第16話 4−2
すっかり日も暮れた邪神の神殿の入口より少し離れた場所に。
二つの白い球状の光が生まれ、その中から幾つかの影が現れました。
ベンジさんとアルカちゃん達、それに彼らを運んできたゴーレムちゃん達です。
皆が現れた場所は、ベンジさんが出発したときとは様相が大変わりしていました。
ベンジさんが神殿内に入る時は、輸送用自動馬車が数台があるだけの寂しい光景だったのですが。
「最前線に移動式砦、神殿、教会等設置完了しました!」
「よしっ、魔導発電所等を各施設に接続! 魔力供給開始!」
「破損したゴーレムが戻り次第、修理工場にてトリアージの上修理開始せよ!」
「武器・魔導器コンテナの展開急げ!」
「施設魔導器が到着次第、随時展開開始せよ!」
今はたくさんのゴーレムちゃん達が行き交い、大量の様々な魔導器が展開して自動工場や整備工場、武器・魔導器収納コンテナ、指揮基地などが置かれ、そしてその周りに塔や城壁などが設置された、一大後方支援基地となっていました。
ここはまさに、第二の戦場と化していました。さて、私も指示を出して皆を働かせないと。
ベンジ様と皆がご帰還なされましたよー。修理場の枠を空けてくださいねー。工場もよろしくねー。
「ベンジ様、しっかり!」
「今修理いたしますからね!」
ゴーレムちゃん達が必死に声を掛けながらベンジさんのゴーレムちゃんをゴーレム修理・整備工場へと運び込み、整備台へと設置しました。
と同時に、四方八方から工作アームが伸び、ベンジさんを修理し始めます。
さて、修理と改良をっと。
「う、うん……」
自分があれこれ弄くられている振動等で、ベンジさんは目を覚ましました。
その様子を見て、一体の青い長髪に猫耳のゴーレムちゃんが部屋の影から現れました。
「気がついたかにゃ」
マアス城のゴーレムちゃん工場の担当ゴーレムちゃん、メフィールちゃんです。
その悪役の博士のような登場と声の掛け方に、ベンジさんはちょっと驚いた表情を見せました。
「!? ……な、なんだ、メフィールか」
「何を驚いているのですにゃ。まあ、あんな事があったから仕方がないのですがにゃ」
でもそんなに驚かなくてもいいとは思いますけどね。
「ここは……?」
「邪神の神殿の入口の外に設営した後方支援基地のゴーレムちゃん修理整備工場ですにゃ。マル様達が神殿最深部へ到着して悪魔達と戦闘を開始すると同時にベンジ様達を回収してここに連れてきたんですにゃ」
「アルカ達は?」
「アルカ達も回収して別所で修理中ですにゃ。まあアルカちゃんは自爆したのでボディは作り直しですがにゃ」
「そうか、よかった……」
会話する間にベンジさんの修理は進み、ベンジさんの体に再び手足が装着されました。
パーツが装着される接続音が高らかに鳴り響きます。
手足は、戦闘用のガッチリとした太いものが装備されていました。これなら、邪神と戦っても大丈夫そうです。
また、体の鎧などのパーツも付け替えられ、探査用の軽装の鎧から、いかにも強靭そうな装甲などの戦闘用のものへと変わっていきます。
と同時に、ベンジさんのゴーレムちゃんに戦闘用の能力や魔法プログラムがインストールされ、探査用から大規模戦闘用の機体に作り変えられていきます。
ベンジさんのゴーレムちゃんは、すっかり新機体、あるいは別機体へと生まれ変わっていました。
機体を乗り換えた、とも言えるレベルです。
「武器や魔導器は?」
「それらも回収しましたにゃ。武器・魔導器格納庫で再調整中ですにゃ」
「なら安心だな……。そうだ」
ベンジさんは繋いだ手足を動かしながら問いかけます。
それはベンジさんにとって今一番気になる事の一つでした。
「僕の脳って改造中で、このゴーレムちゃんと直結しているんだよね? 今どうなっているの?」
「それが……」
彼の問いを聞いて、メフィールちゃんの顔が曇りました。
少し考えたあと、口を開きます。
「今、ベンジ様の改造進行度は九九%で止まっておりますにゃ。理由はわかりませんがにゃ。ほぼ脳は改造され、ゴーレムと同様のものになっておりますにゃ」
「改造が終わったらどうなるの?」
「分かりませんにゃ。ゴーレムと同等のものになるとは予想されますが、そうした上で、改造を施した何者かが何をしたいのかは、検討もつかずですにゃ……」
「そうか……」
いつの間にか、修理は終わり、ベンジさんのゴーレムちゃんは元の姿を取り戻していました。
修理の終了を確認すると、ベンジさんは整備台から起き上がりました。
それから壊れる前と変わりなく、確かな足取りで、床へと降り立ちます。
そして、前半はメフィールちゃんに向かって。後半はにっくき敵に向けて言いました。
ベンジさんのその目は、勇者の目というより、狂戦士の目でした。
「ありがとう。助かったよ。メフィール。……さて、あのクソ野郎に、お返しをしなくちゃな!」
その時でした。
「ベンジ様ーっ!!」
数人の少女の影が、修理工場の部屋に飛び込んできました。
それは、
「アルカちゃん……」
別の修理工場で修理を終えた、アルカちゃん達でした。
というかアルカちゃんは自爆してボディを失くしたので、自動工場で新しくボディを創って復元したんですけどね。
黒い髪に黒い目、平均的な美少女というアルカちゃんの特徴は、もちろんそのままです。
しかしアルカちゃんは魔道士の黒いローブではなく、白い一角獣かペガサスをイメージしたような鎧というか装甲服に身をまとっていました。
どうやら魔道士ではなく、戦士系、あるいは騎士系にクラスチェンジしたみたいですね。
「ベンジ様、修理を終えられたのですねっ! さあ、邪神を倒しに行きましょうっ!」
「アルカちゃん達も修理を終えたのかい?」
「はいっ! 私はボディを新しく創ってもらいましたっ! 躯体は前の情報をフィードバックした新型になっておりまして、性能もばっちりですっ!」
「良かったね、アルカ」
「マル様に性能不足を言われて大急ぎで改良したんだにゃ……」
「メフィールちゃん、ご苦労さま。……ん、その周りに浮かんでいるのは?」
見ればアルカちゃんの周りに、白くて人間の大きさほどの長方形に近い形状の物体が幾つか浮かんでいますね。
「ああ、これはっ」アルカちゃんは周りに浮かぶものを見渡しながら応えます。「新型の汎用魔導器ですっ。強力小型な魔導コアを数基搭載して、演算能力や魔法能力を向上し、複数機連携させる事で小型のクラウドマインドを形成できますっ。また先端部には新型魔導砲を搭載し、強力な敵でも粉砕する事ができますっ!」
「それは頼もしいな。実はそっちの方にメインの意識を移しているのか?」
「ご明察ですっ。もうあんな目に遭うのは御免ですからねっ」
「まあな」
先程はクルスによってひどい目に逢いましたからね。その気持ち、わかります。
「さて」
ベンジさんはメンテナンスベッドから離れながら言いました。
彼の目は勇者にふさわしい、勇敢な光に溢れていました。
表情も、決意に溢れていました。
やり残した事を、やり遂げるぞという決意に。
「僕も武器を受け取ったら、皆でもう一度行くぞ。邪神の神殿、最深部へ」
彼の言葉に、アルカちゃん達は強く頷きました。
いよいよ、物語もクライマックスに近づいてきました。
そしてベンジさんが、自由になる時も。
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