第56話 リーダー



「いいかっ、リドリー共! 大人しく出てこい! さもなくば、こいつらを一人ずつ喰い殺してやるわ!」


 やれやれ、なんて奴だ。品性の欠片もない。


 洞窟から歩いて出る。奴は当然、見逃すはずがない。


 そうだ、俺に注目しろ。わかりやすく出てきてやったんだ。


「き、貴様はさっきの! ぬうぅぅぅ、今度こそ踏み潰してやるわ!」


 巨獣人は足を挙げて降ろしてくる。


 まったく、これしか出来ないのか? 芸のない奴だ。


 ”俺の姿”を奴は踏み潰した。そして執拗に足をグリグリと左右に振る。念入りに潰すように。


「ギャーハハハ!! ざまぁみやがれ! この俺様に逆らった奴はみんなこうなるんだよ! ギャーハハハハ!」


「やれやれ、知能がかなり低いようだな。話にならん」


「むうぅ!?」


 奴が踏み潰したのは俺の残像。本体は木の枝の上だ。


「全く見苦しい。俺の残像を踏んで喜ぶ様なんか滑稽もいいところだ」


「な、なにをう! いいか、動くなよ? 少しでも変な動きをしたらこのリドリーを握り潰してやる!」


「はぁ~~~、こんな奴と会話しようと思った俺がバカだった。いいか? 今すぐその人を下に置け! そうすればこの場は見逃してやろう。だが、俺の言うことを聞かないならば地獄を味わわせてやる!」


「ギャーハハハハ! 面白いギャグだ! お前等リドリーに何が出来る! 俺様に命令など百万年早いわ!」


 ふぅ、言ってわからん奴には実行あるのみ。


「そうか、では楽には死ねんぞ!」


 奴の首へ一直線に飛び、ホーリーソードを一閃した。


「あん? どこへ行った? 後ろか?」


 奴の体が後ろを向こうとした。だが首から上だけはそのままで体だけが後ろを向いた。


「あぁ? どうなってやがる。後ろを向けねぇじゃねぇか?」


 そして奴が頭に手を当てると……


 頭部だけが押されたようにズレていく。


「あぁーーーっ! どうなってやがんだーーー!」


 ズズゥンと音を立てて奴の頭が落ちた。そして、奴の体は立ったまま硬直していた。


 悠々と奴の腕に飛び乗り、握られていた男を救出する。


「ああっ、アンタ! 無事だったんだね!」


「おお、エリザ。すまなかった。心配させてしまって」


 二人は涙を流しながら抱き合う。


「本当になんとお礼をしたらよいものか……」


「本当に、本当にありがとう。君のお陰で命を救われた! この礼は必ず、一生かけても返すよ!」


 二人からお礼を言われる。だが、俺にはまだやることが残っているのだ。


「すまないが、すぐに洞窟へ避難していてくれ」


「うん? 巨獣人はもう倒したじゃないか。まだ危険なのかい?」


「あぁ、ちょっと実験したくてね」


 二人は去った。


 さぁ、実験だ! これだけ大きな獣人だ。経験値もそれなりに入るはずだ!


「リザレクション!」


 時が巻き戻るかのように巨獣人は生き返った。


「あ? あで? 俺は……一体」


「俺が生き返らせたんだ」


「お、おめぇは! やろぉ! 今度こそ叩き潰して……ぶへっ!」


 あんまり五月蠅いから奴の顔にヘルファイアーを放つ。


「ギャアアアアッッッ!!!」


 あ、ヘルファイアーだけで燃え尽きた。なんて脆い奴だ。


 レベルはと……、


 ふーむ、お? 闇魔法が1上がってる! 闇魔法が7128だ!


 こりゃいいぞ。コイツ、弱いくせに経験値いっぱい持ってるんだ!


 体の底からクツクツと笑いがこみ上げ、体が上下に揺れる。


「ツイてる。めちゃくちゃツイてる! こんなラッキーもうないかも知れん! やったー! 今日から目一杯レベル上げだ!!! ヒャッハー!!!」


「リザレクション!」


 あ、奴は起きると五月蠅いから頭部をバリヤーで囲んで防音仕立てにしてみた。


「もがっ、もがもがっ!」


 頭部を薄くバリヤーで覆い、空気の流れを遮断したのだ。これで奴の鬱陶しい声も聞こえない!


 後は、邁進するのみ!!




 俺の闘いが始まった。そう! レベル上げ周回だ! 一体、何周するのか、想像もつかない。この千載一遇のチャンス、モノにしてみせる!




 ひたすらに続く作業。もう三時間は繰り返しただろうか。俺のことを心配した人達が、目を丸くして様子を見ている。リザレクションから倒すまで五分とかからない。だが、俺の頭はすでにぼーっとしてきた。ここからだ! ここからがキツくなってくる。ここを乗り越えれば、精神的にハイになってまだ続けていけるんだ!


 十時間が経過した。もう辺りは暗くなっている。周りには人だかりも出来て、俺について話しているようだ。だが、俺には関係ない。レベルは順調に上がっているのだ!


 それから二日が経過した。俺はレベルの上がりにくくなった闇魔法から風魔法へ切り替えた。闇魔法は8300となった。まぁまぁだな。


 そして始めてから一週間が過ぎた。風魔法も8350。調子が乗ったので少しやり過ぎただろうか? うぅむ、これ以上は千回倒しても1すら上がらなさそうだ。事実上の打ち止めだろう。


 ならば! 闇魔法も8350まであげておこう! うむうむ、そうだ。この調子だぞ!


 レベル上げを始めてから十日が経過した。今では洞窟の人々と気楽に挨拶をしながらレベル上げをするようになっていた。


 そしてついに! 闇魔法も8350まで上がったのだ!


 やった、やったぞ! こいつを倒すこと十日間。目標コンプリートだ!


「やれやれ、やっと終わったかい?」


 聞き慣れない女性の声だ。誰だろう?


 振り返ると金髪ツインテールの美少女が立っていた。


「ボクはリズ。この洞窟のリーダーさ」


「え?! 君がここのリーダーなの?」


 見た目は幼さの残る女学生といったところ。どう見ても十代後半くらい。そんな彼女がここのリーダーなのか? あの刀すら創ったっていうのか?


 頭がこんがらがる。あんな女の娘が一体どうやってあれほどの知識と技術を……。


 あまりの不思議さに頭を捻ってしまうのだった。


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