第90話 勇者パーティの力
「さて、皆さん。レベリングの旅はいかがでしたか?」
王女が皆に声をかけた。
だが、勇者一行は椅子に腰をかけたまま動かない。ただ空を見つめるようにボーっとしていた。
「はっ、問題なく、皆が人類最高峰と呼べる、7000台に引き上げて参りました!」
敬礼をしながら後ろに控えていた兵が答えた。
「それはそれは。皆さんのように勇敢な兵がいたからこそ、これだけの戦力を作ることが出来たのです。ご苦労さまでした」
「はっ! ありがたき、幸せ!」
兵達は敬礼をし、下がっていった。
応接の間には勇者一行と王女、それから王女の側控えが残る。
「さて、優秀な駒が揃ったところで……、魔界へいってもらおうかしらね。手はずはどうなっているの?」
「はっ、準備は滞りなく、進んでおります。明日には、北の森からダンジョンへ突入させることが出来ます」
「結構。では、予定通りに。この勇者達には精々、お腹いっぱいに食べさせておきなさい。明日には死んでしまうかもしれませんしね」
王女は顔色一つ変えずに淡々と述べた。
勇者達を見る目も、蔑んだような見下すような目つきだった。
俺は豪華なシャンデリアが取り付けられている天井に小さな穴を開け、このやり取りの一部始終を見ていたのだ。
だが、勇者RENがふと顔を上に向けた。
まずい、俺の位置がばれてるのか?
「鼠がいるようね。やっておしまいなさい!」
王女は側控えに守られながら下がっていく。そして……、
「そこだっ!」
RENの手のひらが光り、天井まで一筋の光が走った。その光は激しくうねり、稲妻のように天井を貫く。
ガッシャーーーン!
シャンデリアが地上へ落ちるとキラキラとガラス片が舞い、光りを反射している中、俺の体が地面へ着くのであった。
「これはこれは……、見覚えのある男じゃないか。以前はお世話になったなぁ。だが、俺は強くなったぜ! 今度こそ、貴様の首が宙を舞うときだ!」
RENが先ほどのボーッとした生気のない表情から一気に殺気溢れる顔へ変貌を遂げた。
目は吊り上がり、口が裂けそうなほど三日月に開いている。
「どうやら、話し合い……、なんて出来そうにないな」
「ったりめぇだ!!」
RENが襲いかかってくる。勇者の剣はすっかり元通り……どころか、パワーアップしてやがる!
一回りも太くなった剣を軽々と振り回し、俺のホーリーソードと打ち合っていく。だが、ホーリーソードを軽々と切り裂くほどにRENの剣は強化されており、俺は一気に壁際に押し込まれていった。
「俺のホーリーソードがやられる……だと?」
「くっくっく、レベルアップも果たし、剣もパワーアップしたぜ? 後は魔族の首を上げるだけなんだよ? クヒャヒャヒャヒャ!」
笑いながらもすぐに打ち込んできた。俺はとっさに、アイテム袋から愛用の刀を取り出し、鍔競り合いの形になる。
「ぐぅ! な、なんだ? この力は!」
以前とは比較にならないほどの強烈な力で俺の背中は壁に押し込まれた。
「今までの俺だと思うなよ? 装備一式、全てに強化付与魔法が施され、貴様の力を凌駕したのだ!」
RENが力を一気に爆発させた。俺の体は刀ごと吹き飛ばされ、壁を貫いて、後方にあったホールにまで転がっていった。
「くっ、今までのRENとは大違いだ。これほどに強くなっていたとは……」
目の前に勇者一行が現れる。
「REN。俺にもやらせろ。雑魚モンスターには飽きてたんだ。ちょうどいい遊び相手じゃないか」
今まで静観していた
「ケッ、まぁいい。ただし、やばくなったところで俺は助けねぇぞ?」
「誰にモノを言っている? 俺が奴に負けるとでも?」
RENは戦闘に参加しないのか。正直、全員でかかってこられたらやばかっただろう。だが、一人なら……。
Fina1が瞬時に姿を消した。
「速い!」
かろうじて剣で防いだ。いつのまにか、Fina1の手には赤く、大きなソードが握られていた。とても目で追える早さではない。RENよりさらに一段速く感じる。その分、RENのほうが攻撃が重い、そんな感じだ。
「そら、まだまだいくぞ」
Fina1は無表情のまま、俺に連撃を仕掛けてくる。
だが、スピードの予測さえ出来てしまえば、どうということはない。
スピードに慣れてきた俺はその連撃を躱しきる。
「ほぅ、俺のスピードに着いてこれる奴がいたのか」
やっと表情が変わる。Fina1は感心したように頷くと、また連撃をしかけてきた。
「っく! いつのまに!」
Fina1は左手にショートソードを持っていた。二刀流になったことで、放つ連撃は倍。それまでよりもはるかに多い刃が俺に襲いかかってくる。
「くっ、速すぎる!」
咄嗟に、刀を右手で持ち、左手にホーリーソードを出す。
これでどうだ?
絶え間なく続くFina1の連撃をなんとか弾き返していく。
「ほぅ、やるじゃないか! それならば」
Fina1の体に赤いオーラが噴出する。
「こ、これは?」
Fina1の体を覆い尽くしたオーラが一瞬にして消え、俺の体を通過し、背後に抜けていく。
「ぐふっっっ」
口から赤い液体が漏れ出す。
その後になって、俺は体を切られたことに気付いた。お腹に赤く線が入ると、血が噴き出す。
慌ててヒールを使ったが、危ない所だった。もう少しで本当に死んでしまう所だったかもしれない。
「ほぅ、しぶとい奴だ……」
Fina1は振り返りながら淡々と口を開く。そして、その目は俺を見下すような冷たい視線となっているのだった。
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