第24話 怖い?誰がですか? ああ、美月ですわね!
「何でもしてくださるんですよね? でしたら啓さん止まってほしいですの! 怖い事は何もありませんのよ!」
後ろから凉坂さんが太陽のような笑顔をしながら、女子高生でロングスカートとは思えない凄いスピードで追いかけてくる。
僕のがれきのような足では太刀打ちする事も出来ない。追われてる、文字通り恐怖が後ろにピッタリと張り付いている。
「けーいさん!」
後から肩を掴まれる。体中が鎖で縛られたかのように微かな震え以上の動きが制限された。明るい声をした天使、いや、悪魔に完全に捕らえられた。
「は、はいなんでしょうか?」
元々低い声ではないが、動揺で声が裏返りかなり高い金切り声が出てしまう。
「どうして逃げようとしたんですの?」
「それはですね、何といいますかね。無性に何か怖くなったと言いますか、本能が訴えかけてたと言いますか」
「それは大変ですわね! 直感に勝るものはありませんわ、でもどうして本能が訴えかけて来たんですの?」
彼女は殴られると痛い事を知っているのに、なんでデコピンは痛くないと思っているんだ。受けたことないけど絶対痛いだろう。
「多分だけど、恐怖の原因を目の前にして言うのは気が引けるというかなんというか」
「あら、どうしてそんな申し訳なさそうな顔をするんですの? まあ分かりますわ、美月は時々不思議な顔をしますもんね、確かに啓さんが直感的に恐怖を感じてもおかしくないですわ!」
違う、そっちじゃない。
確かに美月はドMっぽくて、時々罵倒して欲しそうな顔とか、意地悪されたそうにしてる雰囲気とか、普段のドSと比較したりするとめっちゃ怖いけど、そうじゃない。
怖いのは馬鹿としか言いようのない力をした美しい女性の方だ。
「まあ、そんな所です」
怖くて凉坂さんに対しての訂正をすることが出来なかった。彼女は割と理性的な人間?だが何か怒らせてビンタでもされたら死ぬ。まじで冗談じゃなく頬の骨が折れる。
「はぁ……。はぁ……。いいえ、彩様違います。啓様は嘘を付いています。啓様は彩様のデコピンが怖くて急に逃げ始めたのです。全く、はぁ……、はぁ……情け、はぁ……ないですよね」
ぜえぜえと息を吐きながらようやくと追いついてきたメイドが真実を勝手に伝え始めた。おい、なんてことをしてくれるんだ。悪かったって、美月が変態で怖いって言ったの悪かったって。
「いや、そんなことない、そうだよな美月?」
出来るだけ美月が喜ぶように冷たい目と低い声で発言した。
「ハァ…ハァ。そういうことに、したいの、でしたら、仕方、ありませんね、そんなことないかもしれません、ですが、私にも考えが、あります」
興奮なのか、まだ疲れているからか分からないが彼女は僕に力を貸してくれた。考えがあるのは怖いがそれは、その時に考えるようにしよう。
「そうでしたか! ではデコピンだけで許してあげますわ!」
『だけ』という言葉を聞いて、心から安堵する。
いや、でもデコピンは本当に嫌だ。しかし、何事も命には代えられない。甘んじて受け入れよう。
「では行きますわ! 覚悟はよろしいですか?」
罰への宣告が始まった。仕方がない。仕方がない。もうやるしかない。
覚悟を決めろ!
「お願いします!!!!」
自分の頭蓋骨の硬さに全てを掛けてそう叫んだ。
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