第37話 いざ魔界へ!


「ここが、砂漠のダンジョンか……。」


 俺はエルフの国を出て、幾日もひたすらに走りまくり、砂漠のど真ん中にあるダンジョンの前にいた。


 近くに町もなく、ダンジョンからは魔物が溢れ出し、辺りをウヨウヨと徘徊している。


「邪魔だっ!」


 大サソリやら、竜のような大きさのデザート大トカゲを一閃し、ダンジョンへ突き進んでいく。


 ダンジョン内部も敵で溢れていた。


「こりゃ都合がいいな。手っ取り早く深層までいくぞっ」


 さらに走る速度をあげ、一気にダンジョンの最深部まで駆け抜けた。


 最深部。


 そこはまだ未踏の地であり、モンスターの楽園でもあった。


 最深部では本物の竜である、デザートドラゴンが群れを為していた。


 俺は舌舐めずりをして、狙いを定める。


「そらっ、ドラゴン狩りだっ! 全部俺の経験値にしてやるぜっ!」


 吹き荒れるブレスを躱し、一気に近づいてカマイタチの魔法で首を刎ねる。


 再生能力に乏しいデザートドラゴンは一発で沈んでいく。


 俺の風魔法はレベル7505だ。デザートドラゴンでは最早俺を止めることは出来なかった。




 積み上がるドラゴンの死体。


 そして、来る黒い霧。


「今だっ! この黒い霧こそ、魔界へ通じる唯一の通路! ならば……」


 巨大なドラゴンの足見えた所でそれをたたっ切り、黒い霧へタックルするように突っ込んだ。


 視界が歪み、無重力の状態で浮かび上がったあと、急に俺の身体は空から落ちていくのであった。




   *




(ノーラ視点)


「レイ様、水です。お飲みください」


「あぁ、ノーラ。ありがとう。……んっ、ごくっ」


 魔王城の襲撃から二週間が経っていた。元魔王レイと元六大将ノーラはこの辺境の地まで逃げ、そこにある小さな村にかくまって貰っているのだった。


 魔王城を出てからというもの、追っ手の相手をしながらひたすらに逃げ、ケガも疲れも癒やせぬまま、この辺境まで落ち延びていたのだ。


「失礼します。食事をお持ちしました」


 小屋の外から声がかかる。村の者が食事を持ってきてくれたのだ。ありがたい。この村は私の生まれた故郷。魔王様に取り立ててもらってから、何かと便宜を図ってきたおかげもあり、村人達は協力的だった。


「あぁ、本当にありがとう。レイ様には私から渡しておくよ」


「はっ、お薬も用意出来ず、申し訳ありません。せめて、栄養があるものを提供出来れば良いのですが……」


「その心だけでも嬉しい。本当にありがとう」


 お盆を受け取ると、お椀が二つ。中には半分ほどの量のお粥が入っていた。


 このような食事が続くのでは、レイ様の体調が心配だ。しかし、村人たちの精一杯なのだ。文句なんて言えない。


 どうしたらいいんだ……。


「ノーラ、食事……ですか……」


「はっ、レイ様。またお口まで運びますね」


「ありがとう……」


 レイ様は見る影もなく弱ってしまった。宰相の案で脱出を図ったが、果たしてこれで正解だったのだろうか? 魔王城で徹底抗戦する道もあったのだが……、今となってはもう遅いか。


 不意に村の外が騒がしくなった。八本足の軍馬が次々と村の中を走り回る音が響いてくる。


「しまった。もうここまで来てしまったのか!」


 後悔したがもう遅い。あっという間に小屋の周りを囲まれてしまう。


「かくなる上は……、レイ様。こちらでお待ちを」


「まって、ノーラ。アナタだって怪我をしているじゃない。そんな状態で戦ったら……」


「私はレイ様の影でございます。私が引き付けます。どうか、お逃げを……」


「ノーラ……」


 レイの目には涙が浮かぶ。


「では、行って参ります」


 ドアを勢いよく開け、闇魔術のダーククラウドを使い、視界を悪くした。


 後は私が盾となってレイ様が逃げる時間を稼ぐだけだ……。


 ドアの一番近くにいた、軍馬に跨がった精鋭の兵士達に襲いかかり、背後から首を一閃した。


 首なしになった身体を落とし、軍馬を操って次の兵に向かっていく。


 だが、奴らも精鋭部隊。向かっていった所で、馬はアースジャベリンに貫かれ、馬から落ちると、あっというまに周りを囲まれてしまった。


「おやおや、これはノーラ様ではありませんか」


 軍馬に乗った精鋭の一人がヘルメットを外しながら声をかけてきた。その青年は金色の髪の毛の間から大きな角を生やしており、青い目で私を睨み付けてきた。


「くっ、モートンっ。裏切ったのか!」


 モートンは元私の部下だった男だった。


「裏切った? それはアナタでしょう? 私たち部下を置き去りにして、逃げたのはアナタですよ? おかげで出世するのが大変になっちゃったじゃないですか。ま、私は門を開けた功績が認められましてね。いまや、中将ですよ」


「くっ、貴様っ。奴らと内通していたのか!」


「えぇ、それに、ノーラ様と元魔王様の首を持ち帰れば、空いた六大将の座を約束していただきましてね。アナタには死んでもらわねばならないのですよ。くっくくく」


「外道がっ!」


「ん~、まだ立場がおわかりでないようですね。やれっ!」


 モートンの合図と供に、アースジャベリンが襲いかかってくる。それも一つ二つではない。数十にも及ぶ数が一気に飛来する。


「舐めるなっ!」


 剣を振るい、躱し、同じ魔法で相殺していくが、多勢に無勢。


「くあっ、ぐぅぅっ!」


 体の手足に次々と石の槍が刺さり、小屋の壁にはりつけになってしまった。


「ぐああああっっっ……」


 痛い、しかし、怒りが治まらない。この外道をせめて道連れに……。


「もうやめるのじゃ!」


 後ろから聞こえたのは我が主の声。


「レイ様っ!」


「モートンだな。妾の首をそなたにやろう。じゃがノーラは許してやって欲しい。どうじゃ。お主の本命は妾の首。そうじゃろ?」


「なりません! レイ様! お逃げください!」


「くっくっく、これはこれは魔王様。いえ、元魔王でしたな。お前の首とノーラを連れて帰れば、俺は六大将だ。わざわざそちらから出てきてくれるとは。笑いが止まらないとはこのことでしょうな!ぎゃ~ははは!!!」


「やはり、外道は外道か」


「レイ様、なぜ?」


「なぁに、お主と死ぬのも悪くないと思うての」


「レイ……様……」


「では、死んでいただくとしますか! おいっ! 二人ともやってしまえっ!」


 死を覚悟した。するとまるで周りがスローモーションになったかのようにゆっくりと動いているように見える。


 モートンと周りの兵達の上に土の槍がいくつも浮かび上がっていき、そして発射された。


 壁に磔になって動けない私にレイ様が抱きついてきた。


「ノーラ、ごめんなさい。そして、ありがとう」


 涙を浮かべながら私に微笑んでくれた。


 私も目を瞑った。


 怖かったのだ。敬愛するレイ様が死ぬ姿を見るのが。


 アースジャベリンが雨のように降り注ぎ、小屋ごと破壊し尽くす音が聞こえてくる。


 ……??? なぜだろうか? 何も感じない。痛みが大きすぎて、怒りが大きすぎて感じないのだろうか?


 恐る恐る目を開けてみると、私とレイ様を囲むように白い膜のようなものが、私たちを護ってくれているのだった。



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