第98話 目覚め
ふと目を覚ました。
「しまった。寝過ぎちゃったかな? 今時間はどれくらいなんだ」
俺は両手両足を鎖で繋がれていた。その部屋には灯りもなく、真っ暗で周りは見えない。
だが、もう作戦は始まっているはずだ。となればいつまでもこうしてはいられない。
俺は両手に嵌められた鎖を引きちぎった。
「ん? なんだ、この鎖。魔力が回せないようになってる……。そうか、これって逃亡を防止するためのモノってことか。ま、力で引きちぎれる俺には全く関係ないけどね」
両足にもついていた鎖を引きちぎる。
ドアの外から足音が複数聞こえてくる。
ジャラジャラと音が鳴ってしまったせいだろうか。ま、扉を開けてくれるんなら手間が省けるな。うん。
案の定、扉の鍵が開き、中を覗いてくる兵がいた。その兵の後ろから手刀で峰打ちする。兵はあっさりと倒れ込んだ。
それじゃ、王様に会いに行くとしますか!
俺は意気揚々と牢を出た。しかし、体のあちこちに違和感を覚え、見てみると、見覚えの無い鎧やら籠手やら脛当てが装備させられていた。
「ん? なんだこりゃ?」
不思議に思い、鑑定してみる。結果はやはり、呪いの入った装備であった。意識が薄まっていき、操り人形として動いてしまう、そんな呪いがかかっていた。
「ははぁ、これで勇者達に戦争をさせたってワケか。だが、あいにく俺には効かないんだよなぁ」
俺の下着はリーダーが作ってくれた特製だった。この下着を着ていれば敵の洗脳魔法や呪いを弾いてくれる優れものなのだ。
俺はリーダーに感謝しつつ、呪いの装備を外し、アイテム袋へ入れておく。
「よし、じゃあ、やることをやってしまうか!」
俺はサーチの魔法を使い、城の全容を確認すると、王の住まう場所へと急ぐのであった。
***
全ては自分の思い通りに運ばれていた。
王は自分の采配により、聖教国の強さが戻ってくると信じていた。
そして、魔界をも支配下に入れれば奴隷を大量に使う事ができる。それはさらなる飛躍をこの国にもたらすに違いないのだ。
王はやがて来る戦勝報告を今かと待っていた。
そして、待ちにまった伝令が走ってくる。
王は威厳を保つ為、笑いをこらえるのを必死に押さえ込みつつ平静を装う。
だが、伝令は戦勝の報告ではなかった。
「報告します! 捕らえていた男が目覚め、城内で暴れております! どうかお逃げを!」
「な、なんじゃと……?」
王は開いた口が塞がらない。
「一体どうしたことだ? その男には例の装備をしたのではないのか?」
「はっ、装備は外されており、魔法封じの鎖に繋げておりましたが、それも引きちぎられたようです!」
「なんだ……、何が起こったというのじゃ……」
王の動揺と共に、後ろに控えていた宰相や高位貴族たちにも衝撃が広がる。
「ただ今、男と交戦中ですが……、その」
「すぐに近衛騎士団を向かわせろ! 急ぐのじゃ!」
王の間の周りに控えていた精鋭の騎士団が動き始める。だが、全ては遅かった。
王の間に悠々と歩いて入ってきた男は開口一番で恐ろしいことを言い放った。
「やぁ、皆さん。おそろいで。これから地獄巡りのツアーへご案内いたしますよ!」
「な、何をしておる! やれっ! やってしまえ!」
王の叫びも虚しく、辺りには黒い霧があっという間に広がり、王も、貴族達も近衛兵たちも、皆、意識を失うのであった。
***
王とその側近達は全て捕らえた。今頃は目を覚ましている頃だろうか。大牙と水竜さんに奴らの捕縛をお願いしてあるから、あとはしっかり? やってくれていると信じ、俺は魔界の戦場へと急いだ。
黒い霧ですぐに魔界へと移動すると地響きと共に地面が揺れていた。
「なんだありゃ?」
剣の形をしたものが天まで届きそうなほどの勢いで伸びていたのだ!
「こりゃまずい! RENの奴、暴走しちまってるのか?」
俺は黒い霧を最大限にまで広げながら急いだ。勇者の剣を抑えるべく、バリヤーが幾重にも張られている。だが、あっという間に砕け散っていくのだ。
「くっ、間に合えっ、間に合えーーーっっっ!」
黒い霧をより広げ、この一帯にあるもの全てを飲み込ませつつ、俺は、ギリギリの所でレイの元へと辿り着いた。
俺の魔力をほぼ解放した黒い霧は周りの人を全て飲み込み、世界の狭間、異次元へと
それと同時に聖剣は別の異次元に送り、影響のないよう消えてもらう。
「待たせたね、レイ」
魔王レイが俺の方を振り向く。相変わらずの綺麗な顔だが、すぐに涙を浮かべ、俺にタックルするように抱きついてくる。
「旦那様~~~っ!」
レイの頭をゆっくり撫でてあげると、ギュッと締め付けるように強く抱きしめてきた。
「市長もよく耐えてくれた。皆を守ってくれてありがとう」
市長は両膝をついたまま涙を流す。
「ありがたき、幸せですじゃ」
そんな時、
「おっそーい! 遅刻だぞ?」
リーダーの声が聞こえた。
「ふぅ、やっと来たのね? 遅いわよ!」
霞さんにまで文句を言われてしまった。
「すみません。お二人とも無事だったようでなによりです」
「ふっふーんだ。ボクを誰だと思ってるのさ?」
リーダーが胸を反らす姿が目に浮かぶな。
「あら? その割りにはソウが黒い霧で送ってくれた映像を何度も見直してたじゃない?」
「あ、霞! それは言わないでよ! カッコつかないじゃないか!」
俺は、聖教国の城へ乗り込んだ際、黒い霧を部屋の上部に張り、自分が闘う様子を魔王国のみんなに見てもらっていたのだ。
その上で自分はワザと気絶し、捕まったフリをして、聖王達を捕らえる。そういう作戦だったのだが、ギリギリになってしまったのは俺の落ち度だった。レイを危ない目に遭わせてしまった。これは深く反省しなければ。
さて、俺はまだやらなければならないことがある。
「レイ。少し離れてて。あの勇者は俺が止める」
「うぅ、すぐに戻って欲しいのじゃ……」
「あぁ、すぐに戻ってくるよ」
***
「き、貴様ぁ、王宮で捕らえたはず……。それに俺の聖剣をいったいどうしてくれたんだ!」
勇者RENは真っ赤な目を見開き、俺を睨み付けてくる。
「REN……、今お前に答えることなどない。その呪縛、解き放ってやろう」
「うぅぅ、ぎゃあああぁぁぁっっっ!!!」
RENが悲鳴を上げる。来ていた黄金の鎧がさらに光を放つ。
「ふぅっ、ふぅっ、殺してやる、殺してやるぞぉ……」
RENの目は赤く光り、口から黒い気体を吐き出す。もはやかつてのライバルの面影すらない。
俺は三度、勇者と対峙するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます