第5章 巨獣人の里編

第54話 巨獣人の足



 激闘は終わった。


 激しく破壊された元魔王城。その周りは緑に包まれた。


 魔界は救われた。だが……魔界を救った大魔神ソウの姿がどこにも見えない。


「ホントにソウ様はどこへ行ってしまわれたのかのぅ」


 村長が呟く。


「えぇ、妾なんて結婚式を挙げる前に未亡人じゃ」


 レイは目を細めて、小高い丘から元魔王城を見下ろしていた。


 深く抉れた大地は激闘の証。


 だが、あの魔神が消えたと同時に魔界には太陽が降り注ぐようになった。そして、あっという間に元魔王城は緑溢れる大地へと変貌を遂げた。


 山が緑に溢れると、川が澄み、魚が戻ってきた。


 魔界はもはや不毛の大地ではなくなった。


 食物はふんだんに採れ、狩りや釣りも出来る。家畜を育てることも出来る。


 食料を争うのはもう過去の話。


「ソウ様……、いつか帰ってきて下され。ワシらはいつまでもお待ちしておりますぞ」


 村長は毎日、元魔王城に来ては祈りを捧げる。


「ホントじゃ! このまま妾を未亡人扱いされるのはゴメンじゃ! 帰ってきてもらわねば困るのじゃ!」


 レイは頬を膨らませる。


「閣下。今日は魔界の新しい門出の日。目出度き日でございます。行きましょうぞ」


 魔王国の新たな建国。それを高らかに宣言する日であった。


「そうじゃの。いつまでも湿っぽくしていられん! 旦那様が帰った時には、発展した魔王国をゆっくり見てもらうのじゃ!」


 二人は村へ帰った。新しい魔王国をこれから築くために。




   *




「……、ん……なんだろう? 風が当たる。って、ちょっとじゃない! なんじゃこりゃ!!!」


 目を開いた。


 俺の体は空高くから落ちていく真っ最中だ。


「なんてこった! あの魔神め! 何て所に飛ばしやがる!」


 迫り来る地面。風圧で服がバサバサと揺れ動く。そのため、手足を動かしにくい。


「これ、どうすりゃいいんだ? もしかして、地面に衝突する寸前にでもヒール唱えろって言うのか? マジかよ!?」


 そうこう思ってるうちに地面は迫ってくる。


 俺の落ちる地点に大きな木が確認できた。衝撃に備え、両腕で頭をカバーする。


 よし、上手い具合に木が生えてる! ここに突っ込めばなんとかなるかも?


 ズドドドドドドドドォォ!!


 木の枝を叩き折りながら俺の体は突き進んだ。


 痛いのは嫌だからバリヤーを張っていたのが幸いした。


 木の枝にぶつかる痛みは幸いなかった。


 木の枝がクッションとなり、勢いが削がれていく。


 それにしても大きな木だ! まだ地面が見えない!


 いくつもの枝を折り、ようやく地面に着く頃には衝撃もなく着地できるのであった。




「ふぃ~、助かった!」


 はぁ~~~、っと大きなため息がでる。


「それにしてもここは……一体……」


 周りを見渡しても凄まじい巨木だらけ。


 一体、樹齢何年経てばこれほどの木になるんだ? 想像もつかない……。


 周りの木々は一本一本がとてつもない高さに育っている。恐らくだが、スカイツリー並みの高さじゃないだろうか? 確実に東京タワーを超えてるぞ? ま、そのおかげで助かったんだが。


 周りを見渡した。鬱蒼とした森の中。木々が巨大なだけでなく、草や虫たちも巨大サイズだった。


「マジか……。虫となんて闘いたくないぞ? めっちゃ強そうじゃないか! あいつら……」


 俺が困っているこの時にも、襲いかかってくる巨大バッタ。頭だけで俺の膝ほどの高さまであるのだ。


 まるで大型犬にでも襲われている感覚だ。


 とっさに張ったバリヤーにかじりつく。そこから見える強靱な歯を見ると、俺の肌が粟立った。


 ひっ、マジでこんなん無理だ!


 ホーリーソードを振り回し、襲ってくる奴だけ倒しながら、走った。


 俺がどこに向かってるかなんてわからない。


 それでもとにかく走らないことには虫の大群が襲いかかってくるのだ。


 後ろを振り返ると、俺が倒した虫をさらに巨大な鳥が啄んでいた。


 鳥まであんな巨大なのかよ……。


 鳥の大きさは前の世界のドラゴン並みである。


 うぅむ……とりあえず、安全な場所を探すか!


 俺は鬱蒼と生い茂る森をどんどん走り抜けていくのであった。




「ん? なんだありゃ?」


 走り抜けた先には、足があった。


 どう見ても獣の足だ。それも巨大な。


 甲の高さは俺の身長ほどもある。


 上を見上げると、遙か高みに獣人の顔らしきものが見えた。


「お? ついに第一村人発見か?」


 そんな声を出した時、巨獣人の目がジロリと俺を捉える。


 まるで虫でもみるかのような見下した目。細く、黄色い目の尻に皺が寄る。


「あぁん? 逃げ出したリドリーか? このめんどくせぇ奴らがっ!」


 怒声をあげ、その巨大な足で踏みつけてくる。


 俺はとっさに躱した。


「けっ、すばしっこい奴だ。俺はオメェ等みてぇなリドリーが大っ嫌いなんだよ! 消え失せろ!」


 巨獣人の声が腹にまで響いてくる。


「ったく、少しも会話が通じねぇのかよ?」


「貴様等リドリーが会話だと? 百年早いわ!」


 問答無用らしい。巨人は何度もしつこく踏みつけてくる。


 ま、どれも残像ばかり踏んでるから、俺には当たらないがな。


 ちょっとばかり冷静になってもらうとするか……。


「ダークファイアー!」


 巨人の髪に火がつく。そして、あっという間に燃え広がっていった。


「うわっ、あぢ、あぢぃ!」


 巨獣人は頭をはたきながら逃げ去っていった。


「なんだったんだ? あいつは……」


 走り去ってゆく巨獣人。


 すると、周りにあった岩陰から人が出てくるのであった。


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