幸福なラブソング

Chan茶菓

第1話 試験

     『幸福なラブソング』



 夢の話だ。


 それは、音楽室らしい教室の前から始まる。

 私は学生で、そこには私の友人や、私を疎ましく思う人たちも居たが、その時は誰もが皆、己自身の未来の事だけでいっぱいだった。


 どうやらその日は、「お見送りらしきもの」をする者を選ぶための試験らしい。

「お見送りらしきもの」は旅立つ人達の安全を願ってのものらしい。


『彼』が今度、旅立つことが決まった。


 その試験会場である音楽室の前で並んでいる私も当然、自分の未来を思い描いて興奮が収まらなかった。


 私は歌にはとても自信があったようだ。

 自分の才を、今まで疎ましそうに虐げていた大人や歳の近い人達に披露すれば、『彼』を見送る事も出来るし、皆に少しは認めてもらえるかもしれない。

 そんな期待が順番を待てば待つほど、どんどん膨らんで行った。


 こっそり教室の扉を少し開け、試験の様子をそこから覗き見る。


 博識であるのに、何故かとても音痴な歌を披露する男の子。


 可憐で誰からも人気のある愛らしい少女が、地面に正座をして習字を書き始める。


 いつも着飾っていたカチューシャをつけた女の子は、袴姿で袖をまくり背丈が変わらない大きな筆で墨を走らせ、床に漢字を書きなぐる。

 変わった芸を披露しようとする者も居れば、周りをあっと言わせるほどの素晴らしい芸を見せる者もいた。


 そうして試験を覗きながら待っていた私の順番は来ず、忘れ去られて夕方には試験が終わった。





 試験官も皆も私には気付いていたのに。




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