第3話 1−2−2
「マルティ、お茶のおかわり」
「はあいっ。どうぞー。ご主人さまっ」
ベンジさんはアルカとは別のメイドゴーレムちゃんにそう指示しました。
マルティと呼ばれた、染めた風な茶髪にマルさんと同じように黒いメイド服を着込んだギャル風の顔立ちの少女が、ポットを手に持ち、温かいお茶をカップに注ぎます。
ベンジさんはそのさまを、大事な宝物を見つめるかのように見届けました。
ベンジさんは続けざまに、
「サンラ、ブロードビジョンを映して」
「かしこまりました。マスター」
そう指示するとどこからか声がして、彼の目の前の空中にスクリーンが現れ、放送番組が映し出されました。
サンラというのはこの屋敷及び城を管理するゴーレムちゃんで、この城そのものがサンラちゃんなのです。
サンラ、ベンジさんがいつも見てるチャンネル、よろしくね。
続けざまにベンジさんは周りにいるマルさんやゴーレムちゃん達にこう呼びかけました。
「さて皆、おやつタイムにしよう」
「はいっ」
マルさんやメイド達は一斉に明るく返事をすると。
ベンジさんの周りのソファに座ったり、立ったままでお菓子に手を伸ばしたり、ポットでお茶をカップに注ぎ始めたりしました。
そして思い思いの会話が弾み始めました。
まるでベンジさんの周りに花園が咲いたようです。
自然と明るい雰囲気が生まれます。
ベンジさんはその雰囲気で満たされたリビングを見渡すと。
マルさんを、そしてゴーレムちゃん達を眺め、楽しげに一つうなずいたのでした。
ベンジさんの隣りに座ったマルさんは、カップに口をつけた後、彼に向かってこう言いました。
「ベンジ様は本当に
「うん、大好きだよ。いつも言っているように」
本当に彼女らが愛しいというふうに、ベンジさんはそう応えました。
そして彼女らを、宝物殿の宝を見るように愛おしく見渡しました。
ゴーレム(ちゃん)。
それは先程も話したように、もともとは土人形を魔法で動かしていたものが、魔法工学などの発達により、精密な魔法機械や生体部品などで構成された、人間そっくりな人工生命体、あるいはその意識を指します。
本来は人間型でも、人間そっくりでないものもゴーレムというのですが、今ではそれらも人間型でないゴーレムである「ロボッタ」とひとまとめにして呼称し、ゴーレムと区別して呼んでいます。
ゴーレム達にはゴーレム動作原則という原則があり、人間(主人)を守る事、人間(主人)の命令に服従する事、自分を守る事、安全(性)を守る事などが基本的な
ベンジさんは先のドラゴン戦のように外に出られない代わりにゴーレムちゃんを遠隔操作して職務や依頼をこなしたりするのですが、これらのゴーレムちゃんにもそれぞれ得意能力などがあり、ベンジさんはその任務に対応したゴーレムちゃんを操作することで任務や依頼を上手くこなすのです。
「
「ゴーレムちゃん達の古参は僕が生まれてすぐから仕えているし、長い付き合いだよ。彼女達がいなければ、僕は生きてなかったし、あの戦いを生き抜く事もできなかっただろうし」
「……」
ベンジさんの言葉を聞き、マルさんの顔が陰りました。
まるで知られてはいけない家族の秘密に触れるような顔で。
しばらくの間の後、ゆっくりと吐き出すように思いを口にします。
「それは知っておりますが。知っておりますが、ベンジ様はもっと自分を誇っても良いと思いますが。才能があるのだと思ってもいいと思いますが」
彼女は思いを述べた後、お菓子を口にしました。
ベンジさんはお茶を一口飲むと、
「僕に勇者の才能なんてないよ。ただ、ゴーレムちゃん達に助けてもらっているだけだ」
そう吐き捨てるように言葉を返しました。
まるで、それが自分の全てであるかのように。
彼の言葉はある意味事実でした。
ゴーレムちゃん達に、ベンジさんは支えられてきました。
文字通り生まれてからすぐに。
ベンジさんは普通の人間ではなく、受精卵状態から魔法で様々な操作や改造を受けて誕生した、勇者として戦うために生まれた人造人間でした。
しかし。
ベンジさんに勇者としての才能はなぜか発現しませんでした。
人並み外れた身体能力や魔力は持っているものの、ただそれだけでした。
彼固有の魔法や能力、才能は何一つなかったのです。
そして。
「自分は廃棄されるはずだったんだよ。あのままだと」
「その時にある魔道士が思いついた。ベンジ様の中に魔導コアと呼ばれる魔法のアイテムを埋め込み、それを人形達の魔導コア──それが人形達の頭脳であり心臓なのですが──と魔力的に連結させる事を」
「そう。そしてゴーレムちゃん達の能力や才能を、すべて僕が使えるようにした」
「それが<人形使いの大勇者>ベンジの真実、そういう事ですか」
ちなみに、この事は国家の最重要機密に指定されています。
他の勇者にさえ、秘密にされているのです。
「そういう事さ。僕は偽物の勇者なんだよ。他の勇者達と違って」
「……それでもベンジ様はあの大魔王大戦を生き抜き、大魔王ネズーを倒しましたが。それはまごう事なき事実ですが」
「偽物の、才能のない人間があがいた結果だけどね」
「才能、ですか。才能ってなんでしょうね?」
そう言ってマルさんはお菓子を口にして、柔らかく噛みました。
自分の問いを噛みしめるように。
それはベンジさんにではなく、自分に投げかけた問いにも聞こえました。
まるで才能がないのは自分の方であるかのように。
彼女はまた、大魔王、という言葉を自分の大切な何かのような発音で口にしました。
そして、自分はその大事なものを捨てたのだ、というような口調で。
その意図を知らずか、ベンジさんはもう一度お茶を口にすると、天井を見上げてつぶやきました。
その天井と自分のとの間に、答えが見えるような目つきで。
「……あいつら《他の勇者》やゴーレムちゃん達が持っているものだよ。魔法や技能や能力、そういったもの全てさ」
「……それはわたくしも同じですが。私もなにも持っていませんが」
「いや、違うよ。マル、お前には……」
ベンジさんがメイドの言葉に反論しかけたその時でした。
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