第17話 4−3
話は、邪神神殿の封印の間に戻ります。
超巨大な天然のドーム内で繰り広げられる人形使いの大勇者ベンジ軍と魔族軍の戦いは、激しさを増していました。
「悪魔めっ、邪神をこのままにしておくのは許しませんよーっ!」
「何を言うか人形ども! 粉々にしてやる!」
「ばらばらになるのはそっちの方だにゅっ! えいっ!!」
ここかしこで繰り広げられる乱戦のさなか、空中で悪魔と激しく切り結んでいた信仰の
「なんの! へなちょこな!」
その光刃を翼を羽ばたかせて悪魔は躱しました。が。
そこに魔法使い型のゴーレムちゃんと弓使い型ゴーレムちゃんの放った魔法と矢が襲いかかります!
「ぬおっ!?」
すんでのところで悪魔は躱しますが、バランスを大きく崩します!
そこに!
「もらったあ!」
先程のチャンピオン型ゴーレムちゃんが得物で悪魔を切り裂きます!
「ぐふぉ!」
悪魔は真っ二つにされ、地面へと落ちていきました。
そこに、チャンスと見た悪魔が数体飛びかかってきました!
チャンピオンちゃんは避けられないと覚悟しましたが、そこに氷の槍が何筋も飛び、悪魔とチャンピオンちゃんの間を遮ります!
悪魔達が飛び退く間に、チャンピオンちゃんは空を飛び、自陣の方へと戻っていきました。
見れば、魔法使い部隊が魔法を連射し、悪魔達を後退させていきます。
「にゅっ! ありがと!」
チャンピオンちゃんはそう礼を述べると態勢を整え、他のゴーレムちゃんと合流すると、次の敵へと向かっていきました。
そのような戦いが、ここかしこで見られていました。
地上では盾持ちのゴーレムちゃん達ががっちりと戦線を整え、その後方から魔道士型や弓使い、レンジャー、盗賊型などのゴーレムちゃん達が弓などで遠距離攻撃を行っています。
弓使い型ゴーレムちゃん達が弦を強く引き、溜めて放つと、空気を震わせる弩から太い魔法の矢が何条も飛び、その矢が悪魔を貫いたり地面に着弾すると。
矢が爆発! 周りに炎をもたらし、さらなる被害を悪魔達に与えます!
空中では、戦士型のゴーレムちゃんや魔道士ゴーレムちゃんなどが魔法で自由に空を飛び周り、翼持ちの悪魔達と切り結んだり魔法を放ったりして空中戦を行っていました。その様は猛禽類のようです!
一方で竜騎士型ゴーレムちゃんなどは飛竜などに騎乗して空を飛び回り、その飛竜が口から炎を悪魔達に向けて吐き、その体を包み込み、燃やしていきます!
まるで花火みたいです!
しかし敵もさるもの、次々と呪文を唱え、ゴーレムちゃん達が設営した神殿や教会などのところへ魔法を打ち込んできました!
ちょっとピンチです! 防御魔法、発動!
神殿近くで守っていたある魔道士型ゴーレムちゃんが呪文を唱えると、青い魔法陣が現れました。
その魔法陣が光になって周囲へと広がると。
砦や移動式神殿などの周辺に霧が現れ、悪魔達からは見えにくくなりました。視認妨害魔法です!
霧に護られて、聖女型や巫女型、僧侶型等のゴーレムちゃん達がが移動式神殿の周りなどで祈りを捧げます。
すると、神殿や教会等が光り輝き、ゴーレムちゃん達の戦線中に色とりどりの光が広がっていきます!
聖なる結界が、ゴーレムちゃん達の体を包み込み、さらなる力と癒やしを与えます!
ゴーレムちゃん達に接近しようと結界に悪魔の体が触れると、その悪魔の体が赤く焼け、耐えられないほどの痛みを与えました!
悪魔は一つ叫び、後方へと下がりました。
自然と、他の悪魔達も下がらざるを得ません。
いい感じです! このまま押し込んじゃいましょう!
しかし、悪魔達も指を加えてみているはずもありませんでした。
「この人形達強いのう。ガーバラ」
「あのネズーを倒したのは伊達ではないとねー。ガラン」
「このままだと前線が持たんぞ。どうする? ご両人」
「案ずるな、クルス。……ちょうどお食事が終わったようだぞ」
そうガランがクルスに言うと、彼は後ろを振り返りました。
見れば、邪神アレクハザードが最後の生贄を口の一つに放り込み、ボリボリと噛み砕き、飲み込みました。
その口が一つゲップを吐き出すと。
ゆらゆらとしてた触手達が激しく動き出し、そしてその先に魔法陣が灯りました。
無数の魔法陣が輝きを増し──。
消えると同時に、ゴーレムちゃん達の陣のあちこちに黒い球体が現れ、ゴーレムちゃんの魔法の結界や盾、ボディなどを削り取ります!
黒い球体の攻撃に、結構な数のゴーレムちゃんが吹き飛ばされ、あるいは手足をもがれたりします!
いけません! 皆、即座に対応を!
私の声を聞いた指揮官を務めるゴーレムちゃん達は冷静に、
「空いた穴に予備のゴーレム達を入れて!」
「破損した躯体は後方へ転送! 後方から代わりのゴーレムを転送!」
「神殿や教会の出力を上げて! 結界を強化!」
「防御魔法をどんどん唱えて! 呪歌なども頼みます!」
手早く指示を出し、できるだけ損害を少なくしようと努めます。
魔道士部隊の指揮官ゴーレムちゃんは、部下の魔道士ゴーレムちゃん達に、
「目標邪神の触手! あの魔法を撃たせないで!」
そう叫ぶと、自らも呪文を唱え、邪神の触手に攻撃魔法を打ち込みます。
指揮官の命に従い、攻撃型魔道士ゴーレムちゃん達は次々と呪文を唱え、攻撃魔法を邪神の触手等に撃ち込みます。
連続した爆発。
一連の爆発により邪神の動きが止まり、魔法の攻撃も止みます。
「続けて!」
「魔法封じの魔法なども連続してぶつけろ! すぐに破られるだろうが、休む事なく続けて浴びせていれば動きは止まる!」
支援魔法使いのゴーレムちゃん達も次々と呪文を唱え、魔法封じの魔法等を邪神に浴びせます。
本体や魔導器等から次々と飛んでくる大量の魔法に、流石の邪神も動きが止まりました。
アレクハザードは自らの高い魔力等で魔法を次々と無効化していきますが、それ以上にゴーレムちゃん達の魔法火力や支援呪文の量が多く、次第に黒い球体の数が減っていきます。
いけます! このままなら、何か強力な一撃があれば邪神に大ダメージを与える事ができます!
でもその強力な一撃を与える何かが、今は足りないのですが……。
戦況をひと目見て、ガランの顔に一筋の汗が流れました。
表情も硬いものになります。
どうやら、焦っているようですね。
しかしすぐさま不敵な顔を見せると、周囲の悪魔達に向かって叫びました。
「こいつら、ここまでやるとは……。だが主な火力が神にかかりきりでは、こちらに応対できまい! かかれ!」
その命に応え、今まで後方で待機していた下級〜中級悪魔達が一斉にゴーレムちゃん達が形作る戦線へと襲いかかります!
押し寄せる悪魔の波達! 盾等を持ったゴーレムちゃん達は一斉に得物を掲げますが、その黒い波はとても厚く、ゴーレムちゃん達で支えきれるでしょうか!
悪魔達が津波のような勢いでゴーレムちゃん達の隊列にぶつかろうとした、その時です!
どこからか、女の子の声がしました。
「皆のもの。出番です。やっておしまいなさい!」
彼女の合図と共に、ゴーレムちゃん達の隊列の後ろから、大勢の人影が飛び出してきました!
その影は……。
ある者は黒い翼を持ち、ある者は六本の腕を持ち、ある者は長い尻尾を持った異形の者達です!
それらの異形の者達が悪魔達に負けない速度で隊列から飛び出すと、彼らが持つ爪や牙、得物等を振りかざしたり、呪文を唱え、悪魔達を攻撃します!
突然の異形の者達の奇襲に、悪魔達はなすすべもなく切り裂かれ、あるいは魔法の力に焼かれていきます!
その様を見たガランは目をむき出しにして、
「なっ、なぁっ!? ……あれは!? まさか!?」
驚愕の叫びを上げました。その叫びを耳にし、そして悪魔達と戦う異形の者達とガランを交互に見ながらクルスは問いかけました。
「あれは……。見るからに悪魔ではないか!? 貴様らとは姿が異なるが、まさしく悪魔達だ。それがなぜベンジ達の味方に……!?」
「知るか!? あやつらはたしかに悪魔だ。しかもあやつらは……」
「なんだ?」
「大魔王ネズーの眷属達、あるいは、異界から呼び出されてネズーのために戦った異なる世界の悪魔達だ! それがなぜ……!?」
ガランがどういう訳だと首を横に振った、その瞬間です!
ゴーレムちゃん達の最前線の空中に人影達が舞い上がり……。
そのうちの一人、灰色のコートを着たゴーレムちゃんが両手を目の前に突き出すと、その手から強烈な電撃を悪魔達に浴びせました!
いや、電撃とは異なります! もっと禍々しい光……。妖光とも言うべきものです!
その妖光を多数の悪魔達が浴び、傷つき、倒れていきます!
間髪入れずその両側にいた黒ずくめの騎士のようなゴーレムちゃん二人が、それぞれ黒い刃の大剣と大鎌を構え、振りかぶります!
大剣と大鎌から放たれた黒い波動は辺りを覆い尽くし、その場にいた悪魔達を包み込み、その体を焼いていきます!
その様を見て、クルスとガラン達はまたもや驚きを隠せない表情を見せました。
「ガラン、あ、あれは!?」
「闇の波動ではないか……!? なぜ人間が作りしゴーレムに闇の力が使えるのだ……!?」
「闇の力……!? それは悪の力ではないのか!?」
「そうだ。闇の力は悪の力……。人間はともかく、ゴーレムに御せるものではない。それがなぜ!?」
「人間、いや、ドールズというものは進歩するものだからですが」
二人の会話を遮るように、どこからか美少女の声が響いてきました。
と同時に、最前線に数体のゴーレムちゃんが空へと浮かびました。
数体のゴーレムちゃんに護られた、勇者型ゴーレムちゃんがクルスとグラン達を見据えます。
その距離は相当ありましたが、彼女には彼らの姿が見えているようでした。
ゴーレムちゃんから発せられる少女の声は、傲慢気な声色で言葉を紡ぎました。
「旧来のポンコツな貴方方ではわからないでしょうが、ドールズ達は常日頃改良され、進歩を続けているのですよ。目の前にいるドールズ達もその成果の一つですよ。悪魔を御するのも、悪の力を使うのも、その成果の一つに過ぎないのですよ」
ここで皆にこっそりと説明しちゃいますよー。
なぜゴーレムちゃんが悪魔を召喚し、御せたりできるのか。暗黒騎士や妖術師等の闇や悪の力を使えるのか。
それは、ベンジさんがオーナーの一人であるシノシェア社は、ベンジさんの中にある大魔王のかけらを解析し、闇や悪の職業の魔導コアやゴーレムちゃんの人工意識などを作り出し、それで、闇・悪の職業のゴーレムちゃん等を生産したりしていたからなのです!
しかしそのままでは、ゴーレムちゃんの意識は闇や悪の心に染まってしまいます。それを解決したのが、ベンジさんの体に埋め込まれた魔導コアと、大魔王のかけらの関係でした。
大魔王のかけらはベンジさんの魔導コアにより、その力を軽減されています。それをゴーレムちゃんにも応用し、闇の魔導コアと通常の魔導コアと同数か1:2以上の関係にし、その力をコントロールする事に成功したのです。
さらに、その魔導コアをクラウドマインドや魔導器などを構成する魔導計算機や魔導コアに接続する事により、より安全に、安定性を高めたのです!
どうですっ? これがシノシェア=マアス、驚異の魔導力なのです!
その説明を耳にすると、ガランは彼女の説明とまったく関係ない事を口にしました。
「そ、その声は……!?」
しばらく彼女の声を反芻していたガランでしたが。
驚きを押し出すように、言葉を口にしました。
「お、お前はマルファシア王女!? 生きていたのか!?」
「マルファシア……。大魔王大戦で大魔王ネズーが斃されたときに生き残っていたネズーの孫娘……。捕虜としてグライスに送られた後行方不明になっていたと聞いていたが。……まさか!」
クルスが記憶を手繰った後、それから何かを思いついた様子で、答えを告げました。
それは、クルスにとって驚愕の事実でした。
「ベンジの元で生きていたというのか……!」
「そんな事、どうでもよいのですが」
クルスの驚愕を、マルさんは切り捨てました。
バッサリです。爽快で、気持ちいいですね。
「どうでも良くはない! 大魔王の孫娘であるお前が、人間の勇者の元に何故いるのだ!?」
ガランは言葉で斬られてもなお、問いを続けます。
しつこいですね。マルさんは鼻を鳴らしながら、独り言のように応えました。
「……簡単な事ですよ。あの人は私を魔族として差別せずに、一人の少女として私を見てくれました。だから人間として生きようと思ったのですよ。……それだけの事ですよ」
マルさんはそう、告白しました。
続けて彼女は更に斬るように言葉を放ちました。
そして、はるか遠くのクルスとガラン達を睨みつけました。
「……それだけですか? なら、おしゃべりはこれで終わりにしましょうか。……パーティの主賓も帰ってきましたしね」
彼女の言葉と同時に。
マルさんの操る勇者型ゴーレムちゃんの後方に白い球体の光が幾つも現れました。
そしてその中から、人影が現れました。
その人影達はそう、修理・強化を終えたベンジさんの戦闘用勇者型ゴーレムちゃんと、アルカちゃん達です!
転移魔法で帰ってきたベンジさんは魔導剣を構えると、その切っ先をクルス達に向け、こう叫びました!
「クルス! よくも僕のかわいいゴーレムちゃん達をいじめてくれたな! 許さねえ!!」
そう叫んだ瞬間、ベンジさんの勇者型ゴーレムちゃんから真っ赤なオーラが、炎の衝撃波となって封印の間全体に飛んでいきました。
その怒りのオーラはクルス達の背筋を凍らせ、邪神さえも一瞬動きを止めたように見えました!
戦いは最終局面、クライマックスです!
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