第31話 弾ける! 料理ですわ!
「啓様」
捻りのない呼びかけの低い声がとても怖い。確実に怒っているメイドの圧力からか、抱き着いてきてくれた金髪美少女の喜びの感情ですら、今のメイドの感情は相殺できないだろう。
「美月、僕にも考えがあるんだ。大丈夫何かあっても僕が全部食べるから」
「まあ! 啓さん私の料理を全て食べてくださるんですの? それでしたら腕によりをかけて作らなくては!」
どうやらやる気になってくれているみたいだ、美味しくは無くても愛情さえ入っていれば最低限食べられるくらいになる! はずだ。大丈夫、大丈夫なはずだ。
「啓様ちょっとこちらへ来てください」
凉坂さんから引き剝がされるようにキッチンへ向かわされる。そわそわしているお嬢様をよそに内緒話をするのは何処か心苦しい。
「啓様は彩様に甘すぎです。少しは我慢させることも覚えさせなければいけません」
「なるほど、でもいいじゃないか料理位なら」
「くらいですって? 啓様はあの惨状を見ていないからそんな事が言えるのです」
美月は震えた肩を自ら抱きしめ、気分を落ち着かせるかのように言った。
「でも、料理なんてみんな最初からうまいもんじゃないだろう? 尚更、練習とかしないと上達しないんじゃないか?」
「啓様、なんで貴方が彩様の料理を許したかの理由が分かりました。あなたは壮大な勘違いをしています。彩様の料理は決して下手なんかじゃありません、栄養的な観点から見てもとても良く、味も美味しいです」
妙だ。だったら……。
「だったら料理を止める理由なんてないんじゃないのか?」
分からなかった。下手以外で料理をさせない理由が特に思いつかない。
「はぁ、もうこうなってしまっては彩様は簡単には止まりません、好きに料理をさせて収まるのを待つしかありません」
心底疲れたかのような美月の顔を見てかなり申し訳なくなる。
「ごめん、でもまあ何か起きても僕が頑張ってなんとかするから」
「いいましたね? 啓様ではよろしくお願いします」
メイドは自分の持ち場に戻り料理を続けた。確かに僕が決めたことだ、他の誰かに迷惑をかけるわけには行かない。例えどんな事があっても美月に頼るのはやめよう。
「凉坂さん、お待たせ、料理していいみたいだよ」
しっかりと話を聞いた以上はあまり乗り気がしなかった。でも一度言った事を変えてはこの楽しそうにしているお嬢様に申し訳ない。そんな思考が僕の中に渦巻いている。
「ありがとうございます! 私啓さんのためにとびっきり美味しいものを作りますわ!」
そう言いながら凉坂さんは美月のいるキッチンへと小走りへ向かった。美月は呆れた顔はしたものの、我関せずという風に料理を続けている。
「じゃあ始めますわよ!」
言葉が聞こえた。次の瞬間爆発音が部屋中に鳴り響く。
音源を視界で追うとそこにはペチャンコになった肉が宙を舞っていた。
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