第15話 起床
良い目覚め……とは行かないか。
下を見てみると畳、チクチクした部分が服と肌に刺さっていた。
そして、一畳ほど床が木の板の部分がある。
そっちの方を見てみるとシングルベッドで気持ちの良さそうに寝ている晴の姿があった。
「おはようございまーす、晴さーん」
「はうっ、おはようございまーす……」
眠たそうに体を起こしながらあくびをする晴。
そんな晴を横目に見ながら、俺はキッチンに立っていた。
キッチンと言ってもまな板しか置けないような小さなスペースとコンロ二つ。
俺は冷蔵庫から卵とベーコンを取り出した。
フライパンを取り出しコンロに設置する。
今日は目玉焼きとベーコンを軽く焼いてそれを食パンで挟んだ、ベーコン目玉焼きバーガー。
俺の家には、ホットサンドメーカーとかいう洒落た最新器具は存在しない。
全部単品で焼いていって、最終的にパンで挟み込みバーガーにする。
その過程を楽しむのがバーガー作りではないかと俺は思う。
少し熱したフライパンに少量の油を敷き、その上にベーコンと卵を入れる。
「ジュワジュワ」とベーコンの焼ける音と卵の白身が固まっていく音がまだ少し眠気のある俺の脳内を癒す。
やがてベーコンには少し焼き目が付き、卵は黄身が半熟になったので両方フライパンから皿に移した。
焼いている間にトースターに入れておいた食パンが二枚焼けた状態で出てきた。
パンの耳がこんがりと焼けていて、耳はカリカリになっている。
「我ながら今日も上出来だ」
食パンは焼けたてということもあってかかなり厚い。
耳の方をつまんで持ち、皿に移して一枚を下敷きにする。
その上にベーコン、目玉焼きという順番で置き、上にもう一枚食パンを重ねた。
「晴~、出来たぞー」
「ふあぁ、ありがとうお兄ちゃん」
また大きなあくびをした晴がベッドから降りて来て、ちゃぶ台の前に座った。
俺はベーコン目玉焼きバーガーが盛られた皿を持って行き、晴の前に置いた。
しっかりと手を合わせて「いただきます」と言った後に、バーガーを食べ始める晴。
小さな口を目一杯開いてバーガーを食べる晴に小動物らしい可愛さを感じた。
「ん? どうしたのお兄ちゃん」
じーっと見ていたせいか不思議そうに晴が聞いて来た。
「いや、今日も晴は可愛いなって」
「えへへ、嬉しい」
顔立ちや髪の長さからボーイッシュと呼ばれるものに近いと思うが、やはり嬉しそうに笑った晴はとても可愛い。
横顔は凄くカッコいいと思うが、やはり正面から見ると可愛さが勝ってしまう。
俺の顔はそんなに良くないのに、妹の晴がこんなにも可愛いと少し引け目を感じてしまう。
俺はキッチンに戻りトーストに食パンを入れた後、さっきと同じ工程でベーコン目玉焼きバーガーを作り始めた。
~~~
晴が大学に通学したのを見送り、俺は今、六本木ヒルズ森タワーに来ている。
今日は坂本代表に答えを伝えに来た。
昨日晴と話し合い、給料を上げてもらう事になったが、やっぱり悪い気がして給料アップは無しで奈菜美と付き合うという風に伝えようと思った。
だが、その旨を晴に伝えたところ「昨日の話と違うよね? 私は給料アップして少しでもゆとりが出来ると思ったから許可したんだよ? 給料アップしないんだったら、奈菜美と付き合う事は許さない」と鬼の形相で言われたので申し訳ないが給料はアップしてもらうことにした。
「あ、どうもこんにちは。今はおはようございますでしょうか?」
「ふふっ、おはようございますかしらね? そんなにかしこまらなくてよいのよ?」
エントランスに行くと坂本代表自ら待っていてくれた。
どうやらこの六本木ヒルズ森タワー、観光は無料だが一部の会社や企業に行くにはセキュリティゲートを通らなければならず、このゲートを通るためにはICカードが必要との事。
俺はまだICカードを所持していないので、今回は失礼に値するが迎えに来てもらったと言う訳だ。
「案外早く答えがまとまったのね」
「はい、昨日妹と、そして奈菜美さんとお話しまして……」
坂本代表は「あら、そうなの?」と陽気に話しながらエレベーターに乗り込む。
「はい、どうやら俺の妹と奈菜美さんがお友達だったみたいで……」
「あら、意外だわ。あの子の変装がバレていないと良いのだけど……」
俺は背筋が凍る思いをした。
ちょうど昨日、奈菜美の正体を晴にしてしまったばかり。
ここで晴に奈菜美の正体をバラしてしまった事を正直に言うべきか。
でも、俺は晴を信頼して奈菜美の正体を明かしたんだし、そもそも奈菜美と関わっていく中で必ず晴に奈菜美の正体はいつかはバレる。
それを考慮して言ったと言い訳するか……
「あの、坂本代表」
「あら、どうしたの?」
「実はですね……妹に奈菜美さんの正体を明かしてしまったのですが……」
坂本代表は別に固まる事は無くすぐに「あら、それがどうしたの?」と意外な反応をした。
「えっ……」
「あなたの妹さんなんでしょ? だったらもしかしたら私と会う機会だってあるかもしれないし、あなたのお家族なら全然安心よ」
自分の子供の特別な情報を一般人が勝手に流した。
普通はだったらそんな話を聞くだけで取り乱してしまったり、俺を叱責したりすると思うのだが、この人からは余裕が見られる。
「まあ、そんなに硬くならずにカジュアルにいきましょ?」
そう言いながら社長室に向かっているのか前回来た時と同じ道を進んでいる。
廊下で色んな社員さんらしき人とすれ違ったが、みんな愛想良く坂本代表と挨拶をしていて見ているこちらも良い会社なんだと思えた。
ほどなくして社長室前に着いた。
坂本代表が社長室の扉を開け、代表が中に入る。
俺は緊張から固唾を飲み込み、小さく震えながら代表の背中を追った。
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