◎第22話・一騎討ち

◎第22話・一騎討ち


 離脱の途上。薄暮の水平線の残光が照り、わずかな首脳陣と智者シグルドは、潮風を浴びつつ断崖を渡る。

 が、やはり何もないわけがなかった。

「そこの祭司ども、継承会議の面々と見えます」

 立ちふさがったのは、確か総領たる貴樹の腹心、フィーネ。

「総領軍か! 相手をしている暇はない、突っ切る!」

「逃がしはしません!」

 シグルドが雑兵たちを切り払いつつ、フィーネに猛然と襲い掛かる。

 その隙を突いて、議長を含む一団は離脱する。

「くっ、後詰めはしっかりと!」

「議長、ご無事で!」

 シグルドの剣と、フィーネの鋼鉄の杖がぶつかり合う。

 杖といっても、儀式用でも、魔法使いを気取るためでもない。一目では儀式用の装飾を施したものに見えるが、その実、敵を殴り倒すことに特化した立派な鈍器である。

「なんと粗暴な得物だ、本当に《兵法家》か?」

「《武芸者》でもありますからね。いずれにしてもここで打ち殺しますから、心配はするだけ無駄です」

「奇遇だな、私も《武芸者》だ。死ぬわけにはいかない!」

 剣士と杖使い。祭司と兵法家。秩序の策士と撃砕の謀臣。

 あらゆる対立点を持った二人は、互いを打ち倒すべく何合も打ち合う。

 武器は削れ、地面は砂煙と石が飛び、潮の空気には戦意の暴風。

 フィーネ側の兵士すら、立ち入ることさえ許されない、高度な武芸の応酬。

「ずいぶんやるな……」

「ここで時間をかけるわけにもいきません、一気に叩き割る!」

「させるか!」

 そのとき、さらに追っ手が救援で来た。

「フィーネ!」

「総領!」

 察したのだろう、貴樹は素早く随行兵に指示してシグルドの逃げ道をふさいだ。

「さあ、観念しろ祭司。もう活路などない」

「いや、ある」

「どこにだ?」

 待つまでもなく、彼はまっしぐらに飛び込んだ。

 崖の下の水流へ。

「待て!」

 しかし、さすがに対応は遅かった。

 活路は前後だけであると思い込んだ、愚かな《兵法家》たちを尻目に、シグルドはまっしぐらに水へ落ちてゆく。

 彼は、もはや日の沈み闇の下りかかった海へと、消え去った。


 翌日、貴樹らは「大願の講堂」に入り、これを占領、継承会議の支配権の消滅を確認した。

 だが肝心なことは、すぐには成就しないらしい。

「議長、首脳陣、そして随行の……シグルドというのか、に逃げられたんだな」

「ええ。真の悲願はその全滅なくしては達成できません」

 フィーネは無念を口にする。

 サファイアも述べる。

「シグルド、どうやら女王マイラに工作を仕掛けようとした人物のようですわね」

「それだけではない。この戦で継承会議が採った策のほとんどは、彼の発案らしい」

「それで《兵法家》ではないというのですから、驚きましたわ」

「まあ、負ける程度の兵法だからな。それより」

 貴樹は告げる。

「総領同盟のこれからとか、天領の処遇などについて、戦後会議を開きたい。同盟各国の君主を呼んでほしい」

「かしこまりました」

「面倒だが、これをなあなあにすると後で困るからな。やむをえない」

 宿願は宿願として、まずは目の前のことをこなさなければならない。

 あと一歩だった、と悔やむ暇は、どこにもないし、過去はもはや変わらない。

 所与の現状を前提として、常に前へ歩く。

 それが、《兵法家》――に限らず、万人の宿命だから。



★★★★

 ここまでが公募に出した原稿になります。

 今回、カクヨムに投稿するにあたり特別編を追加しました。まだあと少し続きますので、お付き合いいただければ幸いです。

 良かったな、とお思いの方がいらっしゃいましたら、星評価、レビュー、ブックマーク等いただけると励みになります。

★★★★

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