第57話 刀術



「そういえば、君はソウって名前らしいね?」


彼女は腕組みをしながら真剣な眼差しで聞いてくる。


「えぇ、それが何か」


「うむ、ボクはソウという名前に縁があってね。まぁ昔の話なんだが、ファンタズムスターズという……」


「知ってるんですか!!」


 驚いた。まさか知っているとは……。


「む!? もしかしてファンタズムスターズのソウ君なのか?!」


「えぇ! あのゲームでもソウって本名でプレイしてたんですよ!」


「なんてこった! まさか! 運命とはこれほど奇怪なものとは!? ボクだよ! ソウ君! アルティメットハンターズのリーダー、ライズとは僕のことだ!」


「う、うそでしょ……」


「うそなものか! 君と何万周と一緒に周回したじゃないか! 覚えていないのかい? あの輝かしい日々を! サイキックウォンドを取ったあの感動を!」


「ほ、ホントにリーダー、なんですね」


「おいおい、そんなに泣くなよ。いい男が台無しだぞ?」


 気がつけば、俺の顔は涙でずぶ濡れだった。


「り、リーダーっ! 会いたかったです!!!」


 リズの胸に飛び込んだ。柔らかさは足りないが温かい。まさか、生きて会えるなんて。


「はっはっは、全く変わっちゃいないな! さっきまでの周回見せてもらったよ! 気合いの入ったいい周回だ!」


「ありがとうございます! 周回の大切さ、リーダーから教わりましたから!」


「うん、とりあえず……、積もる話もある。洞窟の僕の部屋へ案内するよ」


「は、はい!」


 まさか、こんな所で出会うなんて! 運命ってのは全く、嬉しいことをしてくれる!




「さて、ソウ君はも巨獣人と闘ったから無関係ではない。我々、レジスタンスに加わってもらいたいんだが、いかがだろうか?」


 リーダーはテーブルへかけて、そう切りだした。


「あの巨獣人と闘っているんですね?」


「あぁ、そうなんだ。だが、僕は戦闘系のスキルは全く持っていないくてね。これまで歯がゆい思いしてきたんだ」


「リーダーのスキルは生産系、ということですか?」


「あぁ、話が早くて助かる。僕のスキルは錬金術、鍛冶術、そして鑑定術だ」


「それであの日本刀を創ったんですね。あれほどの業物わざもの初めて見ましたよ!」


「ははっ、そうかい。なら、これを受け取ってくれ!」


 リーダーは腰に巻かれていた刀を差し出した。


「こ、これは……」


「こいつは、実の所、失敗作でね。持ち主の魔力を吸い上げ、それを攻撃力に変換するんだ。だが、燃費が悪くてね。使える者がいなくて困っていたんだ。だが、君のありあまるMPならいけるんじゃないか? そう思ってね」


「こんなすごいの……、いいんですか?」


 手に持った瞬間にわかる。この刀は只者じゃない。揺らめくように光る刃紋。俺の魔力を吸い、オーラが湧き上がる。そして、刃の色が銀から紫へ変わっていく。魔力を吸えば吸うほど妖絶さが増していく。


「もちろんさ、早速、試し切りしてみようじゃないか! 練習場へ行ってみよう」


 そして、連れられるままリーダーの後に着いていくのだった。




「そういえば、リーダーって……」


「うん? なんだい?」


「女性……だったんですね」


「あぁ、そっか。ファンタズムスターズではゴリゴリの男キャラだったからね。僕は見ての通りさ」


「俺、てっきり……。あ、いえ、なんでもないです」


「何だい? ソウ君。水くさいな。僕と君の仲じゃないか? 遠慮は無用! 何でも聞いてくれたまえ!」


「いや、俺……、てっきりリーダーは霞さんと付き合ってるんじゃないかって思ってたんですよ」


「ぶふっ! ぼ、僕が霞と付き合ってる? どうしてそう思ったんだい?」


「いえ、仲が妙に良すぎるというか。距離感が近い気がしたんです。それで……」


「そうか。君に言ってなかったのか。僕と霞は姉妹なんだよ。リアルで」


「え……?」


「なんだい、目を丸くして。あ、因みに僕が姉だからね!」


 まじまじとリーダーの全身を眺める。背は俺の胸くらいまでしかない。胸もあまりない。幼さの残る体型。ツインテール。一体どこが霞さんの姉だというのか?


 霞さんは俺と同じくらいの身長。長髪の黒い髪に光る艶。グラマーでボイン。クビレ。大きめのお尻。長い足。


 どうしてこうなった? これほど違う姉妹なんて見たことない!


「ちょ、失礼だよ! ソウ君! 今、霞と僕を比べただろう? 確かに霞はモテる。言い寄ってくる男なんてわんさかいた。僕と一緒にゲームやってたのが不思議なくらいのトップカーストさ。だけどね。僕はこう見えて尽くすタイプなんだ。どうだい? ソウ君?」


「いや、どうと言われましても……」


「そうか……」


 心なしかリーダーの肩が下がる。


「お、着いたようだ。ここが練習場だよ! さぁ、その剣を振ってみてくれたまえ!」


「わかりました」


 とは言ったものの。俺にはホーリーソードがある。刀を使うことなんてあるのだろうか? うーむ……。


 リーダーの目は喜色を浮かべ、握り拳でこちらを見ている。


 とても断れない。適当に振っておくか。


 かかしに向かって刀を振る。最初なので届かない距離で素振りだ。


 ヒュン! 風を切る音。間違いなくこの刀はすごい。それはわかるんだが……、


 そんなことを思っていたとき、


「流石、ソウ君だ! 凄まじい太刀筋! あっという間に切ってしまうなんて!」


「へ? まだ切ってませ……」


 かかしがスルッと斜めにズレた。


「え?」


「うん! やはりその刀をソウ君に渡して正解だ!」


 喜び、拳を挙げるリーダー。


 うそ? 俺、刀を抜いただけなのに……、なにコレ?


「言っただろう? その刀は使用者の魔力で強さが変わるんだ。見たところ、ソウ君は魔力もMPもカンストしている。刀の威力を最大限に引き出せているのさ!」


 ウソでしょ? ホーリーソードよりも切った感覚がないよ?


「あっ、なんだ? この湧き上がる力は?」


「フッフッフ、潜在能力が開放されたようだね。ステータスを見てごらん!」


「えと……、っ! 刀術 レベル1 が追加されてる!」


「やったな! ソウ君。これで新たな扉が一枚開けたじゃないか!」


「ありがとうございます! やっぱりリーダーは凄い! 偉い! 一生ついていきます!」


「はっはっは、そうだろう。そうだろう! 僕は霞よりもすごいだろう! はーっはっは!」


 やっぱりリーダーだ! 俺を導いてくれる! 凄い人だ!


 俺はリーダーの手を一生懸命に握って、誓いを新たにするのであった。


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