第3話 実の話とご飯

「何買う?ウチ肉がいい!」

「鶏肉、タンパク質です。」

「じゃあ今日は鶏肉を使った料理にしましょうか」

みなさんがスーパーのカートを連れて歩いている。

お腹空かないな...そりゃ、あんなことがあったんだもん。空かないよね。

「暗い顔してどうしました?」

艶美さんに声をかけられる。

大丈夫ですと返すとそうですかと言われ、ふふっと微笑まれた。

「香さんは全く気にならないのね。」

なんのことだろう。

「私のこと、変だと思わないのかしら。」

全くわからない。何の話?

「周りの人がじろじろ見てるでしょう。」

確かに、周りの人がちらちらこちらを見ている。

「ロリータ服着てるけど、私男なのよ。」

「?それで、なんでみんなこちらをみてるんですか?」

私がそう言うと、艶美さんは目を丸くした。

「香さんって、少しずれてるわね。でもそこがいいわ。気に入っちゃった。」

艶美さんはそう言うと私を連れてスタスタとお菓子売場へ向かった。そして、この中から好きなものを買っていいよと、小さな子供に言うように優しく言った。

私は17歳だし、お菓子で喜ぶような歳では無いが、少し嬉しかった。


家に帰るとさっそくご飯作りを始めた。強山さんがテキパキと作業を進める。

こんな風に誰かにご飯を作ってもらうのっていつぶりだろう。お母さんが生きてたとき以来だな。やば、涙出そう。

「ご飯できました。」

早い!え、美味しそう!鶏肉のステーキだ!

みんなで、いただきますと言う。こんなに食べるのは久しぶりだ。お腹が空いていなかったはずなのに、モグモグ食べ進めてしまう。

「うわっ、にんじん入ってる~。ウチ苦手なのに~。蜜、あげる~。」

「好き嫌いする子供は大きくなれません。」

「ウチ子供じゃないしー。二十歳だしー。」

「ほらジョセフィン、私のところに入れなさい。」

なんだかほっとする。今日会ったばかりなのに。なんでだろう。

自然と涙が出てきた。お母さんを思い出したからだろうか。ご飯が美味しいからだろうか。あたたかい空間に心がほぐれたからだろうか。

ムーアさんが抱き締めてくれた。

「いい子、いい子。」

撫でてくれる。心があたたかくなった。

「ねえ香ちゃん、ウチラと一緒に愛情配布団体として活動しない?困ってる人を助けるの。ウチラとやろうよ。」

「ちょっとジョセフィン、まだ早いんじゃないですか?鍛えなければ、愛情配布団体として働けませんよ。それにこの子は高校生です。」

え?私が愛情配布団体として働く?弱い私が?

でも、でも、

「私、愛情配布団体として働きたいです。高校もやめます。困ってる人をみなさんと一緒に助けたい。」

艶美さんは少し驚いたような顔をした。

ムーアさんは嬉しそうだ。

強山さんは鶏肉をモグモグしながらこちらをじーっと見ている。

「じゃあ、明日から愛情配布団体として働いてもらうってことで、上司に話してくるわ!」

「今からですか?もう19時ですよ。」

「いいのいいの!」

明日から愛情配布団体として働くことになった。

厳しいだろうな怖いだろうな。でも私みたいな人を助けたい。

「香ちゃん、明日からよろしくね!」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」












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