第36話 蛇? いいえ、天使ですわ!
夕食が終わり、やたらふかふかなソファーでくつろぎを始める。洗い物くらいすると申し出たのだが、メイドに「啓様がこの最新の食洗器より綺麗かつ安価に食器を洗えるとでも?」と説教をされてしまった。
そのためお言葉に甘えてソファーで休ませてもらっている。
とはいえ他人と一緒に居るとあまり気は休まらない。でも、食べてすぐに自室に戻るなんて流石にご飯を作ってくれたりコミュニケーションをしようとしてくれている美月と凉坂さんに申し訳長さ過ぎる。
だから、この5人は余裕で座れるL字型のソファーに凉坂さんと距離を取って、僕はこうして座り、こうやって何か会話を考えていた。
ピロリンと無機質な電子音が鳴った。
「あの、啓さん何か携帯なっていますよ?」
沈黙を崩したのは僕でも凉坂さんでもなく、小型の板に詰められた文明の利器だった。
凉坂さんに軽く会釈をしてスマホをポケットから取り出す。基本的に通知は全て切っているので、電話が来ていることが画面を見る前から分かる。
誰からだろう?
スリープモードの画面をタッチして点灯させると、そこには「asato」という名前がスマホに浮かび上がった。
画面をスライドさせて着信の拒否を行う。たぶん昼間のとち狂った僕を見て朝人が心配になり連絡をしてきたんだろう。
でも、ここで電話に出るわけには行かない。凉坂さんの前では全く知らない他人として過ごしたほうが都合がいい。
「啓さんでなくていいのですか?」
そんな様子を見た凉坂さんが、少しスマホを覗き込むように質問してくる、咄嗟にスマホを自分の体の方に引き込みながら、僕は「うん、まあ大丈夫」と答えた。
「本当ですの? わたくしに遠慮せずに通話して貰って大丈夫ですわ」
なぜかやたらと電話をさせたがってくる、その優しさが少し心苦しい、ここは軽く冗談でも行って空気を和ませよう。
「大丈夫大丈夫、元カノからだから大丈夫」
詰まらない冗談だと分かりやすいように、やたらと声を高くして凉坂さんにそう伝える。もちろん実際はただの男友達で、なんなら元カノなんてものはいない。
「元カノ?ですか?」
冗談だと認識していないかのように、怖く暗めの質問をされてしまう。
これは冗談だと分かってあえて乗ってくれているのか? それともギャグが詰まらなさ過ぎて本気だと思っているのか?
「あ、いや、その」
「元カノ、いたんですの?」
凉坂さんの顔が困惑した表情から、笑顔に変わった、たださわやかな笑顔ではなくねちねちと何か心に絡みついてくるような顔だった。
「元カノ、いたんですか?」
最後の宣告かのように、三回目の質問が飛んでくる。
「面白いと思って、適当に言いました。よく考えたら何も面白くありませんでした」
僕は耐え切れずに誠意を込めて言葉をした。その言葉を言った瞬間、彼女の蛇のような顔が天使に戻ったのを確認できた。
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