第14話 私のお兄ちゃん

 「ほんと、お兄ちゃんのバカ」


 私は一人、お風呂場でそう呟いた。

 私の名前は池端晴、お兄ちゃんの事が大好きすぎるただの大学生。

 自分でもブラコン気質なのは分かってる、でもお兄ちゃんと話していると楽しいし幸せを感じられる。

 

 私のお兄ちゃんは女っ気が無くて身だしなみもそんなに気にしないただの学業人間。

 ずっとお父さんに「勉強だけしろ」って言われて育った頭だけが取り柄の人間。

 私はそんなお兄ちゃんを見て「親の操り人形になりたくない」って思った。

 だからお父さんに言われていた大学にも行かなかったし、テストでもお父さんが望んだ点数をわざと取らなかったりした。

 お父さんに反抗する度怒られたけど、いっつもお兄ちゃんが慰めてくれたから全然良かった。


 あーもう、何かやだ。

 ちょっと鬱になったかも。

 キモイ下心丸見えの男どもにサークルに勧誘されるし。

 帰り道に大学の先輩にナンパされるし。

 今日はほんと最悪。


 友達の秘密も聞いちゃったし。

 別に晒すとかはしないけど、お兄ちゃんを奪った奴がまさか友達だったとは思わなかったな。

 奪ったは言い方が悪いか、お兄ちゃんの良さに気づいた人にしとこ。


 立てかけられたシャワーヘッドを握り、蛇口を捻ってお湯を出す。

 

 「冷たっ」


 シャワーホースの中に残った冷水が私のお腹の辺りにかかった。

 冷水がかかった直後に暖かいお湯が冷えた体を温める。

 衝撃的な事がありすぎて、全身が冷え切っていたがやはりお湯はあったかい。


 髪を濡らしてシャンプーをつける。

 痒い部分などを掻いたりしてシャンプーが髪の毛に均等に馴染んだら、今度は体を洗う。

 強引に触られた手首、服越しだったとしても気持ち悪いだけで済むが、今日は少し短いカーディガンだったため手首を触られた。


 触られた部分を入念に洗い、頭からお湯を流していく。

 シャンプー、ボディーソープを洗い流し、最後にコンディショナーで頭を再度洗って私はお風呂場から出た。


 シャカシャカと歯を磨く音が聞こえる。


 「あ、お兄ちゃん」


 お風呂場から出るとそこには洗面所で歯を磨くお兄ちゃんが居た。


 「あ、ごめん。すぐ終わるから」


 口元に泡を付けた可愛いお兄ちゃんがそう言った。

 別に裸を見られるのはお兄ちゃんだったら何回でもあるから抵抗は無いし、こんなのお兄ちゃんの家に来たらよくある事だ。


 「別に良いよ、もうなれてるから。それに、お兄ちゃんだしー?」

 「ちょ、抱き着くな!」

 「にへへー」


 やっぱこんな事しても兄妹の壁は乗り越えられないし、そもそも私とお兄ちゃんが結婚することは出来ない。

 付き合う事ですら倫理に反してしまうからそんな事は絶対に出来ない。

 でも、兄妹だからこそこうやって裸で抱き着いても許してくれるし気軽にベタベタ出来る。

 だから今は、この立ち位置で我慢するんだ。

 

 「もう、風邪ひくぞ? 服着ろ」

 「はーい。あ、でも今日はお兄ちゃんの服着たい気分だから勝手に着るねー!」

 「ちょ、それ明日……はいはい、勝手に着てどうぞ」

 「ふふっ、お兄ちゃん好きー」


 いつもは私からお兄ちゃんの家に行くのに、今日は呼んでもらえてうれしかった。

 呼ばれた内容は気に食わなかったけど。

 でもお兄ちゃんは、奈菜美と付き合う事になると思うから家に呼んでもらえる事は減っちゃうのかな。

 そう思うとやっぱり悲しいな。


 「ほら、ちょうど乾いたやつだ」

 

 お兄ちゃんがハンガーにかけられた私には少し大きい緑のTシャツを投げた。

 投げられたTシャツを受け取り、私は顔を埋めてすぅーっと大きく息を吸った。

 お兄ちゃんの使っているラベンダーの芳香剤の香りとちょっとだけ残るお兄ちゃんの男性の香りが鼻を刺激した。 

 

 「おいおい、お前は変態かよ」


 笑いながら私の頭をポンポンと軽く叩くお兄ちゃん。

 私よりも一回りも大きい手が、私の頭にフィットする。

 叩かれた衝撃は全くなく、このまま撫でて欲しいという欲が出た。


 「変態だから頭撫でて!」


 私はまた抑えられなくてお兄ちゃんに抱き着いた。

 ほんと、私はお兄ちゃんが居ないとダメダメな人間なんだなぁと身に実感した。


 「はいはい、よしよし良い子だね~」


 そう言って甘い声をだしながら頭を撫でてくれるお兄ちゃんに今日も沼りながら、私の一日は終わった。

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