのだ。王族がいなくなったというのにまだ戦争をしかけようという輩が存在しているのだろうか?


「うぅむ。ちょっと調べてきますね。気になることもありますし」


「あぁ、頼むよ。あ、オークは置いていってね! 僕たちで宿の確保までしておくからさ!」


 俺は目一杯捕獲したオークとオークジェネラルをリーダーに渡し、またしても王宮に忍び込むことになるのであった。



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