第2話 体を突き動かすものは
音楽室のベランダで夕暮れを見ながら歌う。
「お見送りらしきもの」の歌ではなく、ラブソングを歌う、『彼』を想って。 私が好きなラブソングだった。
『彼』はもう旅立ったようだ。
試験に合格した者たちは綺麗な和装で着飾り、顔を笠で隠して夜になるまで踊り、奏で、歌い続ける。
ベランダで1人歌う私の隣には友人がいた。
頭の上のお団子から所々解けた橙色の髪が、夕日に照らされてより鮮やかに煌めく。
とても美しい子だった、一人の私を優しい目でずっと私を見守ってくれていた。
「まだ間に合うんじゃない?」
『彼』と最後まで顔を合わさず、言葉も交わさずに離れてしまう私を心配して出た、ただの慰めの言葉だった。
だけど、それが私の背中を押した。
4階にある音楽室を飛び出し、階段を何段も飛び越え、遠心力で最小カーブを曲がる。
転がろうともぶつかろうとも、腕が擦りむけようとも関係なく走り続けた。
玄関に先生たちがいた。構わず間を走り抜ける。
「お見送り」をする者以外は外へ出てはならない決まりがあった、そんなの知るものか。
後ろから声が聞こえたが構わず走る。
学校の外に出ると右手は校庭、左手は神社、その間には長い下り道が続く。 どこもかしこも「お見送りらしきもの」の祭りで賑わっていた。 人をかいくぐり坂道を走って下っていく。
左でワッと声が上がったのを耳にして目だけを左にやると、隙間からではあるが試験に受かった子達の姿が見えた。
彼ら彼女らの衣装を着てあの中に居たら、と一瞬思い描くが、今はそんな事は関係ない。
足をとめずにただ走っていく。
まだ『彼』のいる一行は見えてこない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます