第10話 そして戦いへ



「なるほど、ここのボスってわけか。こいつは強そうだ」


 ボススケルトンは突然、雷撃の魔法を放ってきた。無詠唱はもちろん、その素振りすら見せない。


 さすがボスだな。ま、これくらいやってもらわなければ困る。


 ボスが放った魔法は俺の残した残像に容赦なく降り注いでいく。


 雷、炎、氷、防風、岩、毒、と次々に魔法を使用し、俺の残像をひたすらに打ち続けた。


「ふぅ、こいつも残像と本物の区別がつかないのか。ボスだと思って期待したんだが……」


 ボススケルトンの手足に向かってホーリーソードを振ると、衝撃波がボスの手足を切断した。


 支えを失ったボスはうつ伏せに倒れる。


「ここまでか。期待したほどでもなかったな。ん?……これは……」


 ボスの手足はいつの間にか元に戻っており、俺に向かって詠唱からの魔法を使用した。


 俺の周りに大きな魔法陣が現れたかと思うと、マグマのように真っ赤な火柱が燃え上がった。直径十メートルはある凄まじい炎は天井をも溶かし、崩れた天井がその場に落ちた。ズゥンと重い響きがフロアーに凄まじい振動と供に伝わってくる。


「なるほど、これが本気ってわけか。ならば、俺も本気でいくぞ」


 ボスの周りに残像を残しながら移動していく。今や残像は百を超える数をほぼ同時に残すことができるようになっていた。このボスが俺の本体を捉えるのはほぼ不可能だろう。


 ボスは俺の残像達にひたすら魔法を当てていく。その隙にボスの頭部後方までジャンプし、ホーリーソードを振るった。最初は衝撃波を一つだすのがやっとであったが、今や、一瞬のうちに一万を超える数の衝撃波を放つことが出来る。


 ボスの真後ろから放たれた衝撃波は頭部のみならず、体のあらゆる部分をずたずたに引き裂いた。


 崩れ落ちる骨に追い打ちをかけるようにエリアヒールを発動させる。


 ボスの骨は砂のように消えていった。


「お? レベルアップしたな。こりゃいいや。当分の間、ここでレベルを上げさせてもらうとするか」


 俺は腰を降ろし、やる気満々の状態でボススケルトンが復活するのを待つのであった。




   *




「よし、自身のレベルも神聖魔法のレベルも9800を超えたぞ」


 ここで稼ぎを始めてもう何年経過したのか、まるでわからなくなった。数千匹のボススケルトンを倒し、レベルは遂に9800を超えたのだ。


 順調に上がっていくレベルにニンマリと微笑みながら、今日も現れたボスを狩ろうとしたときだった。


「強き者よ」


「ん? だれだ?」


「ワシじゃ」


 ここのボスはいつも攻撃しながら現れていた。が、今回は姿を最初から現し、俺のほうを向いた状態で現れたのだった。


「ワシはここのボスとして、暗黒神と崇められ、祀られしハーデスと申す。強き者よ。少し話をせんか?」


 ボススケルトンからは殺気が消え失せている。


「話?」


「あぁ、そうじゃ」


 ボススケルトンは一つ頷くと話し始めた。


「ワシはアンデッドじゃ。いくら倒しても復活するのが道理。これまで数多の冒険者やモンスター、さらには竜達をも返り討ちにして、ワシの配下にしてきた。じゃが、お主の強さは図抜けておる。いや、それどころか、神であるワシすらも足元におよばぬ」


「アンタ、神だったのか!」


「うむ、強き者よ。ワシはいいかげんこの遺跡の地下で生きるのに飽きておった。何せ、この地上に生まれて数万年の間、ワシを倒せる者などおらんかったのじゃ」


「そんなに生きてるの? さすが神!」


「そうじゃ、そこでお主の力を見込んで頼みがある」


「頼み?」


「うむ、ソナタの魔法は神聖魔法じゃろ? そうでなければこうもワシを容易く倒すことなどできはせぬ」


「確かに。俺の魔法は神聖魔法のみだ。それ以外の魔法は一切つかえないんだよな」


「そこでじゃ、ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」


「成仏だって?」


「うむ。やり方は知ってはおるのじゃ。ワシは魔法を極めし黒魔道士じゃった。数多の魔法を極めたのじゃが、あいにく神聖魔法だけは相性の問題があっての。習得が出来なかったのじゃ」


「うぅむ、確かに。黒魔導士が神聖魔法なんて使っちゃおかしい気がするもんな」


「しかり。やり方はわかっておるのじゃ。じゃからお主に使ってもらえんかと思うての」


「なるほど。確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」


「では……」


「だが、断る」


「むっ、今何と?」


「断ると言ったんだ」


「なぜだ?」


「……俺のレベルだ」


「……は?」


「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」


 カンストとは限界まで上げた状態のことだ。


「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」


「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」


「……正気……なのか?」


「もちろん」


「く、狂っておるのか? そんなことをして何になる? お主の時間を無駄に使うだけではないか? もうお主より強い存在など……」


「そういう問題じゃない。俺はこの世界を創った異世界神の気まぐれでここに落とされた。チートをくれるっていうから、ハーレム作ってスローライフがしたかったんだ! それが何だ! 人の気配がないだけでなく、いつまで歩いても森の中から出られない。そして目の前に遺跡が現れたんだ! 極めるしかないだろ! こんなの!」


「……なんじゃその考え方は! しかし、わかった! マッピングの魔法も授けよう。それでこの森も抜けられるはずじゃ。今のお主なら一日もかからんじゃろうて」


「断る」


「くっ」


「それよりもレベルが先だ」


「頑固者がっ!」


「あぁ、俺は凝り性なんだ。やり込んだゲームはレベルカンストは当たり前、アイテムコンプリート目指して廃人になること数年。気づけば大学は八年在籍し中退。就職はブラック企業。おかげで大好きなゲームが全くできずにこき使われる毎日。もうウンザリだったんだ!」


「えぇ……。それは自己責任じゃ……」


「うわ。出たよ! 自己責任!! いっつも大人は自己責任言いやがって! 人生を一回でも失敗した人間のこと切り捨てる社会なんかこっちから願い下げだ!」


「……大変じゃったんじゃの」


「あぁ、だが今は充実している! 俺はこの世界でもレベルを必ずカンストさせるんだ! そしてありとあらゆるものを極め尽くして見せる!」


「……もう好きにするがいい」


「わかった。では、推して参る!」


 再び、俺の戦いは始まった。そうレベルをカンストさせるための戦いが!



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