第36話 アルティメットハンターズの強き意思!


(ミーナ視点)


 ソウと出会ってからというもの、毎日が驚きの連続だ。この世界の常識なんてまるで何一つ知らないのに、こと戦闘においては神をも凌ぐ力を持っていたのだ。


 あの時、オークの神、オークキングが泣いて謝っていたのを私は夢でも見ていたと思っていたけれど、それは違った。


 本当だったんだ。


 ヴァンパイアの神、ワーケインを雑魚のように扱い、私まで巻き込んでレベル上げをさせられた。


 なんという苦行。恐らく、ソウはこうした苦行を何度も行っているに違いない。だって自分からこの苦行を楽しんで始めている感じすらうかがえるんだもの。


 私達はエルフの里に帰ると英雄扱いになってしまった。


 里中で大騒ぎだ。もうヴァンパイアの脅威に怯えなくていいのだ。


 ヴァンパイアの棲むダンジョンは数百年前に忽然と現れたらしく、それ以降、世界樹が弱ってしまったそうだ。


 それを見かねて、世界樹を救った女性がいたらしい。その人は世界樹と一体となり、神となった、と聞いた。


 私の生まれる前の話なので確かなことはわからない。


 今でも、神殿にいる人たちはその世界樹に住む神さまとお話ができるらしい。


 そんな伝説、おとぎ話だと思ってた。


 だけど、ソウがやったことは私の想像の遙か上をいっていた。


 なんと、ソウは弱った世界樹を治し、その合体していた人を助け出したというのだ!


 開いた口が塞がらないとはこのことだった。


 しかもその中にいた人(エルフの神さまとまで呼ばれる偉人)が知り合いだと言う。一体、ソウって何者なの?


 そういえば、ワーケインと戦っている最中に気になることを言っていた気がする。”この世界にきて~”って。ってことはソウはこの世界の住人ではなかったのだろうか?


 ソウは神さまと知り合いだったってことは神さまもこの世界の人ではないのだろうか?


 聞きたいけれど、なんだかソウが遠くへ行ってしまいそうで聞けなかった。


 毎日のように行われる祝いの席で疲れ果て、家で寝てしまうと、不思議な声に呼ばれる夢を見た。


 そう、これは私の夢の中のお話。




「ミーナ、ミーナ。起きて。お話があるの」


「ん……、まだ朝じゃないのに……、誰? 私を呼ぶのは……」


「私はリナ。かつてその白いローブを身に纏い、魔王と戦った勇者一行の聖女と呼ばれた者です」


「え? 伝説の聖女様?」


 私はあわてて身体を起こした。目を開けるとそこには神々しいまでの輝きを放つ美しい女性が立っていた。


 その聖女、リナは長く黒い髪を腰まで伸ばしており、その綺麗さには思わず嫉妬してしまうほどだった。


 それにしても、黒い髪! ソウも、エルフの神さま、霞様の髪も黒だった!


 何か、共通するものがあるように思えてならない。


「えぇ、私のローブを受け継ぎし者、ミーナ。あなたにお願いがあるのです」


「私に? お願い……とは?」


「魔王軍の侵攻が近づいているのです」


「魔王軍! でも、ワーケインの話ではしばらく様子を見るって……、あれはウソだったの?」


「いえ、新たに魔王軍が大きく動き出したのです。その総勢は今までの侵攻とは比べものにもならないほどのものになるでしょう」


「そんなっ!」


「そこで、あなたと、ソウに魔王軍の侵攻を防ぐべく、動いていただきたいのです」


 気がつくと、隣にはソウがいた。


 あれ? どうして? 私と聖女様で話してたのに突然ソウが現れるなんて……。


「魔王軍? 強いのか?」


 ソウは真剣な表情で聞いた。


「えぇ、今までよりもずっとドス黒いオーラが魔界から吹き出しています。これまでより強力なモンスター達が現れるのは間違いないでしょう。お願いします! どうか、魔王の手からこの世界を救ってください!」


「ソウ……」


 こんな重大なこと私一人じゃ決められない。隣に立ってるソウにも相談しなきゃ……。


「断る」


「へ?」「え?」


 聖女と私の声が重なった。


「な、なぜですか? 今、世界を救えるのはアナタ方を置いて他にないのですよ?」


 聖女はあわててソウに問う。


「フン、会ったこともない魔王を倒せ……だと? 俺の見立てでは魔王とやらは魔族議会と対立しているかもしれない。それに魔族の中には俺と理想を供にする者もいるやもしれんのだ。


 それを一方的に倒せだと? すまんが、断られせてもうおう」


「そうね、ソウの言うとおりだわ」


「えっ、霞様!?」


 いつの間にかソウの隣に立っていたのはエルフの神さまこと霞様だった。


「私たち”アルティメット・ハンターズ”はこの世界を極め尽くすためのチーム! 志を同じくする者に種族など関係ない!」


「え? アルティメット・ハンターズ? 初めて聞いたんですけれど……」


「ミーナ、今まで隠していてすまん。俺は、アルティメット・ハンターズの一員なんだ。そして、霞さんは俺の先輩にあたる人なんだ」


「ソウの先輩……だったんだ」


「えぇ、そうよ。ですから、聖女さん。あなたの願いは聞けないわ」


「えっ、でも本当に危険が迫ってるんですよ? あなた方が動かなければ、この世界は……」


「なら、俺が魔界とやらに行って調べてこよう」


「ソウっ! 危険よっ! 魔界だなんて……」


「ミーナ。ソウを心配する気持ちはわかるわ。けれど、彼は一流のハンター。大丈夫よ」


 霞さまの言葉には力強さを感じた。ソウが全面的な信頼を得ているのは間違いなさそうだ。


「……でも」


「ま、ミーナと霞さんはゆっくりしててよ。ひとっ走り見てくるからさ」


「じゃ、決まりね」


「ちょ、勝手に話し進めてますけれど、一人で魔界なんて無謀すぎますよ! みなさんで行くべきですってば!!」


 聖女さまがすごい剣幕でソウに抗議する。


「今までの侵攻なんて軽いものなんですよ! これからあの倍以上の軍勢が押し寄せようとしているのです! 今こそみんなで力を合わせて……」


「うるさい聖女だなぁ、まぁ、黙って見てなって」


「う、ううう、うるさいですって! 私はみなさんのこをと思って言ってるんですよ! それを……」


「ちょっと黙っててくれ、ターンアンデッド!」


 白く、聖なる光が聖女を包み込んだ。


「そ、そんなぁ、わたし、聖女なのにっ! 意識が……消えていく……」


「俺たちアルティメットハンターズに運営かみ強制クソイベントなど不要! 参加するかどうかは我らが決めるのだ!」


「フフフ、運営かみには抗議しなくっちゃ、この世界はいつまで経っても良くならないわ。私たちは世界の未来を見据えてるのよ」


「そんな……、あぁ、勇者さま……」


 聖女の意識体は完全に消滅していった。


「ふぅ、うるさいのがいなくなったことだし。じゃ、俺が魔界を見てくるってことでいいですかね?」


「ちょ、ソウ? 聖女様を浄化しちゃったの? いいの? そんなことして」


「まぁまぁ、大丈夫だって。ハーデスだって浄化されて喜んでたし」


「そんな! 大事な話だったんじゃないの?」


 私は口を塞ぐことが出来なかった。


 そして、ソウを止めることも出来なかった。


 魔界と聞いただけで震えが来てしまう。


「あ、ミーナ。霞さんのことよろしく頼むよ。まだ身体が馴染んでないみたいなんだ」


「フフフッ、ソウにはお見通しみたいね。行ってらっしゃい、ソウ。」


「え? ソウってば一人で行くの? 私も……」


 そこで私の夢は終わった。


 朝、起きてソウの姿を一番に探したけれど、見つけることは出来なかった。恐らくすでに旅立ってしまったのだろう。


「もう~~~っ! ソウのバカバカバカ!! 私だって強くなったんだし、連れてってくれてもいいじゃない!!!」


 私の叫び声だけが部屋に響くのであった。



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