第15話 4−1

 4


 こうなったら、私が介入します!

 ゴーレムちゃん強制制御開始!

 その瞬間、行動妨害魔法によって動かないはずのマルティちゃん達の体が動き出し、クルス達から離れ始めました!

「なんだと!?」

 クルスは慌てて後を追います。

 が、簡単には捕まりませんよ!

 ゴーレムちゃん達は猛スピードで走り出しました。

 驚くべきスピードで地面を走り、時には大きく跳躍し、洞窟の壁さえも走るゴーレムちゃん達に、クルスは驚きの顔を顕にします。

「くっ、速い……! なんて動きだ! この勇者の体であっても追いつけんとは……!」

 ふふっ。クルスさん、予想外で突然のゴーレムちゃん達の行動と身体能力に慌てていますね。

「な、なにこれ……?」マルティちゃんが勝手に動く自分の体を見て驚きました。「体が勝手に……!」

 ごめんなさい! でも、もう少しの辛抱ですよ!

 ほら!


 きゅいきゅいきゅい……。

 きゅいきゅいきゅいきゅいきゅい……。

 きゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅい……。


 邪神神殿の封印の間の入口より奥から、魔導コアの駆動音が聞こえてきました。

 駆動音は一つや二つではありません。無数の音が重なり合って、大人数の大合唱状態で聞こえてきます!

「な、なんだ!?」

 その大合唱に慌ててクルスが足を止め、入口の方を向いた間もなく──。

 入口の奥から、大量の光が飛んできました!

 その色とりどりの光はクルスの所に飛んできたり、悪魔達の所へ飛んでいき──。

 着弾して、爆発や竜巻や氷柱等を起こしました!

 その爆発等で悪魔達が吹き飛ばされます!

「わっ!?」

 クルスはそう叫びながら転移魔法を唱えると、黒い転移球の中へと姿を消しました。

 そして次の瞬間には、男女の上位悪魔の所へと姿を現していました。

 赤銅色の肌に二本のねじ曲がった角を頭に生やした美男美女の悪魔のうち男の方が、現れたクルスに声を掛けます。

「クルス、あれはなんなんだ!?」

「……ガラン、ガーバラ! ベンジのゴーレム達が応援に来やがった! しかもあの魔導コアの音、かなりの大軍だぞ!」

「注意した方が良さそうねぇー、ガラン。こっちも神を動かすわよぉ」

「そうだなガーバラ。部下にも迎撃させるぞ」

 男の悪魔ガラン、女の悪魔ガーバラはお互い頷きあうと、周りにいた部下の悪魔達に指示を出し始めました。

 クルスと悪魔達の話しぶりからすると、彼らは結構前からの知り合いのようです。

 なんていうことでしょうか。これは後で国王陛下にご報告ですね。

 一方。様々な攻撃魔法が飛んできた入り口からは、光群のあとに多数の人影が見え、無数の足音ときゅいきゅいという魔導コアの高音が響いたかと思うと、次の瞬間、無数のゴーレムちゃん達がなだれ込んできました!

「ベンジ様ーっ! ご無事ですかーっ!?」

「アルカー! 皆ー! 助けに来たよー!!」

「敵はどこだーっ! 悪い子はいねーかー!!」

 さて、強制制御解除。後は皆に任せましょう。

 制御解除とともに、マルティちゃん達はその場に倒れ込みました。

 ゴーレムちゃん達はあっという間に蟻達のように、蜘蛛の子達のように入り口周辺を占拠し、倒れているベンジさんやマルティやアルカちゃん等、ゴーレムちゃん達やその魔導器の元に駆け寄ります。

 ゴーレムちゃんのうち一体がベンジさんに駆け寄り、助け起こします。

「ベンジ様っ……! ああ、こんな可哀想なお姿に……! 今助けてあげますからね……! テレポーター! 転送して!」

 その呼びかけと同時に、四肢を寸断されたベンジさんのゴーレムちゃんと助け起こしたゴーレムちゃんの姿は白い光に包まれ、消えていきました。

 一方で、アルカちゃん達の近くにいた、黒い直方体状の、ゴーレムちゃんの身長ほどある魔導器持ちのゴーレムちゃんが魔導器を掲げると、魔導器に備えられた球体が青く輝きだし、辺りに青い光をばらまきます。

 するとどうでしょう! アルカちゃんの杖型魔導器や、マルティちゃんの背中に背負うタイプの武装魔導器、それに、その他のゴーレムちゃんの魔導器が独りでに動き出したではありませんか!

 この青い光の魔法は、行動阻害魔法の対抗魔法の一つで、魔導器などにかけられた行動阻害魔法を無効化し、魔導器を独立行動させる事が可能になるのです。

 さて、その光を浴びたアルカちゃんの魔導器から、あの可愛らしい声が響いてきました。

「あー、助かりましたよーっ! 一時はどうなる事かと思いましたよーっ。この魔導器に意識を避難させてよかったですっ」

 実は、ゴーレムちゃん達の魔導器の一つとして、ゴーレムちゃん本体の魔導コアとリンクして意識を共有させ、非常時には、そこにゴーレムちゃんの意識を避難させる事ができるのです。バックアップの保存先として、クラウドマインドと同時に意識のバックアップが行える感じですね。

 自律して浮遊するアルカちゃんの杖に、魔道士タイプのゴーレムちゃんが口をへの字にして言いました。

「アルカ、自爆したのですか……。ボディ代、給料から差し引いておきますよ」

「えーなんでぇー」

「ともかく、一度外に出て新しいボディを構築しますよ。メフィールちゃん達が待っていますからね」

「はあい」

 言葉と共に、数体の魔道士ゴーレムちゃんと、機能を停止したゴーレムちゃんのボディ、それに魔導器達は先程の白い光と同じ光に包まれて消えていきました。

 彼女らの様子を、一体の白銀の鎧を着たゴーレムちゃんが見守っていました。

 その口から、よく聞いた声が響いてきました。

「ご主人さま達の回収は終わりましたか。まったく世話が焼けますね」

 そのゴーレムちゃんは、マルさんが操る勇者型ゴーレムちゃんでした。

 マルさんは視線をまっすぐ前に、壁の向こう側にいる邪神の方へと向け、

「あれが邪神アレクハザードですか。禍々しいですね。神々が封印しようと思ったのも理解できますが。さて」

 そう言うと右腕を掲げ、周りにいるゴーレムちゃん達に呼びかけました。

「ドールズ。やっておしまいなさい。ご主人様の安寧をお守りするのです」

 彼女の言葉を聞き、突入してきたゴーレムちゃん達の一体、豪奢な鎧を着た将軍格のゴーレムちゃんが前に出ました。

 さて、ここは前衛部隊が突撃して前線を作って陣地を形成して、砦とか設備などを設置しましょうね。

 その後は皆の働きと頑張りです。

 というわけで、ベンジさん達が戻ってくるまでよろしくね。

 私の言葉を聞いた将軍ゴーレムちゃんは、その場にいる全てのゴーレムちゃんに向けて叫びました。

「まずは前線を作って陣地を形成! その後方に砦や設備などを設置せよ! 前衛部隊、突撃ーっ!!」

 と。

 その号令を聞いた瞬間、手に盾や槍などを持った無数のゴーレムちゃん達が、

「了解しました!!」

「おおーっ!!」

「いっくぞー!! 突撃ーっ!!」

 と叫び返すと、加速魔法で勢いをつけ、魔族達へと突撃していきます!

「は、速い……!」

 魔族の一人がそう叫ぶと、彼らも鶴翼の陣と呼ばれる防御的な戦列を形成し、禍々しい形の剣や盾等を持ったり、拳を構えたりしてゴーレムちゃん達を待ち構えます。

 ゴーレムちゃん達は何列もの列を作り、魚鱗の陣と呼ばれる攻撃的な戦列を形成しました。

 そして、かなりの速度で突撃し──。

 魔族達の戦列と激突しました!

 その瞬間、戦列と戦列がぶつかり合い、周囲に衝撃波を撒き散らします!

 盾を持ったゴーレムちゃん達は光盾を展開、前線を作って魔族の攻撃を防ぎ、その後列から、戦士や槍使い等のゴーレムちゃん達が光刃を飛ばして悪魔達を攻撃します!

 それに対し、悪魔達も武器や拳、あるいは口から炎を吐いたり呪文で攻撃したりします!

 お互いの体と体、刃と刃、呪文と光盾などがぶつかり合い、激しい土煙を巻き起こします!

「えいっ! えいっ!」

「この、こしゃくな小娘達め!」

 ゴーレムちゃん達と悪魔達が作る前線は、巨大なドームの中央付近で停滞し、ゴーレムちゃん達の後方に大きな空間を形作りました。

 それを見た将軍ゴーレムちゃんが、

「よしっ、予定通り施設魔導器設置開始っ!!」

 と力強く叫びました。

 すると手に杖型や大きな箱型等、多種多様な魔導器を手にしたゴーレムちゃん達が、加速魔法でその空いた空間へと走り出していきます。

 そして、前線より後ろの安全地帯へとたどり着くと、彼女らは停止して、それぞれの魔導器を地面に打ち付けました。

 するとどうでしょう!

 手にしていた魔導器の魔導コアが輝きだし、変形、というより、拡張し始めました!

 ある魔導器は小型の砦になり、別のある魔導器は小さな神殿になり、また別のある魔導器は攻城兵器へと変形し──。

 瞬く間に、簡易的な基地、要塞がその場に現れました!

 間髪入れず召喚士系のゴーレムちゃん達は、召喚呪文を唱え、巨大なストーンゴーレムや、飛竜、恐竜などのモンスター等を次々と召喚!

 戦士系・モンク系・レンジャー系等のゴーレムちゃん達がそれらに騎乗し、戦闘態勢を整えます!

 また基地より後方では、吟遊詩人や楽士系の職能のゴーレムちゃん達が列をなし、それぞれ歌を歌い、音楽を奏で始めました。その歌や音楽は、前線のゴーレムちゃん達の力となり、体を輝かせて能力を上昇させます!

 ゴーレムちゃん達はここかしこで態勢を整え、あっという間にしっかりとした戦場を作っていました。

 さすがベンジさんのゴーレムちゃん達ですね。やりますね。

 前線より後方、悪魔側でその様子を見ていたクルスは、ガランとガーバラ、二人の悪魔に向かって告げます。

「くっ、流石にベンジのゴーレム達か……。手慣れたものだな。……気をつけろ、ガラン、ガーバラ! 彼奴等は更にゴーレムを送り込んで勢力を強化するぞ!」

「だが、こちらにはアレクハザードもいる。あんなゴーレムなど、一蹴してやるわい。なあガーバラ」

「ええー。ガラン。こちらの軍勢も負けておりませんわー。それに神もいれば戦力百倍。余裕でしょうー」

「……お前らだって大魔王大戦を戦ってきただろう! あの各地の戦場でゴーレム達の戦い振りを見ただろう! 休む事もなく、疲れも知らず、人間と同等かそれ以上の能力を持つゴーレム達を! そのゴーレムを手足のように使うベンジに、お前達は何度も苦杯をなめされられたのではないか? 油断するなよ?」

「……忠告はありがたく受け入れておこう」

 そう言うとガランは後ろを向き、見上げました。

 彼の視線の向こうに鎮座する邪神アレクハザードは幾つもの目と口と触手を不気味に動かし、目の前の戦場を悠然と眺めているようでした。



                           脳改造進行度 九九%


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