第91話 勇者パーティの力 2
ヒールを唱えたものの、まだ傷口が塞がりきっておらず、口からタラリと血が流れ落ちる。
「ふん、噂ほどでもなかったな」
Fina1はすでに興味を無くしてしまったかのような冷たい目つきで俺を見下した。
「それなら、ウチらにも参加させてぇな?」
後ろで控えていたチコが突然前に歩み出る。
「アタシ達だっていっぱい鍛えたんだから! 試させてよ」
ミウはチコの前に立ち、声を上げた。
Fina1は、ふぅ、とため息を一つつくと、
「よかろう。思う存分遊んでやるがいい」
RENは後ろでニヤニヤと笑っているだけ。Fina1はすでに興味を失っており、後ろの壁に寄りかかって剣を鞘に収めてしまう。
正直な所、相手が舐めてくれているおかげで俺は助かった。
だが、次は国内で2ON2のチームプレイで最強を誇るチコとミウ。この二人を一人で相手しなければならないのか……。分が悪いなんてものじゃない。RENやFina1をそれぞれ一人で相手するだけでも大変だというのに……。
「じゃ、魔界の救世主の力。試させてもらいますよってに」
チコが木製だが、異様に魔力が溢れ出ている杖を手前に構える。こいつは魔術師タイプってことか。
「アタシもやっちゃうんだからね!」
ミウはなんと、両手に短く、白いロッドを構えた。
何だコイツ? ロッドを両手持ちするなんて聞いたことがない。
俺の腹の傷が塞がり、ようやく動けるようになった。
コイツら、やっと攻めてくるのか……。舐められたものだな……。
ミウが走り出す。先ほどのFina1と比べてしまえばスピードが遅い。だが、近接戦闘職であれば、及第点といったところか。
俺の刀とミウの激突する。
「む? なんだ? その堅さは……」
ロッドであるにも関わらず、俺の刀と打ち合うことが出来ているのだ。
「いっくよー! ブーステッド!」
ミウの動きが突然速くなる。両手に持ったロッドを回転させるように鮮やかに攻めてくる。チアリーディングのロッドでも振り回しているかのように華麗に、速く、そして、その攻撃は重い。
「ぐぅ……、ロッドがこれほど重いとは!」
「あらあら、背中がお留守になってますよ? ウチのこと忘れられては困りますえ?」
チコは背後に回り込み、炎の玉を宙にいくつも並べ、俺に飛ばしてきた。
「む? バリヤー!」
俺のバリヤーに当たったファイヤーボールは次々と爆発していく。
だが、後ろからミウが攻めてきていた。
「よそ見は危ないんだからね!」
ロッドが、俺の頬と腹に突き刺さる。
「ぐおっ!」
「まだまだウチの魔法は終わってませんえ?」
続けざまに発せられた氷の槍が次々に、飛んできた。
「チィッ、バリヤーが間に合わない!」
俺は大きくジャンプして遠くへ間合いを離した。
ふぅ、一人でも相当な手練れだというのに……、二人同時はキツすぎるぜ。
「ふふっ、逃げられるとでも思って?」
チコがまた炎の魔法をセットした。だが、前に放ったファイヤーボールではない。高位魔法のフレアーだ。
フレアーは一発でファイヤーボールの数十倍の威力を誇る。そのフレアーが20発。チコの上に浮かび上がっている。
「う、うそだろ? 高位魔法を20連発?」
高位魔法は1発打つだけでも相当なMP消費がある。それを20発となるとワケがわからない。俺ですら、そこまでの連発は無理なのである。
「あら? 驚かせてしまったみたいね? でも安心して。すぐに楽にしてあげるわね」
チコの哀れむような目つきで口角を上げる。
「に、にげないと……」
「逃がすわけないでしょう? アンタはもう終わってるんだから! いっけぇ! MAXパワーだよ!」
ミウはロッドを俺に投げつけてきた。それ自体を躱すのは容易だ。しかし……、
「そこだっ! えいっ!」
投げられたロッドの軌道が変わり、2本のロッドが常に俺を攻撃してくる。しかも前後同時にだ。
宙を舞うロッドの連撃は重く、本人が振るうよりもはるかに防御が難しい。何せ、どこから攻撃がくるのか、全く読めない。
ミウの連撃に俺はその場を動けなくなってしまった。そうこうしているうちにチコのフレアーは目前まで迫っていた。
「きゃはは! じゃあねー」
ミウは笑いながら、フレアーに包まれていく俺を見送る。
「くっ、躱しきれない。バリヤー!」
「ふふっ、そのご自慢のバリヤーもすぐに剥がしてあげるわ」
フレアーを20発も放ったというのに、チコは俺のバリヤー目がけて魔法を放ってきた。光属性の爆発魔法のようだ。
俺の前にフラッシュが起こり、大きな爆発が起きる。
「なにっ! バリヤーが!」
その爆発はバリヤーを打ち消してしまった。
ありえない! 俺のバリヤーがこれほど簡単に打ち破られるとは!?
俺の体にはフレアー20連発が次々と着弾した。
「ぐあああああっっっ!!!」
爆風が晴れていき、4人の勇者パーティが揃って笑っている姿を最後に俺の意識は落ちるのであった。
*
「ごくろうさまでした」
再び能面のような顔に戻った勇者パーティに心の籠もらない声をかける王女。
その顔は王宮を破壊したせいか、眉をヒクヒクと震わせ、怒りに目が吊り上がっている。
「この男、まだ息があるようです! いかがしましょうか?」
警備の兵がソウの周りを囲み、王女へ報告する。
「もちろん、有効利用するに決まってるでしょう? さっそく、洗脳の為の装備を着せておきなさい!」
「はっ!」
王女の側仕えの者たちが手際よく、ソウの体に呪い付きの鎧を着せていく。
「ふっふっふっふ、これで駒が増えましたわ。あの憎き魔界の者どもを確実に葬り去ってくれることでしょう」
王女は満面の笑みを浮かべ、王宮の奥へ消えていくのであった。
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