第41話 アツアツのお茶ですわ!!! 冷えたら冷えたで美味しいですわ!
一流というのは何をするにも一流なようで、彼女は綺麗な鶯色をした緑茶を急須から入れて座っている僕に差しだす。
和室の窓から見える景色は、どこか見覚えがあった。修学旅行で一度見た庭園だろうか? 涼しい夏に風が薫る場所。木漏れ日に風が吹きぬけていく、この不思議な家にそんな印象を持った。
「啓さん、この景色好きですか?」
「僕は結構好きですよ、春なのに気持ちのいい夏を感じられるみたいで、こういう場所に造詣が深いわけじゃないけど、なんかいいなって」
「それは良かったですわ! 啓さんと気持ちが共有できてるみたいで嬉しいですの」
照れながら言われるせいで、こちらも何だか背中の辺りがむずがゆくなってしまう。顔を擦り、感じられる熱を冷ました。
やっぱり、僕は彼女の事を全く知らなかったみたいだ。出会って間もないから当たり前と言えば当たり前なんだが、僕は本当に何も彼女の事を知らない。
なぜ僕の家に来たのかも……。
今はとてもいい雰囲気だ。今このまま楽しくお茶を飲んで、凉坂さんと美月と一緒に家に帰る。そして僕の新しい生活が始まる。
――きっと楽しい生活が
でもそれじゃ同じことの繰り返しだ、なあなあで片づけて、はぐらかされた言葉を聞いて納得する。それはそれは楽しいだろう。
何も知らずに少しの不安と共にきっと楽しい生活を過ごす。そんな妄想を一瞬する。魅力的で、太陽のように明るいそんな自分自身の提案に目がくらんだ。
僕はまた逃げるのか? それでもこのままじゃダメだ。
彼女は最初から親のように無償の愛を注いでくる。やっぱりこの関係は可笑しい。
だったら、ゆっくり話せそうな今しかない。
「ねぇ、凉坂さん。そろそろ教えてくれないか?」
「何をですの?」
「君がなんで僕の家に来たのか、凉坂さんは『思い出させる』って言ってたけど僕は多分一生思い出せない。だからそろそろ教えてくれないかな」
変な質問をしているわけじゃないのに緊張で声が震えた。
「そうですの、少しだけ寂しいですわ……。でも仕方ないですわね」
「ごめん」
彼女の表情を見ていると謝らずにはいられなかった、本当に悪い事をしている気分になる。聞く選択をした自分はやっぱり間違えだったのかな。
「啓さんは私の事本当に思い出せないんですの?」
最後の確認をしてくる、頭の中の引き出しをゆっくりと一つ一つ丁寧に探り始める。どれだけ考えても彼女が望んでいる事は一切思い出せない。
凉坂さんや美月の言動を思い出しても、手掛かりになりそうな物はあっても、最後の点が結びつかない。きっと彼女を傷つける。それでもここはしっかり聞かなきゃ。
冷めかけのお茶を一気に飲み干して僕は言葉を吐いた。
「うん、だから教えて欲しい」
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