第30話
「ほーん……時枝にしてはまともな事言うじゃん」
提案はどうやらお気に召したようだった。
実際、その上から目線な言い方とは裏腹に彼女の頬は随分と桃色に染まっている。
まったく素直じゃない人だ。
嬉しくて仕方ないならそう言ってくれた方が余程接しやすいのだが。
ダブルデート案をすんなりと受け入れた
僕にもスマホを出すよう促す。
「LAIN。交換しとくよ」
それが当然であるかのように、断るという選択など存在しないかのように、
スマホを取り出し
別に
人生何が起こるかわからないものだ。
むしろ予想をはるかに超えていたと言える。マメだ。これほどとは思っていなかった。
利害関係が一致した僕達は一時的な同盟を結んだような形となった。
だから連絡が大事な要素ではあるのは確かだ。が、それを加味しても
『ごはん食べに行く件、
『今日、
『さっき
いつ何時でも送られてくるメッセージには、必ず『脇屋』という文字が入っている。
どれだけヒサシ君の事が好きなんだ……。
見かけによらず一途な人だということも良く分かった。わかったから、
とはもちろん言えなかった。
だってやっぱり怖いから。
しかも
休み時間中。一人でいる時。放課後。だけじゃない。授業中だろうが
構わずメッセージは送られてくる。
確かに一つ一つのメッセージ自体は短い。1行。大体15文字程度だ。
だが彼女の凄さはその頻度ではない。
メッセージが送られてきた直後に
これを見て僕は感じていた――同類だ。
誰にもバレることなくメッセージを送るにはスマホのブラインド操作が必要となる。
以前に
陰キャ道を長く歩んできた者。陽キャ道を貫く者。
道は違えど共通点を見出した僕は、無駄な闘争心がふつふつと湧いた。
一人でスマホに向かって時間を使いまくった日々は伊達ではないことを教えてやらねばならない。
授業中に来たメッセージだとしても、ポケットに忍ばせたスマホを一瞬だけ取り出し解読。すぐさまポケットの中で返信を打った。
スマホのブラインド操作。オーディオに次ぐ僕の特技だ。
そんな僕に、
『
感心しているような、はたまた呆れたような顔をしていた。
それを僕は誉め言葉として受け取る。
お返しとして『
だって僕と同類みたいなことを口にしたら、
「てめぇと一緒にすんじゃねぇ!」
罵倒と共に、また強烈なローキックが飛んできそうなんだもの。
だが、ヒサシ君を食事会に誘うのは少し気まずさがあった。というのも、ヒサシ君もユウヤ君が
ユウヤ君を差し置い
けれども下手に嘘をついてもすぐにバレる。
だから僕は、最初だけは
「ヒサシ君、今度ご飯でも食べに行かない?」
率直に聞いた。予想通りではあったがヒサシ君からは不審がる反応が返ってきた。
「……は? お前と? 二人で? なんで?」
「えっと、二人じゃないんだ……。実は
「は、はぁっ!?
「う、うん。そう、その
「嘘だろ……お前らそんな話する仲なのか……? なんか気味悪いんだけど……まさか……。お前、
「あ、いやぁ……そういう事はないよ……。ああ見えて結構優しいっていうか……気さくな人っていうか……」
「ああ……まあ……見た目よりは話しやすいところあるけど。でも、お前と
「だ、だよねぇ……」
痛いところを突かれてつい本音が出てしまった。
ヒサシ君も疑いの表情を崩さない。
そりゃそうだ。校内トップを争うほどの派手ギャル
このまま押し通せるか心配だったが、
「ま、別に飯くらい良いけどよ……いつよ?」
「ほんと!? まだ日程決まってないんだけど。夕飯の予定。夜は大丈夫?」
「ああ、俺はそのほうが都合いいわ」
よかった……。ほっと胸をなでおろす。これで一つミッションクリア。
その旨を
『わかった』
そっけない一言だけ。
強がっちゃって……。ほんとは嬉しいくせに。
ヒサシ君を好きなこと、僕はもう知ってるんだから。素直になればいいのに。とメッセージをみて苦笑が漏れる。
これで残るは
そして僕にとって大事なことは、
彼女の予定を探って貰うことも含まれる。
『
『聞いた。今週の水曜の夜。ちょっと用事あるらしい』
『じゃあ水曜は無理ってことかな』
『別にその日でも良いって言ってる。用事そんなに長くならないみたい』
一週間以内に
ミライはそう言っていた。
このメッセージを見たとき、それが現実味を帯びてきた。
だから僕は、
『実は僕、水曜が都合いいんだけど』
あえてその日を選ぶ。
◇
水曜の朝。家を出る直前。夜は友達とご飯を食べるとお母さんに伝えた。
すると今日は小言が返ってきた。
何時帰ってくるんだ。友達って誰だ。高校生が夜に出歩くなんて。
どうやら今日は機嫌が悪いようだ。
でも僕も譲らない。どんなに責められようとも、後でこっぴどく怒られようとも、行くことだけは決めていた。
「とにかく夜ご飯はいらないから」
そういって家を飛び出した。ドアが閉まると母から届くきんきんした声が聞こえなくなった。やっと静かになった。
その日の気分によって態度が変わる母。
忙しさや疲労が溜まっていることもあるのかもしれないが、さすがにうんざりしてしまう時がある。
こういうストレスも僕の知らない男の人に癒して貰っていたりするのだろうか。
甘える母の姿を想像しそうになって、頭を振ってかき消した。学校に向かう。
学生である僕らはあまりお金がない。妥当な落とし所というヤツだ。
ただ僕はお店に直接行くつもりはなかった。
昨夜、勇気を振り絞って
『明日の食事会。よかったらお店まで一緒に行かない?』
お店の方向的に、
だが
『お店行く前に少し用事あるんだ。ギリギリになりそうだから、ごめん。先行って!』
案の定だ。ゲームキャラをデフォルメした可愛いらしいキャラのスタンプを添えて、メッセージが返ってきた。
僕は用意していた通り、返事を送る。
『
用意していたとはいえ、このメッセージを送った後、自分の書いた文章を見直してかなりドキドキとした。
『どうしても話したい』
なんだか告白でもするみたいじゃないか。
もちろん実際は告白するつもりなんていないし、正直怖くて、そんなことできるわけない。
どころか話したい事があるというのも嘘だ。
自分でも随分と大胆なことを言ったものだと思ったけれど。
もし
『話したい事? なんだろ? 気になっちゃうじゃん!』
『それは会った時のお楽しみです!』
『えーっ、ずるい! じゃあ……』
とメッセージを送ってきた
待ち合わせ場所は、食事会のファミレスから徒歩15分という距離にある公園前のコンビニ。確かに待ち合わせにギリギリという時刻だった。
真面目な彼女らしく、食事会に遅刻をしないよう『用事』とやらが済んだらすぐに行くとメッセージの最後に添えてあった。
何度かは行ったことがある公園。
芝生が綺麗に整備された、静かでくつろげる雰囲気がある。
ただ夜になると人通りが少ないことでも知られていた。
故に闇に紛れて恋人達がいちゃいちゃしているという噂も尽きないが、変質者に気をつけろ!という張り紙もされていたはずだ。
とにかく人通りがあまり多くない場所に
だから僕は『保険』を掛けておくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます