第23話 国境の街
「レベルはいくつになった?」
「え~と、すごいわっ! 515だって!信じられないっ!」
ミーナが俺の胸に飛び込んできた。ギュッと抱きしめながら俺の顔を見上げてこれ以上ないほどに可愛い笑顔を向けてくれたのだ。
こんな笑顔が見られるんならもっと頑張ってよかったな。
「あっ、ご、ごめんなさい。私ったら……」
もっとくっついてくれてても良かったんだが、ミーナ顔を赤らめて離れてしまった。
「ここが国境の街か、意外と栄えてるな」
「えぇ、この街はドラン王国とエルフの街の中心にあるの。だから貿易に最適な場所となってるのよ。だから商人も多いし、護衛などの冒険者も多いわ」
ほんとだ。いかにもなお金持ちそうな雰囲気の人も見られるし、屈強な冒険者だけでなく、子供たちも走り回ってる。それに、ミーナと同じエルフたちの姿も多いなぁ。
「よし、今日はここで一泊していこう。幸い、エリザから旅のお小遣いをもらったからね」
「うん、私も今日は色々あって疲れたわ。宿を探しましょう」
俺たちは宿を求めて街の中へと入っていった。
「まいったな、今日はどこも一杯なのか……」
「えぇ、次で十件目。最後の宿屋だわ」
「ま、ダメ元で聞いてみよう! 空いてるかもしれないしさ」
「え、えぇ……でも、この宿屋って……」
二人の目の前にはピンク色の外壁で作られたホテルが建っていた。
看板は魔道具が使われているのか、ネオンのようにピカピカと光り、抱き合う男女の絵が描かれている。
「こ、ここって……」
「え、えぇ……。そういうホテルよね」
「うぅむ。やっぱりよそう。結婚前の女性と入ってしまっては迷惑かけちゃうし」
「え? わ、わわ、私なら別に……いいけど……」
「うそぉ?」
「だって、もうここしかないじゃない! あれだけ走って、戦ってまた走ってきたのに、野宿じゃ疲れが取れないじゃない! それとも何か嫌らしいことでも考えてるっていうの?」
「いや、そういう訳じゃ」
「じゃ、大丈夫よね? ほら、入るわよ!」
ミーナの勢いは凄まじく、俺の手を引っ張ってホテルの中へ入っていくのであった。
「こ、ここが異世界のラブホ!」
壁や天井もピンク色に染まっている他、ベッドのシーツまでピンク一色だ。柱だけがシックな茶色となっており、大人の雰囲気を醸し出している。
「と、とりあえず、座ろうか?」
「え? えぇ」
俺の手を引いてホテルの中に入ってきた割に、ミーナは急に大人しくなってしまった。
「あー、取りあえず、湯浴み場があるみたいだし、そこで汗でも流そうか?」
「え、えぇ。お先に行ってきていいわ」
「うん、行ってくるね」
ふぅ、落ち着け。まさか女子と一緒にこんな場所に来るなんて。日本にいた頃から全く経験がないからどうすりゃいいかわかんないな……。
そう、俺は童貞だった。ネトゲ廃人を引退し、そのままブラック仕事を続けてきた俺は女性にどう対応したらよいのか全くわからない。唯一、話す女性は元いた会社の社長くらいのものだった。
とりあえず、このタライにあるお湯と布を使って汗を流せってことなんだろうな。
風呂場と思わしき所には大きなタライが二つと、綺麗に折りたたまれた布が置いてあった。
それを使って体を綺麗にし、さらにキュアーまで使用して万が一の事態に備えておく。
「ふぅ、いいお湯だったよ。ミーナも行ってきたら……」
「あっ、やっともどってきたぁーー!、おっそい!!」
な、なん……だと……?」
ミーナの横には空いたボトルが三本も転がっていた。大きめのグラスに注がれた赤い液体は間違いなく酒だろう。
「おいっ! ソウっ! ちょっとこっちこいっ!」
え、えぇっ? 人格がまるっきり違ってないか?
「は、はい……」
「はい、だとぉ? なんでそんなに遠慮なんかしてるんだ! 取りあえずソウの分もあるから飲めっ!」
くっ、この言い方っ! めっちゃ社長そっくりだよ。社長もシングルマザーで仕事からプライベートの愚痴を絡みながら話す感じだったんだよな……。
しかしながら、ジャパニーズ社畜歴が長い俺はそれに従ってしまう癖がついていた。
長いものには巻かれるのが俺流の処世ってやつだ。
「じゃいただきます」
ぐいっと一口飲むと、喉の奥からカァ~~~っっと熱さが湧き上がる!
のわっ! こんなキツい酒飲んでるの? 一体、何度あるんだよ? これ。
日本でこれほどキツい酒を飲んだのはラムかウォッカくらいしか経験がない。
「おい、ソウっ! なんだチビチビ飲みやがって! もっと一気に飲めっ!」
うそでしょ?! これキツい酒なんだよ?
「ちょっと、ミーナ。これキツすぎないか?」
「そんらことなぁーい! 見本みせてやるからお前も一緒に飲めぇ!」
ミーナはグラスに並々と注がれた酒を持ち、顔を上に向けたと思えば、一気に喉へ流し込んだ。
「ぷは~~~っっ!! こうだよ。わかったか! ソウッ!」
一体誰なんだ? この人は! 森で薬草取ってたあの可愛いエルフはどこに行ったんだ?
「いいから飲めっ! ほらっ!」
天を仰いでいた所、不意に口にボトルを突っ込まれると、喉の奥に酒がドバドバと流れ込んでいく。
うわっ、しまった……、こりゃ……、のみ……すぎた……。
俺の意識はそこで遠のいてしまうのだった。
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