第26話 行動目的

 急な事により、俺は今何をされているのかが分からなかった。

 しかし、口の中に奈菜美と初めてキスをした時のような感触の物が口の中に入って来て、俺は今キスをされていると認識することが出来た。

 

 幸い、歯を閉じていたため何とか舌の侵入は防げた。

 だが、相手は妹の晴。

 そんな貧弱なガードはすぐに破壊される事になる。

 

 晴は俺の唇をこねくり回したあと、俺の両肩から手を離し、顎の下に手を持ってきた。

 そして俺の顎下を器用にくすぐる。

 妹からしたら兄の弱い部分なんて一発で分かってしまう。

 そう、俺の弱点は顎下を高速でくすぐられる事。

 歯でガードしていた部分も突破され、俺の口内に晴の舌が侵入する。

 

 もちろん、ここで歯を閉じてしまえば晴が怪我をするだろうが無理矢理キスを終了させることは可能だ。

 可能なんだ。

 だが、兄の俺が妹を傷つけるなんて出来るわけがない。

 もしかしたら晴はこれを狙っていたのかもしれない。


 晴の舌が俺の舌を絡め取り、そして俺の舌は晴の舌によって器用に遊ばれる。

 舐め回されるたび浮気をしているという事を実感させられ、罪悪感から『奈菜美、ごめん』と心の中で謝り続けた。


 「あれ、何で泣いてるの? お兄ちゃん」


 口内から下が引き抜かれ、嫌な感触が泣くなった。

 恐怖から瞑っていた目を開けてみると、ニヤッと嫌な笑みを浮かべた晴に煽られる。


 「なんで、なんでこんな事したんだよ……」


 口と目を拭い、そして俺は晴を睨めつけながら上半身を起こす。


 「だから、お兄ちゃんが好きだからに決まってんじゃん? ほらもう一回してあげよっか? 口貸して」


 晴は俺を押し戻し、もう一回唇を奪う。

 だが、流石に俺もバカじゃない。

 俺は晴の弱点である横腹をくすぐり、すぐに口から晴の唇を離した。


 「わぁお」と言いながら晴は俺の腹部から離れ、そして俺の拘束も解いた。 

 

 「お兄ちゃんはこれからどうするの?」


 またまたニヤッと嫌な笑みを浮かべながら聞いてくる晴。

 俺はそんな晴を嫌悪するように睨みそして怒鳴りもせずに「帰る」とだけ呟き、晴の部屋から出た。

 

 いつもならば「もう帰っちゃうのー?」とか言って追いかけて来る晴だが、今日は追いかけてくることはなく、そのまま家を出た。

 

 この先どうしようか、とりあえず奈菜美のマンションに帰って奈菜美が居たらこの事を言おう。

 晴に脅されたが、晴も流石に晒すまではしないだろう。

 いや、しないと信じるしかない。

 俺は走りながら急いで最寄り駅に向かった。


 ~~~


 「私の演技、上手かったし、これでお兄ちゃんは私の事を嫌いになったかな」


 部屋の中、ベッドの上で体育座りをして、顔を埋めながらそう言い放つ。

 今日私は、お兄ちゃんに嫌われるためにこの部屋に呼び出してキスをした。

 お兄ちゃんに嫌われたかった理由、それはお兄ちゃんが優しすぎるから。


 この前私はお兄ちゃんと友達の坂本奈菜美がデートをしている所を見た。

 その時私は、酷く罪悪感を感じた。

 裏で私は妹だからという理由で友達の彼氏であるお兄ちゃんにベタベタして血の繋がった兄なのに、人として好きになっていた。

 

 だがそれが、どうしても私の中で許せなかった、いや許せないという感情に変化してきていた。

 どうして私は兄の行為に甘えてしまうのだろうか。

 どうして私は兄に依存してしまっているのか。

 どうして私は兄の事を好きになってしまったのか。

 考えても分からない、でもそれが許せない。


 好きになった高校生の頃はこんな風に自分が許せないなんて思った事、一度も無かったのに。

 それに兄から奈菜美と付き合うと言われた時も『許せない』という感情ではなく『我慢しよう』という感情だった。

 でもそれが、次第に私の心を苦しめた。


 ベッドから立ち上がり、私はベランダに出た。

 少ししか吹かないそよ風程度の風、でもそれがなぜか心地よく体が涼しく感じる。

 耳までしかない髪が、ほどよくなびき何だかさっきあった事が忘れられそうな気がする。

 でも、私のした行動は兄にはしっかりと脳裏にまで焼き付いているだろう。


 彼女が居る身なのに、妹とキスをして浮気をした。

 きっと罪悪感からどうにかなってしまいそうだろう。

 でも、それで良い。

 それほど私の事を嫌って嫌悪して拒絶してほしい。

 

 そうしたらきっと兄は私に優しくしないだろうし、私も兄に依存しなくなって新しい出会いを求める始めるかもしれない。

 昨日思いついたことなのに、その次の日に行動を起こしてしまうとは我ながらあっぱれだ。

 奈菜美には一度だけでも、彼氏を奪ってしまったことについて申し訳なく思っている。

 でもそれは、私の為でもありあなたの為でもある。


 それを理解してくれれば、もう私は兄にもあなたの関係にも干渉しない。

 

 って口では何とでも言えるけど、実際はどうなんだろうな。

 

 「ははっ、何かおもしろ」


 私は手すりに手を当て、遠く見える東京の住宅街を見渡しながら乾いた笑いをした。 

 今でもキスをするのは間違いだったかもしれないと酷く後悔している反面、でもやっぱりこうでもしないといけなかったのかと思う気持ちがある。

 これから、兄には厳しく拒絶してもらわなければ。

 もう依存したくない、もうあなたから離れたい。

 その一心で私はスマホを取り出し、言葉を書き記していく。

 

 『さようなら私の恋心、そしてありがとう、あなたの良心は私をここまで育ててくれた。』

 『でも、私が壊れそうな時は手を貸してほしい。』


 少しして私は意味の分からない文面を作り、そして兄である池端真崎のLIMUにこの文面を送信した。

 ははっ、本当にこれで良かったんだろうな。

 これから私はあの人とも、ナンパするゴミ共とも一人で戦っていくんだ。


 涙が溢れそうな所をグッとこらえて、私はベランダから部屋の中に戻り窓を閉めた。




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どうも優乃です、メンヘラは私もあんまり好きじゃないです。

まあ、前話だけを見たらただのヤバい奴だと思いますよね。

正直つなげたかったんですが、文章量的に6000字とかになっちゃいそうだったので分けさせていただきました。

あと最後の文面の部分の句点ですが、あえて入れてます。

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