第51話 現界


「グオォ……、こ、このバケモノめ。こうなったらこの城ごとワシの必殺技で壊しきってやるわ!!!」


 ゴーゴリの斧が金色に光った。黒く溜まっていた上空の雲から雷がゴーゴリの斧にいくつも落ちた。


 その雷はゴーゴリの斧に溜まっていくかのように、斧はいよいよ白く光輝いていく。


「面白い! こういう奴と打ち合ってみたかった!」


 俺の手は歓喜に震えた。ホーリーソードに魔力を最大限にまで込めると、太く長く変化し、色もほぼ真っ白な光を放つ。


「喰らいやがれぇ!!」


 ゴーゴリが振り降ろす。


 俺のホーリーソードも上段から打ち合うように振り下ろした。


 二人の斧と剣がぶつかり合い、鍔競り合いの形になる。


「どうした!? お前の力はそんなものか!」


 俺には余裕があった。もっと魔力を込めようと思えばまだいけるのだ。


「くそっ! フルパワーだあっ!」


ゴーゴリの斧にさらに雷が落ちていく。より白く雷のパワーを溜め込み、俺の剣と競り合う。


 だが、限界が訪れた。


 ピシッ!


 斧にヒビが入る。


 そのヒビはやがて大きく走って行き、その他の部分にもヒビが細かく入っていった。


「くうううっっっ!!! ば、ばかなっ! ワシのヘルアックスが!」


 バリィィィィン!


 甲高い金属音を響かせ、斧は砕け散った。


「ここまでのようだな」


 俺は奴の腹にホーリーソードを一閃した。


「ぐふっ……、見事……なり」


 ゴーゴリの上半身がズレ落ち、そのまま息絶えるのであった。




「くうぅ! よくもゴーゴリを!」


 セイラムは必死に立ち上がり、剣を構えた。


 自身の体に残る魔力を振り絞り、剣へ乗せる。


「ゴーゴリの仇だぁ!」


 怒りに任せた剣はセイラムらしい剣ではなく荒く重い一撃。


 だが、無情にもその剣は俺の残像を切っただけだった。


「残念だったな」


 俺のホーリーソードが振るわれると、セイラムは身を僅かに躱した。そして、セイラムの右腕を切り裂いた。


 セイラムは無くなった右腕を押さえつつ、体を震わせながら、こちらに睨みを効かせてくる。


「はぁっ、はぁっ、確かに……貴様は強い。だが、最後には俺たちが必ず勝つのだ!」


「もうやめておけ! お前の利き腕がなければこれ以上の勝負は無用だろう!」


「はっ! もう勝った気でいるのか! まだだ、まだ終わりではない! 魔神よ! 我が神よ! 我の命と盟友ゴーゴリの魂を捧げます! この、この腐った世界をお救い下さい!!!」


「や、やめろ!」


 俺は駆けだしたが遅かった。セイラムは巨大な黒い霧を出現させてしまったのだ。


 セイラムの体とゴーゴリの体がその黒い霧に包まれ、消えてしまう。


「しまった。魔神だと? 奴らの信奉する神を現界させるとでもいうのか!」


 黒い霧は大きく広がり、やがて巨大な身体を形成していく。


 体長五メルを超える巨躯。巨木のように太い腕と足。真っ黒に見えるその身体は黒く長い毛が大量に覆っていた。


 魔族のものより大きな角そして、逆立つ長い髪。


 どれもが異様な雰囲気を放つ。


 こいつは……ちとやばい奴が来ちゃったかもな……。


 俺の額から汗が一筋流れ落ちる。




 ふと俺の横に小さな黒い霧が現れた。


 そして、そこに写っていたのは村長とレイ、ノーラだ。その後ろにいる者たちが助けに来たという男達だろう。


「村長! ちょうどいい。すぐにこの一帯から避難しろ!」


「むむ? 六大将はソウ様が倒したのでは?」


「詳しく説明している暇はないんだが、奴ら、魔神を現界させやがったんだ!」


「魔神!? そんな……、旦那様っ、逃げましょう!」


「そんなワケにはいかないだろ? せっかく住みやすくなってきたこの世界。コイツの好きにさせるわけにはいかないんだ!」


「そんなっ! 旦那様っ、私も残ります!」


「だめだっ! 足手まといだ! 村長! 頼む」


「……はいですじゃ。ソウ様。ご武運を!」


「ありがとう。では、行けっ」


 黒い霧は消えた。


 そして、俺は目の前の巨人と対峙するのであった。



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