第4章 突撃! 魔界統一編 前編
第35話 脱出と復活
魔王城。いつも黒い雲がかかり、静かに、ただ雷の音だけが響くこの城は今日だけはいつもと様子が違っていた。
「詳しい報告はまだか」
「はっ、何分、出陣した者達は一切の連絡が取れず、消息を絶っております。斥候を放ちましたが、オーギュストとワーケインの姿はなく、戦争が起こった形跡すらないとの報告です」
伝令兵は事実のみを淡々と語った。
「ふぅむ、我らが魔王軍六大将のうち、二将を送り出したというのに行方不明とは……。奇怪な……」
「閣下、これは由々しき事態にございます。調査隊を組んで派遣するべきでは?」
「ふぅむ、そうしたいところじゃが、議会がだまってはおるまい? 妾が勝手に動くと一々うるさいからの」
「しかし、あの二人は特に好戦的な者たちでした。それがなんの連絡もないどころか、消えてしまったなど……、到底考えられませぬ」
「ゲッケ宰相の言うことももっともじゃ。しかしのぅ……」
その時だった。魔王城の周囲が一気に騒がしくなり、一人の兵が突然、玉座の間へ転がり込んできた。
「む、何事じゃ!」
「報告します! 六大将の内、三大将が謀反にございます! この城を取り囲んでおり、現在、応戦中でございます!」
「なんだと! 三大将が?」
「はっ、残る六大将が一人、ノーラ様が応戦しておりますが、敵の数は多く……」
「くっ……、一人一人であれば、我よりも格下じゃが……、よりにもよって手を組むとは……」
「閣下。ここはお逃げください! 私とノーラで食い止めますが、万が一ということがあります」
「ゲッケ。そしてノーラの忠誠、ありがたく思う。しかし妾は魔界最強と謳われし、魔王の座を継いだのじゃ。ノーラが健在な今であれば、奴らに対抗できよう」
魔王は立ち上がった。
「妾の武具を持て! 迎撃にでるっ!」
しかし、魔王の側近たちは動かなかった。
「む? どうした?」
「魔王閣下。残念ながら、もうここは終わりになるのです」
「ぬ? ゲッケ……」
魔王の背後には黒い影が立ち、手刀を放つと、魔王の意識を刈り取った。
「閣下、申し訳ありません」
倒れ込む魔王を黒い影が抱きとめる。
「ノーラか……。閣下を頼んだぞ」
「宰相は? 逃げないのですか?」
「いずれこうなることは見えていた。閣下は優しすぎるのだ。私は閣下の代わりに親衛隊を引き連れ、奴らと抗戦する。その間に、逃げおおせてくれ」
「宰相……」
「行け。時間がない!」
「はっ」
ノーラは意識のない魔王を抱え、玉座の間を後にした。
そして、魔王城から戦いの音がまた響くのであった。
*
俺はミーナを背負って帰ると、エルフの里は歓喜に沸いた。
みんな、俺を英雄として扱ってくれ、以前とはまるで別人といった扱いだ。ミーナも英雄を補佐したエルフ族の代表として祭り上げられている。
そんな中……
「いやー、疲れましたよ。レベル上げ。ホントにしんどいですわ」
「フフフ……、全く変わってないわね。ソウ。でも助かったわ。ダンジョンが無くなったお陰で、世界樹が元気になってきたのよ」
俺は世界樹と一体化してしまっている霞さんとゆっくり話をしていた。
「そうだ、俺の神聖魔法ってレベルカンストしてるんですよ! これで世界樹って元気にならないですかね?」
「うーん、どうなんでしょうね。やってみないことには……。私もどうなるかわからないわ」
「まぁ、害があるものでもないし、やっちゃいましょうか! 先輩!」
「じゃぁ、お願いしようかしら」
俺の体内にある魔力を最大限にまで集め、最上級のヒール、ロイヤルエリアヒールと、最上級のキュアーであるロイヤルエリアキュアーを同時に発動した。
世界樹という巨木全てを対象にしたため、樹全体を神聖な光が覆い尽くしていく。
世界樹の葉はより多く、色は濃く、育ち、枝もずんずんと伸びていった。巨木がさらに一回り大きくなったのだ。
そして、さらには虹色に光る大きな実が出来たかと思ったら俺の所へ落ちてきた。
「おっとと。あぶないあぶない。なんとかキャッチしたぞ」
両手でも持ちきれないほどの大きさの実は真ん中からヒビが入り始めた。
「あっ、割れちゃう! ちょっとこれ、いいのかな? 霞さーん」
世界樹の霞からは返事が無かった。
「あれ? どうしたってんだ? いったい……」
実のヒビはどんどん大きくなり、やがて二つに割れてしまった。
眩しい光が差し込み、とっさに両目を覆ってしまう。
「やぁ、ソウ。どうやら世界樹にもう必要ないって捨てられたみたい」
「か……、霞さん? 霞さんなの?」
「あぁ、まだ身体が思うように動かないけど……、でもこれでまた君と冒険ができそうだ」
「霞さん……、俺……。嬉しいです! また霞さんと……冒険できるなんて……」
霞さんは生まれたばかりの裸のまま、俺を胸に抱きしめてくれた。涙でびしょ濡れになった俺の顔をそのまま包み込んでくれる。
温かい肌の感触と、その奥でドクドクと打つ心臓の音が、彼女が生きていることを教えてくれるのであった。
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