第49話 救出



(ノーラ視点)


「うぅ……、貴様等……」


 私は元魔王城の広場で四人の副官級の男達に囲まれていた。


「……というわけだ。大人しくしてもらおうか」


 舌舐めずりをしながら私を見下してくる獣人の男。牛の頭を持ち、大きな体はギッシリと筋肉で覆われ、大斧を腰に構えているがそれを触る気配はない。


 その獣人の隣に黒い霧が出ており、そこには捕らえられた宰相の姿が写っているのであった。


 げっそりと痩せこけ、青白い肌に成り果ててはいたが、まだ息をし、その首には剣の白刃が当てられていた。


 宰相の首から一筋の血が垂れ落ちていく。


 私の目の前の男たちは宰相を人質にとり、私が助けに来るのを待ち構えていたのだ。


「まんまと罠にかかってくれてご苦労様。大将たちはこれから出陣するから、ここは俺が取り仕切らせてもらっていてな。


 グフッ! たっぷり時間をかけて楽しませてもらうとするか!」


「き、貴様~~っ!」


「おーっと、まずはその剣を捨ててもらおうか。言ったとおりにしねぇと宰相様の命がなくなっちまうぜぇ?」


「わ、わかった」


 最悪の展開。最悪の選択。そうとわかっていても私には抵抗できなかった。


 武器を放り投げると、奴の部下がそれを拾い、回収されてしまう。


「グッフォッフォッ! ざまぁねぇな! 元六大将ともあろう者がよぉ! あん? どうだ? いつも俺たちを蔑んだ目で見やがって! これからアンタは俺等のオモチャなんだよぉ!」


 高らかに笑う獣人の男。


 そして、私の腹に奴の蹴りが刺さると、立っていられず、地面に蹲る。


 頭を足で擦りつけるように踏まれ、ツバまでかけられた。


「まずはその立派な角から折らせてもらおう。魔族の象徴なんだろう?」


「や、やめろ……、それだけは……」


「くぅ~~~、たまらねぇぜ! いつもお高くとまるオメェからそんな声がきけるとはな! だが、許してはやらねぇがよ!」


 獣人の男は大斧を手に持った。


 だめだ……、やられる。


 私の中を絶望が渦巻く。


 その時だった。


「やめるのじゃ!」


「あん?」


 一斉に男達が振り向く。そこにいたのは、魔王レイ様だった。




「ノーラ! 無事か!?」


「レイ様! 何故ここにっ! こ奴らは宰相をわざと生かし、人質に!」


「へっへっへ、そういうことだ。こりゃあ、オモチャが増えちまったようだな!」


 部下どもも下品な笑いを浮かべる。


「まさか、元魔王様を俺の言いなりに出来るなんてとんだサプライズだぜぇ!」


 レイは剣をその手に取った。


 魔王の剣。それは刀身が光沢のある黒色だった。そして、使い手の魔力を吸うと、黒いオーラを纏い、様々な状態異常を付与する伝説の剣であった。


「おーっと、その剣をこちらに渡してもらおうか! へっへっへ、まさか伝説の宝剣が手に入るとはな。これからは俺が剣もろとも可愛がって……あぇ???」


 レイの剣は獣人の男の顔に真っ直ぐに刺さっていた。


「ぐっ、ぐわあああっっっ! か、顔があぁ。溶けるぅ!」


 顔から毒が湧き上がるようにボコボコに変形し、獣人の男は倒れた。


 ヒクヒクと蠢きながら、体が紫に変色し、やがて息絶えた。


「こ、このぉ! 宰相ゲッケがどうなってもいいってのかよ!?」


「このアマ! ただじゃ済まねぇぜ!」


「皆でマワしてやっからよぉ!」


 激昂する獣人の男たち。


「そのゲッケがどうしたというのじゃ?」


「あぁ~ん? ……なんだ? おい! おかしくなったのか? 何も写ってねぇじゃねぇか! 地下牢の連中は何してる……って、んん?? 誰だ? あのジジィ。やたらガチムチな体しやがって……」


 黒い霧には白い髭を生やした男が写っていた。


「お? 写っておるのかのぅ? こりゃあ、面白い魔法じゃあ。ソウ様にお教えして差し上げねばのぅ」


 白ひげの男は笑顔で黒い霧をベタベタと触りだし、フムフムと納得したように調べ始めた。


「あん? てめぇは誰だ! おいジジィ! 聞いてんのか!」


「全く五月蠅いのぅ。これだから最近の若いモンはセッカチでいかん。よし、こんなもんでいいか。エリアヒール!」


 声高にジジィが叫ぶと周りにいた者たちが起き上がった。


「おっ? あんだ。いるじゃねぇか……って、何ぃ!!!」


 起き上がったのは、宰相を始め、元魔王軍の近衛騎士団の者たちであった。


「ば、ばかな! 奴らは立てねぇように足の健を切ってあったはずだ! そんなはずはねぇ!」


「おおーい、閣下! こちらは終わりましたぞい! そちらも遠慮なく終わらせて構わんぞな」


「へ? えーと、人質が……」


 滝のような汗をダラダラと流し、目を丸くする獣人達。


「人質がいなくなったようじゃな。それで? 妾を相手にどう頑張ってくれるのかの?」


「う……うそ……」


「に、逃げ……ガフッ!」


「貴様等を逃がす妾だと思うたのか? 随分と舐められたものじゃのぅ」


「ひ、ひえぇぇぇっ!」


 獣人の叫び声が木霊した後、静けさが訪れるのだった。



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