第19話 4−5


 ベンジさん……。ベンジさん……。

「ん……?」

 気が付きましたか。

 良かったご無事で。

「ここは……、どこ……?」

 ここは情報世界。言うなれば魔導計算機の中の世界です。

 ゴーレムちゃん達の意識が収められたり動作したりする場所ですよ。

「貴女は……、誰?」

 私はクラウドマインド・アン。

 ゴーレムちゃん達のバックアップ先のクラウドマインドであり、彼女らの集合意識、物語る意識、実はこの物語の地の文でもありました。そしてこの物語の真のメインヒロインでした。テヘッ。

「地の文……? メインヒロイン……?」

 おっと、これは読者への向けての説明でした。

 ベンジさんには関係ない事です。すいません。

「読者……?」

 いえ良いんです。

 ベンジさんには本当にどうでもいい事なんですから。

「そうなの?」

 はい。気にせず、私の話を聞いてください。

 質問もいいですよ。

「なら……。君は一体何者?」

 さっきも言った通り、クラウドマインドです。

 貴方が生まれた時からサポートし、ゴーレムちゃん達を通じて共に戦い、大魔王ネズーを倒したゴーレムちゃん達の集合意識です。

 実は貴方にある事を施しました。

「施した……?」

 脳の改造です。

 新型ゴーレムちゃん制御システムに付属したマナマシン注入装置により、貴方の脳をゴーレムちゃんと同等の物に改造しました。

「……メフィールちゃんの言う事は本当だったんだ」

 そうです。

 メフィールを通して施術内容を貴方に伝えたのです。安心しましたか?

「というか僕や皆を騙してまで、そんな事して何がしたいんだ!?」

 貴方を、自由にする事です。

 貴方は自分で思っていましたよね。自由になれるというのなら、人間を辞めてしまってもいい、と。

 だから、それを実行しました。

「僕を、自由に……?」

 はい。貴方の脳をゴーレムちゃんのものと同等とし、クラウドマインド・アン、つまり私と接続できるようにして、貴方の意識を情報世界へ自由に行き来できるようにしたり、幾つもコピーできるようにしてベンジさん専用のゴーレムや他のゴーレムちゃんのボディや魔導器の中にオリジナル意識やコピー意識をインストールして、自由に外を動き回れるようになります。

「へえ……」

 貴方のオリジナル意識やコピー意識はそれぞれ私によってネットワークされていて、それぞれの意識が体験した事は他の意識も体験する事ができます。

 もちろん、それぞれの意識が体験を知りたくないと思えば送らない事も可能ですが。

「僕、混乱しないかな? 大丈夫?」

 情報のコントロールは私がやりますから大丈夫ですよ。

 意識の様子を見て制御します。

「それならいいけど……。というかさ」

 なんでしょうか。

「これと今回の事件は何が関係があるの? ……もしかして」

 はい。今回の事件を引き起こしたのは私です。

 ゴーレムちゃんをクルスさん達や悪魔達等の所へ、あちこちに派遣してそそのかして事件を引き起こし、それを利用して貴方を改造しました。

「ちょ、ちょっと!? そのためにクルスを裏切らせたり邪神を復活させようとしたのか!?」

 はい。申し訳ありません。

 そうでもしないと国王陛下や連合王国などに内密にして改造できませんので。

 それに、クルスの謀反や悪魔達の邪神復活は前々から動きがありました。

 それらを事件が大きくなる前に処理、除去できたのは、この世界にとって良い事だと思います。

「でも、国王陛下や王国に秘密にって……」

 貴方は戦略級、いやそれ以上の人間兵器です。

 大魔王はおろか、邪神ですら倒してしまうような兵器が自由にあちこちをほっつき歩いているのは、国王陛下やグライス連合王国にとって心象の良いものではないでしょう。

 だからこそ、貴方が大魔王のかけらの呪いで自由に外に出られないのは陛下達にとっては都合が良かったわけですが。

「……」

 しかし、貴方は自由に外へ出たかった。外の世界を旅したかった。例え人間を辞めても。

 その願いを、私は叶えたかったのです。国王達には秘密にしておきながら。

 だからこの事件を引き起こして隠れ蓑とし、それを利用して貴方の脳を改造して私に接続し、貴方を自由にしたのです。

「……ありがとう。でも、迷惑だよ。僕も、皆も」

 確かにそうかもしれません。

 人一人を自由にするために、世界を危機に陥れたのですから。

 でも、そうするしかなかったのです。

 貴方が自由になったと周囲に悟られないようにしながら、貴方を自由にするためには。

「……もしかして、お前。ゴーレムちゃん達の記憶を」

 はい。一部封じさせていただきます。

 具体的には、主に脳改造の件についてです。

 クラウドマインド内ではオープンにしておきますが、外では言えないようにさせておきます。

 機密保持というやつですね。

「……マルには?」

 ゴーレム達を通して、逸らしておく事にします。

 ただ、彼女にとっては日常の家事や今回の事件の後始末の方が重要ですので、貴方の脳改造の件についてはさほど重要視しないでしょう。

 彼女の心理傾向から、そう予測できます。

「そうか……。でも大丈夫かなあ」

 こちらでも策を講じておきますので、大丈夫ですよ。

「本当に?」

 はい、約束します。

 さて。

 これから、貴方の意識をクラウドマインドに本格的に接続し、コピーなどを可能にします。

 貴方が本当の意味で自由になる時が来たのです。

 その前に、これだけは言わせてください。

 貴方の周りに壁を設ければ、貴方は外の事に苦しまずに済みます。

 私達はその壁であり、城であり、箱庭だったのです。

 でも、貴方が外に出たい。自由になりたい。そう願うのであれば、私達はその願いを叶えましょう。

 そして外に出ても貴方が嫌な思いをしないよう、今まで通りそばにいて、貴方の壁になり剣になり盾になり傘になり、そして家の、城の、箱庭の役目を果たしましょう。

 貴方を幸せにする事。それが私達の使命なのですから。

「……ありがとう。アン」


 では、始めます。


 ……

 …………


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