第50話 激突! 六大将戦
辺りはすっかり静かになり、俺の前には誰もいなくなった。
地面は抉れ、壁は崩れ、門は崩壊し、空はまだドス黒く、雷が縦横に走っている。
中将クラスの敵も手応えが全くなかったのであっさりと倒してしまい、その他の兵達は全て城から去ってしまった。
うん、やりすぎちゃったな! 反省。
敵を引き付けるつもりが、勢い余って敵がいなくなるという予想外。
ま、レイ達が楽になればそれでいっか! 気を取り直して行こう。うん。
常に前向きに考えないとね! 予想外のことは起こるものだから。
敵のいなくなった廃墟のような古城を悠々と歩き、城の中庭にまできた。もちろん、城には人影すらない。
だが、そこで向こう側から歩いてくる二人の姿があったのだ。
「お? まだ残ってるのがいたか! いやー、せっかく来たんだから、少しは経験値の足しになってほしかったんだよな。うん」
ホッと一安心していると、その二人は目前までやってきた。
「数万もの大軍がこの有様とは……、貴様がやったのか?」
なんだか俺様系の獣人がこちらを睨んでるな。あれはミノタウロスだろうか? 顔が暴れ牛って感じですげぇ怖いぞ。
「全く予想外でしたよ。規格外の魔法で兵どもを追い払うとは……。かなりの切れ者です。注意しましょう」
一見優男に見える金髪色白の男だが、背中に白く、大きな翼を生えてるなんて、魔族ってより、天使って感じだな。
「で、次はお前等が相手してくれるのか? 結構強いんだろ? 雰囲気でわかるぜ」
「フンッ! 貴様なぞワシが捻り潰してくれる!」
「ゴーゴリ、危険です! ここは二人で戦うべきでしょう。まだ、MPが残っていたら……」
「まぁいい。いくらあの男が強くとも、災害級の大魔法を連発した後だ。魔法は打ち止めに決まってる! 行くぞぉ!」
ゴーゴリと呼ばれたミノタウロスはその巨体よりもさらに大きな斧を軽々と振り降ろす。
とっさに躱すと、地面を大きく抉るほどの高威力の一撃だった。
そして、躱した先には天使のような男が待ち構えていたかのように白い剣で攻撃してきた。
舞のように鮮やかな連撃を放ち、俺はどんどん後方へ追いやられていく。
そこには待ち構えていたようにゴーゴリがその巨大な斧を構えており、魔力を斧に纏わせ、先ほどよりも強烈な一撃を横一閃する。
斧は魔力を帯び、小さな雷のように黄色い光が周りに迸る。
「むぅ! これを躱しきるのかよっ!」
ゴーゴリの斧は空を切り、見失った俺の姿を探す。
「くっ、バケモノじみたスピードですね」
天使のような男は剣に魔力を込めると剣が氷り出し、周りの空気に含まれる水分まで氷っていく。男の周りの空気が一気に冷え込み、足下の石畳も白くなる。
「本気で行かせてもらいましょう!」
「あぁ、この城がぶっ壊れようとも、知ったこっちゃねぇ! やってやるぜ!」
脳みそまで筋肉で出来ていそうなミノタウロスとどこまでも冷静さを保つ天使のような男は使う技も全く違うし、戦闘スタイルも違う。
だが、不思議なほど取れている連携は付け焼き刃のものではない。
明らかに研ぎ澄まされてきたものだ。
恐らく魔界でも二人を一辺に相手をして勝てる者はいないのではないだろうか? そう思わせるほどに息があっているのだ。
「よく出来た連携だ。まずは褒めておこう」
「舐めやがって、おい、セイラム! わかってんだろうな!」
「えぇ、これほどコケにされるのは初めてですね。私も怒りが沸いてきた所ですよ!」
ゴーゴリが強く思い一撃を放つ。それを躱すと、セイラムが流麗な連撃を放ち、追いこんだ所へまたゴーゴリが強烈な一撃を放ってくる。
ゴーゴリの一撃は威力が申し分ないが、どうして一撃、一撃に力と魔力を込めるため、連撃はできない。
セイラムの連撃は強くはないが、所々で隙ができる。
その二人が合わさると厄介なコンビのできあがりだ。
通常のスピードでは二人の連携から逃れることはまず出来ないだろう。
だが……、
「まだだっ! お前等のスピードはそんなものか? もっと本気をだせ!」
奴らの攻撃はまだ一発たりとも俺には届いていない。
ましてや、俺は残像すらだしていないのだ。
ゴーゴリとセイラムはお互いを見合って頷く。そしてさらに魔力を込め、スピードも上げてきた。
「おっと、ここはワンテンポ遅れたようだな」
セイラムの連撃のあと、ゴーゴリの一撃がわずかだが遅れが見えた。
それを見逃すほど俺はお人好しではない。
大斧を振りかぶった状態の無防備な腹に両手に魔力を込めて、掌底を打ち当てた。
くの字に体を折り曲げ、吹き飛ぶゴーゴリ。この場から三百メルは離れた壁に激突して土煙の中に消えた。
「くっ、よくもゴーゴリを!」
セイラムがより、早く剣を振り回すが、いつまでも振り続けることは不可能だ。
やがてくる連撃の終わりを飛び上がって躱し、そのまま回転蹴りをお見舞いする。
イケメンの顔を蹴るの気持ちいい~~~!
セイラムはゴーゴリの反対側へ吹き飛んでいき、壁を突き抜け、その奥の壁に激突した。
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