第25話 啓さん、女性に年齢を聞くなんて酷いですわ!
おでこに衝撃が走る。
鈍い音が脳に響き、たんこぶのような強烈な腫れものが完成した。
「んー!”” あjdしおf」
いくら覚悟を決めようとして口を閉じていても喉の底から叫び声が出た。男でも無理、自分の頭蓋骨の硬さは少女の指先一つより劣っている。
「啓さんいいですか? 反省しましたか?」
年上のお姉さんが近所の子供を諭すような言い方だった、ここは僕が大人であり、強い男である事をちゃんと示すためにスマートに返事をしよう。
「んー!””んんんんんn」
スマートな言葉は一ミリも出なかった。でも反省したことをちゃんと言わなければ、『心苦しいですがもう一発ですわ!』などと言われてフルボッコにされてしまう。だから意思表示をちゃんとしなければと、頭を下げ続けて反省したことを誠心誠意伝えた。
「啓さん、反省しているのでしたらちゃんと反省の言葉を言わなければダメですのよ! 私は優しいのでここで許して差し上げますが、私が厳しい家のお嬢様でしたら許してませんでしたわよ。気を付けてくださいまし」
一瞬ドキッとしたが、よかった。凉坂さんのお父様やお母様に会ったら優しく育ててくれたことに心からの感謝をしよう。
その後何でこんな強い力をつける教育をしたのか3時間以上問い詰めて謝らせよう。
「はい、ごめんなさい」
ようやく落ち着いて声が出せた。これで謝罪の意思がちゃんと伝えられればそれ以上の事は望まない。
「啓様も反省しているようですので、彩様残りの怒りは私が受け止めさせていただきます」
「美月、だから私はあまり暴力が好きじゃないんですの。啓さんもちゃんと嘘を付かずに謝ってくださいましたし私は嬉しかったですわ。」
いつもの二人の夫婦顔負けの漫才が始まった、ダブルボケのコンビの会話は聞いていてそれなりに心地が良い。
「そ、それにですね、私は啓さんが嘘や演技でも一瞬昔に戻ったみたいですごく嬉しかったですわ」
顔を赤らめながら彼女は言う。昔に戻ったみたい、いったいどのセリフや行動を言っているんだろうか。僕は演劇をする人間でもないし、今日は恐怖から逃げるために安易な嘘は付くが人を本気で騙そうと思う嘘を付くことはたぶん少ない。本当に彼女は何に対して喜んでくれているんだろうか。
何はともあれ、凉坂さんが怒ってないしいいか。
夕暮れが校舎を照らして、お腹も少し減る時間になって来た。そろそろ彼女たちも校舎を大体理解し終わっただろう。
「じゃあそろそろ退散しますか、二人とももういい?」
「まあそうですわね、啓さんの友達を作る計画は今後に持ち越すことにしましょう!」
自信満々な姿から感じ取れる、諦めてなかったか。というかこれから諦める気も無さそうだ。
「うん、まあそうだね」
「では、帰りも私の運転で帰りますね」
「美月お願い」
「帰りもお願いしますわね。美月」
あれ、待って、今気が付いたけど美月って免許持ってるよな。ってことは最低でも18歳……。そっか、そうなんだ。こんなドMで僕や凉坂さんの事を聞いているのに、年上じゃねえか!!!
触れにくい。とても触れにくい。いや、名家にだけ許された僕の知らない特権があるかもしれない。一応確認しておこう。
「あの、美月さん」
「美月です、もう忘れたんですか? やっぱり啓様はアホですね」
「美月、一つ教えて欲しいんだけど歳は?」
「啓様女性に年を聞くなんて最低です。見てわかりませんか?」
冷徹に突き返す彼女の顔は、次僕が言う仕返しの言葉への期待が明らかに混ざっていた。
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