第22話 グリフォン戦
(ミーナ視点)
めちゃくちゃな旅が始まってしまった。
普通、長距離の移動は馬を買ったり、乗り合いの馬車を使って移動するものだ。
しかし、ソウはお金をもっていない。私たちと出会ったときは本当に1セタももっていなかったのだ。どうやって暮らしてきたのだろう?
お金がないということは、馬や馬車で移動はできない。二人で徒歩で歩いていって、私が疲れたら背負ってくれるのかと思っていたら、そうではなかった。
なんとソウはいきなり私を背負うと、凄まじいスピードで走り始めたのだ!
そのスピードは馬車を置き去りにし、走る馬を追い抜き、追いかけてこようとした狼の群れすらついてくることは出来なかったのだ。
「ちょっと、ソウ! そんなにスピードだしてたら疲れるんじゃないの?」
「はっはっは、まさか。これくらいで疲れるような鍛え方はしてないさ」
太陽が照っているせいか、しばらくしてくると彼の汗が背中に出てくる。それも彼はキュアーの魔法で流してしまい、一向に止まる気配すらない。
広い背中。温かい背中。頼りになるってこういうことを言うのかな?
ずっとこの背中に抱きついていたくなる。
馬を乗りついで十日もかかる国境の街まで一日でついてしまいそうな勢いだ。
そこから私の住んでいた世界樹の森まで、さらに距離はあるけれど。
そんなことを呑気に考えているときだった。
「クエェェェッ」
遠くから聞こえる鳥の声。だけどこの声量は普通の鳥じゃない。
「ソウっ! この声は……」
「ん? おぉ! 見てみなよ! ほら、でっかい鳥が飛んでるよ!」
全く緊張感の欠片もないソウの声にあきれつつも、私はソウに危険が近づいていることを伝えたかった。
「ソウっ! この声は鳥じゃないの! ほら、あんなに遠くにいるのに大きく見えるってことは……」
「んー、なんだろうね? ちょっと寄り道しよっか」
「え? なんでそうなるのよ! 危険だから迂回しましょうって言ってるのよ!」
「んー、ミーナのレベル上げにちょうどいいんじゃないかな?」
「へっ? 私が戦うの?」
「あぁ、アシストはするからさ。安心してやっつけちゃってよ!」
「う、ウソでしょ? ……だってあれ、頭はワシだけど……、体は獅子なのよ!? あれグリフォンなのよ? ねぇ、勝てるわけないじゃない! あんなの討伐するには軍隊が出動する必要があるわ! 緊急事態よ!」
「またまた、大げさな。大丈夫だって」
「ちょっ! 近づいていかないでよ! 今なら逃げれるでしょ? グリフォンは縄張り意識が強いのよ?」
「ミーナ、大丈夫、俺がついてる。ミーナは魔法だけ遠くから当ててくれないか?」
「え? わ、わかったわ」
ソウの頼もしい言い方に思わずわかったと返事をしちゃったけれど……。
近くなってきた。やっぱり大きい!
頭から尻尾まででも優に5メルはある。そして、翼を広げるとその両翼の長さは10メルを超える大きさだ。
グルルルルル、と喉を鳴らし、縄張りに入ってきた私たちを威嚇してくる。
「よし、魔法で先制してくれ。俺が続くから」
「えぇ、精霊よ、グリフォンに火の玉を!」
グリフォンの前にファイアーボールが現れ、襲いかかる。グリフォンにヒットしたが、全く効いた様子はない。しかし、激昂して叫び声を上げた。
「ギィイイイアアアアアアアアアッッッ!!」
「くっ、やったわよ!ソウ!」
「あぁ、上出来だ!」
ソウは走るスピードを緩めることはなかった。一直線にグリフォンを目指してひた走る。
「くっ、ぶつかるっ!」
そう思ったときにはすでに、ソウは手に光る剣を持っていた。
すれ違い様にグリフォンの首を横薙ぎにし、そのまま後方へと通り抜けていく。
一瞬の出来事だった。
私が振り返って後ろを見ると、グリフォンの首がズルリと横にずれるように落ちていく。
ズウウゥゥン。という音と供にグリフォンは倒れ、ソウは何事もなかったかのように走っていく。
「あっ、この湧き上がる力は……!」
「お? おめでとう! レベルアップだね!」
「うん、ってかすごい、一気に300まで上がってるなんて! 信じられないっ!」
「そりゃよかった。二人で倒したから経験値も半分入ったってところかな」
「えぇ、あの敵を二人で倒すなんて常識外れもいいところだけど、そのおかげでレベルもこんなに上がるなんて……」
「おっし、ちょうどいい。ほら、グリフォンの群れがいるみたいだ。全部倒していこう」
「え? ぜ、全部? う……うそでしょ?」
「あぁ、ミーナはどんどん魔法当てていってね。俺はすれ違う奴を倒していくからさ」
「……。う、うん」
ソウってば常識外れだとは思っていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。
グリフォンはパーティーでの討伐ランクBに当たる強敵なのだ。
その群れに突っ込んでいくなんて、自殺行為に等しい。
でもソウといるとなぜだか安心できた。
私は私の出来ることをするだけ。
目の前に現れる敵に魔法を当てれば、後はソウがどうにかしてくれる。
私は驚くことなく、グリフォンに確実に魔法を当てていく。
一匹目、二匹目、……、八匹目、九匹目。
「よし、その調子だ。いいぞっ、魔法の威力も相当上がってるんじゃないか?」
その通りだった。最初はダメージが通っているのか怪しかったけれど、今はグリフォンの頭部に確実にダメージが通っている。目に当たれば目は潰れ、毛は黒焦げになり、また、血を流している。
今はレベルを悠長に確認している暇がないのが残念だ。
きっと私はすごく強くなってる気がする。
それもソウのおかげ。彼のことを考えると胸が苦しくなる。
なんだろう? この気持ち。百年以上生きてきた私に初めて湧き上がってくるこの気持ちは……。
「ふぅ、片づいたな。お疲れさん」
ソウは止まることなく走り続けている。
「少しは休まないの?」
「あぁ、言ったろ? エルフの国でパーティーが近いんだ。間に合わせなきゃな!」
「その私の国でパーティーって一体なんなの?」
「それはついてからのお楽しみってやつさ!」
エルフは派手に騒ぐなんてことは滅多にない。森と暮らし、ひっそりと生きるのを好しとする者が多いのだ。
うーん、怪しい。
だけどニコニコするソウを見ると、不思議と私も気持ちが楽になる。
きっと、彼とならどんな困難だって簡単に乗り越えられそうだから。
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