第32話 全部〇〇のせいですわ!ぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁっぁっぁっぁぁっぁ

肉片が散り散りになり、ありとあらゆる部屋の壁へと付着する。さっきまで彼女の手の中に300gくらいあった大きなひき肉は、今は100g程しか見当たらない。

150gは恐らく壁や床に付着し、残りの50gは不思議な力により何処か欠片もなく異空間へと消えたと考えるのが妥当だろう。

そのくらいの爆発音だった。


その音に対して驚いた僕にメイドは恨むような目を向ける。

多少距離があったから肉片が飛んでこなかった僕と、近くで料理をしていて音もひき肉ももろに浴びたメイドでは確かに怖さなどが違うだろう。


「啓さん知ってますか、ハンバーグってこうやって手を使いキャッチボールをするみたいにひき肉に空気を抜くと美味しくなりますのよ!」

凉坂さんが自慢げに知識を披露する、確か家庭科の授業で同じようなことを学んだような気がする。それにしてもおかしい、こんなのは料理じゃない。


「啓様これはあなたが望んだ結果です、私は別室にて料理を進めてまいりますので、彩様の相手はお任せいたします」

メイド服に付いた粉々の肉を取りながら、美月が恨めしそうに小声で耳打ちしてくる。


「美月ごめん、君の言うとおりにしておくべきだった、でも凉坂さんの料理方法知ってたのに何で最初からよけれなかったんだ? 嫌味とかじゃなくて素朴な疑問で」

本当に美月には申し訳ない事をした。ちゃんという事を聞いておけば美月も僕も力自慢による謎の恐怖パフォーマンスを受けなくて済んだのに。


「反省して頂けたのなら何よりです、私がよけなかった理由は啓様にちゃんと反省して頂きたいという気持ちが強いです」

真っすぐなメイドの瞳が心にやたらと突き刺さる。やはり年上というだけあって人生経験では増されるような気がしない。僕の過ちに対して身を挺して教えてくれる、今までこんな人はいただろうか。


「本当にごめんなさい」

「いいんですよ、それに私も普段怒らないお嬢様に理不尽に嫌がらせをされたかったですし」

普段の調子を取り戻すように、美月はその言葉を言った。それでも僕がごめんなさいと言った事に対して「ごめんなさいじゃなくて、私に『生意気言うな』と怒ってください」とドMとして怒っていない事を見ると、教育するという気持ちは本当だったんだろう。


隣の部屋へと移動する美月の姿は何処かちょっと大きく見えた。


バァン! そんなしんみりしている気分も束の間でまた新たな爆発音が聞こえた。凉坂さんがキャッチボールの二回目を始めたのだ。

「凉坂さん、もう少し弱くてもちゃんと空気がいい感じになるんじゃないかな?」

恐る恐る進言をする。怖いからと言って何も言わないのは良くない。勘違いを生むとまた、朝人と会った時みたいに修羅場になると僕は学んだ。


「ちゃんと空気を抜くことが素晴らしいハンバーグへの第一歩なのですわ! 徹底的に空気の追い込みをしますわよ! 逃げるような空気は絶対に許しませんわ!」

言いたいことは言った。それでこの回答ならば彼女の考え方を変えるのは難しい。


僕は今日も諦めて、爆発音クッキングの隣で肉片の回収を始めた。許可を出してしまった戦犯として掃除くらいはしておこう。

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