第18話 4−4


 真っ赤な怒りのオーラを全身から噴き出しつつ、ベンジさんの勇者型ゴーレムちゃんは空中に浮かび上がりながら、遠くにいるクルス達を睨みつけました。

 その後方には、アルカちゃんをはじめとするゴーレムちゃん達が、武器や魔導器を持ったり周りに浮遊させたりしながら、同じように空中に浮かんでいます。

 その数は六体だけではなく、より多数のゴーレムちゃん達がいました。

 彼女らは、アルカちゃんの魔導器に似た長方形の魔導器を周囲に浮遊させています。

 ベンジさんも、アルカちゃん達も、やる気まんまんです。

 そんな戦闘態勢のベンジさんのゴーレムちゃんの傍にマルさんが操る白銀の鎧を着た勇者型ゴーレムちゃんが飛んできました。

 彼女は皮肉たっぷりの声でベンジさんを詰ってきました。

「随分遅かったですが。あと一歩のところで邪神を倒してしまうところでしたが」

「と言うか動き止めてるだけじゃないか! これでも早く修理した方だよ!」

 待っているのがそんなに嫌でしたか。マルさん。

 これでも、修理は時間がかからなかった方なんですが。

「これはメフィールにお仕置きですね。あとできつく叱っておかないと」

「彼女も一生懸命やってるんだからさあ!」

「ふふっ、冗談ですよ」

「マルの冗談は冗談にならないんだから! それよりもさ」

 言いながらベンジさんはマルさんから憎き裏切り者の方へと視線を向け、通信魔法で叫びました。

「クルス、よくも僕のかわいいゴーレムちゃん達をいじめてくれたな!」

 叫びつつ、魔導剣の切っ先をクルスに向けます。

 剣先を向けられた元勇者はぎょっ、という表情になりました。

 そ、それじゃなくてそっちの方!? というように。

 口を開き、その事をベンジさんに突っ込みます。

「お、俺がお前を傷つけた事はどうでもいいのか!? 裏切った事は!? 邪神を復活させた事は!?」

 彼の問いにベンジさんは平然と、

「どうでもいいっ! それらよりもゴーレムちゃん達の方がずっと大事だ! 死んでも変わらないぞ!!」

 そう返しました。

 彼の口調は火を見るより明らかだというように、強い口調でした。

 ベンジさんの揺るぎない口調に、クルスは呆然とした表情を見せました。

 そして、一言つぶやきました。

「……く、狂ってる!」

 その返答に、ベンジさんは何を言っているんだお前はという口調で反論します。

 まあ、愛好家ってそんなものなんですけどね。

「狂っているのはどっちだ! このドヘンタイが!! 僕のゴーレムちゃんによくもセクハラしてくれたな!!」

 たしかに、その行為に対しては弁解できないですよね。クルスさん。

 しかし、変態元勇者は怒りを顕わにするとベンジさんを怒鳴りつけました。

「どっちがヘンタイだ! 周りに美少女ゴーレムばかり侍らせてるお前が!」

「ゴーレムちゃん達の自由を奪ってエッチな事をしようとしたお前に言われとうないわ!!」

 ベンジさんに怒鳴り返され、クルスは怯みつつも言い訳めいて返答しました。

 でも言い訳するとドツボにはまりますよー?

「だってお前のゴーレムかわいいし……」

 しかしその言い訳に、カチンとした者がいました。

 ベンジさんではありません。その後方にいた、アルカちゃんです。

 彼女はベンジさんの前方にずいっと出ると、腰に手を当て、顔を真っ赤にして通信に割り込みました。

「かわいいからエッチしようとするなんて最低! 最低! ヘンターイ!!」

「ほれ見ろアルカちゃんもこう言ってるし!」

 ベンジもそうだそうだと突っ込みます。

 しかしそんなベンジさんやアルカちゃんの追求にクルスは明後日の方向を向き、

「え、聞こえないが?」

 平然とごまかしました。

 あーさいてー。こいつサイテー。自分の罪をごまかそうとしてるー。いけないんだー。

「急に難聴になるなクルスおめー!! どこぞの恋愛喜劇主人公かっ!?」

 ベンジさんも呆れた様子でクルスに突っ込みました。

 が。

 ここで何かを思い出したようです。いつもの真面目な顔に戻るとこう告げました。

 異端審問の裁判官のように。

「ともかく、お前を勇者裁判にかける!! 罪状は三つ!」

「何を突然!?」

 突然の裁判の開廷を告げられ、クルスはは、と息を吐きました。

 しかしそれに構わず、ベンジさんは剣を持っていない方の腕を掲げ、指を一つ立てます。

「一つ! 人類を裏切り、悪魔に手を貸し、邪神を復活させようとした罪!」

 断罪の言葉に続けてもう一本指を立て、

「二つ! 自分のゴーレムを犯罪に使った罪!」

 そして三本目の指を立てると、力強くクルスを断罪します!

「そして三つ目! 僕のゴーレムちゃん達にイヤらしい事をしようとした罪! 先の二つを許しても、この罪は絶対に許さない!!」

 ベンジさんは魔導剣の剣先をクルス達に向け、判決の言葉を下しました。

 その顔と口調は、地獄の裁判官のようです!

「もう僕はお前達を許さない!! よって判決は反逆刑と器物損壊罪とゴーレムちゃんに対する公然わいせつ罪で死刑! 万死! 万死! 万回死ね!!」

 下された判決のあまりのいい加減さにクルスさんはいやいやいやと顔と両腕を激しく横に振り、

「無茶苦茶だ!? 異議あり! 上告します!!」

 そう反論しました。

 が、ベンジさんは、

「即刻で上告は却下!! 刑は確定された!!」

 そう吐き捨て、魔導剣に魔力を込めました。

 ベンジさんのゴーレムちゃんの背丈ほどもある魔導剣の刀身が青白く光り輝きます!

 剣の青白き光は神々の怒りのようです!

「ちょっと待てこれ裁判じゃねえ!?」

「うるさいわあ!! だから死ねー!!」

「ち、ちょっとおまあ!?」

 元勇者の抗議も待ての言葉も何もかも、ベンジさんは切り捨てて──。

 魔導剣を大きく振り上げ。

 勢いよく振り下ろしました!

 瞬間、封印の間の空気が一つ大きく震え、空間が切り裂かれました。

 青白い炎は三日月のように周囲へと飛び……。

 悪魔軍へと襲いかかりました!

 その竜の炎よりも速い光は悪魔達に逃げる暇も与えず、彼らを巻き込んでいきました。

 彼らは叫び声を上げる余裕もなく魔光に巻き込まれ、その姿を消していきました。

 幸運にも、と言うべきなのでしょうか。クルスやガラン達は他の悪魔を盾にするような形で剣撃が来る前に空へと飛び上がり、難を逃れていました。チッ。

 逃げおおせたガランは空から地上の惨状を一望し、ただ一言、

「なっ……!?」

 と口にするのが精一杯でした。

 ガランは何かないのか、何か、という表情で辺りを見回し、それから、見つかった、という顔で後ろを向きました。

 視線の先には、封印の間の壁際、封印孔からはみ出る形で、未だにゴーレムちゃん達により攻撃魔法や魔法無効化魔法などを浴び続けている異形の存在──邪神アレクハザードの姿がありました。

 ガランはまさに神に懇願する声色と表情で、

「あ、アレクハザード様! なんとかしてください!」

 そう、丁寧に呼びかけました。

 しばらく邪神は考える風で動きを止めていました。

 やがて邪神はその無数に持つ触手を動かし、無数にある目で何かに狙いを定めると、それに触手を飛ばしました。

「よし、いいぞ! って何!?」

 邪神の行動にガランは驚愕しました。

 邪神が触手を飛ばしたのは、ベンジさん達にではなく──。

 近くにいる、悪魔達の軍勢にでした。

 触手の一本を悪魔の一匹に巻きつけると、そのまま力強く持ち上げていきます。

「う、うわぁー!?」

 哀れな犠牲者の悪魔は悲鳴を上げ、逃れようとしますが、如何せん触手の力はあまりにも強くて。

 触手はそのまま悪魔を口へと運ぶと、悪魔をそこに放り込みました。

 そしてその鋭い歯が、悪魔を噛み砕き、やがて飲み込みました。

 アレクハザードはお腹が空いた子供のように何本もある触手を忙しく動かすと、辺りにいる悪魔達を掴み持ち上げ口に入れ、バリバリと食い出しました。

 まるで悪魔がスナック菓子に見えます。悪魔達から見ればたまったものではありませんが。

 邪神の様を見て、ガランは悪魔とは思えないような情けない悲鳴を上げました。

 ちょっと女々しいですね。

「う、うわあぁ!? 俺達を食い出した!?」

「なんで味方を食うんだ!?」

「そりゃ神ですからねぇー。食い物に敵も味方もありませんからねぇー」

 非常時にのんきなガーバラの物言いに、クルスは怒りを感じました。

 その感情を込めた口調で、彼は彼女を怒鳴りつけます。

「ガーバラ、のんきな事言ってないで止める手立てを考えろ!」

「あんさんがやったらどうですかねぇー」

「こ、この女……!」

 まあ、自業自得なんですけどね。この悪魔達は。

 その一方で。

 彼らが右往左往している様子を陣地内から眺めたマルさんがベンジさんに尋ねました。

 その口調はいいざまね、という声色を持っていました。

「どうします? ベンジ様? 向こうが大騒ぎになっていますが」

「……んー、放っておいていいんじゃないかな。自業自得だし」

 ベンジは敵陣を眺めながら、剣を一度下ろしました。

 もう大勢は決したという雰囲気です。

 でも油断は禁物ですよ?

「でもあのままだと悪魔を全部喰らい尽くした後にドール達を食べそうな勢いですが」

「それはいけないなー。ゴーレムちゃん達が食われたら大変だ。まあ喰っても不味いと思うけど」

「ではもう少し美味しいように改良しますか」

「それは勘弁してよー」

「冗談ですよ」

 その冗談にベンジさんのゴーレムちゃんは肩をすくめて応えました。

「いつもながら冗談とは思えないよ! ……さて、やりますか。でもなあ」

「どうしました?」

「魔導砲、邪神に効くかなー?」

「努力、根性、やってやれない事はないですよ」

「そんなので効いたら苦労はないよ! ……でも、やるしかないか。うん、やろう」

 ベンジさんは一つ力強く頷くと、魔導剣を銃のように構えました。

 そして周囲のゴーレムちゃん達に通信魔法で、勇者にふさわしい口調で命じました。

「……では、全魔導砲装備ゴーレムちゃんに魔導砲発射準備を命じる。統合魔導砲戦用意!」

「了解っ!!」

 では、魔導砲撃っちゃいますか。準備始めっ。

 同時に、ベンジさんとアルカちゃん達を始めとするゴーレムちゃん達が一斉に魔導器を構えました。

 すると、ベンジさんの魔導剣が半分に割れ、中から砲門が現れました。

 これこそが大魔王ネズーを倒した必殺兵器、魔導砲です!

 この力が、大魔王との戦争を終わらせた力なのです!

 と同時に。

 アルカちゃんの周囲に浮かんでいる数機の魔導器が縦向きから横向きになり、下を向いていた部分が前になります。

 その前の部分には、砲口が空いていました。魔導砲の、砲口です!

 アルカちゃんの魔導器もまた、魔導砲としての機能を有していたのです。

 他のゴーレムちゃん達が持っていたり浮遊したりしている魔導器も、次々と変形したり向きを変えたりすると、そこに砲口が生まれていました。

 これもまた、魔導砲でした。

 それを確認したベンジさんは、次の言葉を力強く命じました。

「魔力を各ゴーレムちゃんと魔導器の魔力コア及び魔法発電所から供給開始!」

「了解っ!」

 その瞬間。

 きゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅい……!

 ゴーレムちゃん達や魔導器の魔導コアが唸りを上げ光り輝き、生まれた光が魔導砲の薬室へと注がれます!

「魔力充填開始!」

「充填開始!」

 ゴーレムちゃん達が復唱すると、ベンジさんのゴーレムちゃんの視界内に表示された魔導砲チャージグラフが表示されました。

 まだチャージ率はごくわずかですが、ものすごい勢いでグラフが赤くなっていきます!

 それを知ってか知らずか、クルスとガランは敵陣を見て顔が真っ青になりました。

「クルス! 奴らが何かをしようとしているぞ!」

「あれは、魔導砲か!?」

「魔導砲……。ネズーを倒したというあれか!?」

「そうだ! あれがもし大量生産されていたとしたら……。アレクハザードでもただではいかんぞ!」

「なんだと……!?」

 クルスの話を聞いたガランは、慌てふためいて近くにいる部下の悪魔に命じます。

「奴らが何かするのを阻止しろ!」

「だめです、神が邪魔をして……」

「それでもやれっ!」

「はっ、はいっ!」

 そう厳しく言われ、背筋を伸ばした悪魔は他の悪魔達に叫びました。

「と、突撃ーっ! 敵の攻撃を止めろーっ!!」

「は、はっ!」

 命令されて、なんとか突撃しようとする悪魔や魔物達でしたが、そんな彼らに邪神の触手が襲いかかります。

 ある者は掴まれて邪神の生贄となり、ある者は抵抗して触手から放たれた魔法に黒焦げにされる。

 そんな事がありながらも、なんとか悪魔達の部隊は邪神の攻撃をくぐり抜けて、ゴーレムちゃん達を攻撃しようとします。

 悪魔達の突撃を見たマルさんのゴーレムちゃんが、剣を指揮棒として前に突きつけ周囲に呼びかけます。

「おっと、そうはいきませんが。ドールズの皆様、後もう少しだけ頑張ってもらいますよ」

「はいっ!」

 邪神の攻撃をくぐり抜け、突撃してきた悪魔達。

「お前らの好きなようにはさせん!」

 しかし、彼らの前に立ちふさがるのは。

 巨大な光の盾の列でした。

 光の盾を掲げたゴーレムちゃんの一体が、力強く告げます。

「魔導砲を発射するまで、貴方達を此処から先へは行かせません!」

「行かせませんよー!」

 彼女らに構わず、悪魔達は力強く突進しながら投槍や魔法を投げつけ、突破しようとしますが。

 光盾の列は城壁の高さまで巨大化し、それらを安々と受け止め、弾きます!

 逆に、光の城壁から無数の光が生まれました。

 魔法の剣です。

 その魔法の剣の群れは矢のように飛んでいき、突進してくる悪魔や魔物達を貫きます!

「ぐぎゃあっ!」

 悪魔達は悲鳴を上げながら倒れていきます!

 それでもなお突破しようとする悪魔達ですが。

「おっとそうは行かないよ!」

「矢を放てー!!」

 光盾の壁の後ろから、携帯式砦や巨大ゴーレムに載った戦士、弓使いなどの部隊が一斉に矢を放ちます!

 まるでミサイルのように放たれた魔法の矢は、悪魔達を簡単に貫き、爆発し、彼らを吹き飛ばしていきます。

「魔力充填五〇%!」

 マアス城の司令部でオペレーションしているオペレーターゴーレムちゃんが感情を載せて告げます。

「魔法をどんどん邪神に浴びせて! 魔導砲が発射するまで時間を稼いで!」

「わかりました!」

 魔法使いゴーレムちゃん部隊の隊長である賢者ゴーレムちゃんがそう指示し、自らも無詠唱呪文で魔法を唱え、邪神に攻撃します。

 その他の魔道士ゴーレムちゃん達も、攻撃魔法で邪神を攻撃したり魔法封じ魔法で邪神の魔法を封じたり、一生懸命です。

 そうこうしている間にも。

「魔力充填一〇〇%!」

 魔導砲の魔力チャージはそこまで進んでいました。

 しかし、まだまだ止まりません。

「より祈りましょう。世界のためにも!」

「はいっ!」

 聖女や巫女、僧侶、神官ゴーレムちゃん部隊がより強い祈りを捧げると、移動式教会や神殿などから一層光が溢れ、結界が更に広がり、強くなります。

「ぐっ、このままでは近づけん……!」

 空から攻撃しようとしてた悪魔が歯噛みし、後退していきます。

 そしてついに。

「魔力充填一五〇%! もう限界です!」

 魔導砲のチャージは限界に達しました。

「さあ、歌も戦いもクライマックスよ!」

「おうっ!」

 吟遊詩人や歌い手ゴーレムちゃんが呪歌を歌い、楽士部隊などが魔楽を演奏し、ベンジさんやゴーレムちゃん達の能力をさらに上昇させていきます!

「よしっ! 皆頑張ったな!」

 皆の頑張りに満足しつつ、ベンジさんは次の段階を宣言します!

「各魔導砲の安全装置解除!」

「安全装置解除しました!」

「しました!」

 各ゴーレムちゃん達から報告が流れてきます。

 ベンジさんは魔導砲を構え直しながら、皆に告げます。

「皆、魔力の逆流と過負荷に注意して!」

「はいっ!」

 全体的な報告を司る司令部のオペレーターゴーレムちゃん達が伝えます。

「各魔導砲魔力、薬室内で正常に上昇中! 魔力誘導レール形成! 収束回転開始!」

「魔力開放のタイミングは各ゴーレムが調整を! 全魔導砲のトリガーをベンジ様に預けます!」

「わかった!」

 ベンジさんはうなずくと、自分の魔導砲を目標に合わせます。

 目標は、目の前で蠢く邪神アレクハザードです!

 視界内に照準レクティルが現れ、上下左右します。

「各機、照準合わせ! 目標! 前方の邪神アレクハザード!!」

「目標合わせ完了!」

「対衝撃、閃光防御!」

「各躯体防御完了しました!」

 ゴーレムちゃん達の両目が一斉に黒一色に変わります。

 彼女達のコンタクトレンズの、遮光機能を有効化させたのです。

「安全弁、開放!」

「安全弁開放しました!」

 受け答えしながら、ベンジさんは呼吸を整え、目を細めました。

 照準が揺れに揺れながら、やがて……。

 邪神にぴったり合いました。

 今です! 今がチャンスです! 今しかありません!!

(今だ!!)

 その瞬間を、ベンジさんは逃しません!

「……魔導砲、発射!!」

 力強く叫びながら、トリガーを引きます!

 その瞬間。

 無数の青白色のビームがベンジさんの魔導剣やゴーレムちゃん達の魔導器から発射しました!!

 光はアレクハザードに向かって一直線に伸びていきます!

 その光に気がついたのか、邪神は全ての触手を止め、全ての目を開き、巨大な魔法陣を目の前に生みだしました!

 魔法陣をなぞるように黒い光が幾つも渦を巻き。

 そして、極太の黒い光が放たれました!

 前方の魔導砲。後方の邪神の極大魔法。

 クルスとガラン達を、二つの光が襲います!!

「に、にげ……!」

 彼らは悲鳴を上げながら、黒と白、二色の光の中へと巻き込まれ、跡形もなく消えていきました。

 ぶつかり合う、黒と白の極太の光。

 その二つの光が混じり合い、封印の間のドームを満たしていきます!

 白黒の光は、しばらく押し合っていました。

 が。やがて、黒の光が押してゆきます。

 ああなんという事でしょう! このままだと、ベンジさん達は負けてしまいます!

「ぐっ……!」

「ぐっ……!」

 ベンジさん達は踏ん張り、魔導砲をそのまま撃ち続けます!

 しかし邪神の暗黒魔法は力強く、ベンジさん達の陣地近くへと押し込んできました。

 もう、駄目なのでしょうか?

 その時です!

 ベンジさんの魔導剣を、支える一人の少女の姿がありました。

 マルさんの、ゴーレムちゃんです。

 ベンジさんはマルさんの顔を見ました。彼女は、優しく微笑んでいました。

 彼はそんな彼女の微笑みを見て一つ頷くと、魔導砲を握る手を強くしました。

 アルカちゃん達の魔導砲のそばにも、盾型や戦士型、魔道士型などのゴーレムちゃん達がそれぞれ数体集まり、魔導砲に魔力を注ぎます!

 するとどうでしょう!

 魔導砲から放たれる魔力が更に強くなり、邪神の極大暗黒魔法を少しずつ押し返し始めます!

 その様に、邪神は大きく全ての目を見開きした。

 ベンジさんは心のなかで叫んでいました。

 ……届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け!!

 魔導砲が魔法を少しずつ押し返していきます。

 が、魔導砲を支えているゴーレムちゃん達が魔導砲から発せられる膨大な熱により溶け始め、顔や体がぼろぼろになっていきます。

 皮膚はただれ、どろどろに溶けていき、その下から人工の筋肉や骨、機械などがむき出しになっていきます。

 なんという事なのでしょうか。

 しかしそれでも、ゴーレムちゃん達は魔導砲に魔力を供給し、その身が壊れても、ベンジさんのために役目を果さんとしていました。

 ああ、なんと健気な事でしょうか。

 そのベンジさんのゴーレムちゃんもマルさんのゴーレムちゃんも、膨大な熱により体が溶け始めていました。

 どろどろに溶け、混じり合った鎧や皮膚の下から、合金製の骨や人工筋肉が見え始め、まるでゾンビのような姿になっていきます。

 それでも。

 それでも、ベンジさんとマルさんの勇者型ゴーレムちゃんの体は揺らぐ事なく、魔導砲で邪神を撃ち続けました。

 そして。

 じりっ、じりっと、魔導砲の青白色のビームは邪神の黒色の魔法を押し続け。

 邪神の魔法陣へと押し返しました!

「!!!!」

 アレクハザードは人間ではわからない言葉で叫びながらしばらく魔法陣で耐えていましたが。

 その魔法陣にヒビが入り、そのヒビが魔法陣中へと走り。

 ついに魔法陣がパリンと割れました!

 魔導砲の光が、邪神を覆い尽くします!!

「!!!!!!!!」

 邪神は大声で悲鳴を上げながら、青白色の光の洪水の中へと飲み込まれ。

 そして。

 その青白光の中で巨体はばらばらになり、チリとなって消えていきました。

 邪神を喰らい尽くした魔導砲の光はゲートを突き抜け、異界側の空間へしばらく突き抜けていましたが。

 やがてその光はだんだん細くなり、ふっ、と止みました。

 ……やりました。

 神々でさえ封じるのに精一杯だった邪神アレクハザードを倒してしまいました。

 これが、人形遣いの大勇者ベンジとゴーレムちゃん軍団の実力であり性能なのです!

「やった……」

 ベンジさんは感知魔法で邪神の消失を確認し、そばにいるマルさんの顔を見ようとしましたが。

 その瞬間。

 何故か意識が遠くなり、と同時に、自分の視界が狭くなりながら斜めに傾くのを感じ。

 視界が真っ暗になりました。

 それから他人事のように、どすん、と一つ音が鳴るのを知覚すると。

 そのまま、意識は闇へと落ちていきました……。


                           脳改造進行度 一〇〇%


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